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恋する百人一首①

 百人一首は、百人の歌を一首ずつ選んだもの。全部で百首ある。100のうち43が「恋の歌」であるといわれる。今も昔も人の心を動かすものは「恋」のようだ。恋してしまえばどうしようもなくなり、自分の心を静めるためにも歌を詠む。思いを伝えるためにも歌を詠む。
 そうして歌が歌い継がれた。

 百人一首というものは、百人の歌人から一首ずつ選べば、百人から一首で百人一首。誰でも作られる。当時は、そんな遊びがあった。そんな中で「小倉おぐら百人一首」がカルタになり、有名なので、ここでは「小倉百人一首」を「百人一首」と記している。
 「百人一首」は鎌倉時代に藤原定家さだいえが京都小倉山おぐらやまでまとめた。

 43首ある百人一首の恋の歌を全て見てみる。(各歌の最初の番号は、43首の通し番号、後の数字は百人一首の本来の通し番号)


1―3 あしひきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む

あしひきの山鳥やまどりの しだりの ながながしを ひとりかも寝むねん  柿本人麻呂かきのもとのひとまろ

 山鳥の長く垂れ下がった尾のように長い長い夜を、私は一人寂しく寝るのだろうか。

 山鳥は長い尾を持っており、オスメス別れて1羽で寝るといわれる。あなたと一緒にいたい。あなたと寝たい。一人の夜は長く辛い。その思いを「あしひきの山鳥の尾のしだり尾の」という序詞じょことばで例えている。「あしひきの」は「山」をだすための枕詞まくらことば。飾りの言葉をたくさん使いながら、「ながながし夜をひとりかも寝む」が言いたいこと。ひとり寝の寂しさを詠う。万葉集の時代の「歌聖かせい」と呼ばれた人麻呂の歌から始まる。


2―13 つくばねの峰より落つるみなの川恋ぞ積りて淵となりぬる

つくばねのみねより落つるみなの川 恋ぞつもりてふちとなりぬる  陽成院ようぜいいん

 筑波山つくばさんの峰から流れるみなの川も、やがては深い淵をつくるように、あなたへの私の恋もしだいに淵のように深いものとなってしまった。

 ちょっといいなと思ってから、好きになった人のことが、どんどん好きになっていく。そんな恋の思いを詠う。現実の陽成院は、この歌を贈った相手と結ばれたようだ。


3―14 みちのくの忍ぶもぢずり誰ゆゑに乱れそめにし我ならなくに

みちのくのしのぶもぢずりたれみだれそめにしわれならなくに  河原左大臣かわらのさだいじん

 奥州のしのぶもじずりの乱れ模様のように、私の心も乱れている。私のせいではない、あなたのせいで心が乱れる。

 「忍ぶ恋」を詠った歌。結ばれない恋に心乱れる様を、乱れ模様で例えている。あなたのせいで私の心は乱れている。作者、河原左大臣は、源融みなもとのとおるのこと。天皇の息子でありながら、臣下となった。


4―18 住の江の岸による波よるさへや夢の通ひ路人目よくらむ

住の江すみのえの岸による波 よるさへや 夢の通ひ路かよいじ 人目ひとめよくらむ  藤原敏行朝臣ふじわらのとしゆきあそん

 住の江の岸に打ち寄せる波のようにあなたに寄り添っていたいが、 どうして夜の夢の中でさえ、あなたは人目をはばかって会いに来てはくれないのだろう。

 「寄る」と「夜」のダジャレになっている。人目をはばかる忍ぶ恋。せめて夢の中だけでも会いたいのに、あなたはやって来ない。


5―19 難波潟短き葦のふしの間も逢はでこの世を過ぐしてよとや

難波潟なにわがた みじかあしのふしの逢はであわでこの世をぐしてよとや  伊勢いせ

 難波潟なにわがたあしふしと節の間のような短い間ですらも、あなたに逢わずにこの世を過ごせと言うのか。

 ほんの少しの短い間も、あなたに会わずにはいられない。いつも一緒にいたい。そんな思いを「難波潟短き葦のふしの間も」という序詞じょことばで飾って表現する。「ふしの間も」=「短い間も」を引き出す。待つことが宿命だった当時の女性から、男性に対して「逢いたい」と切々と訴えかける。


6―20 わびぬれば今はた同じ難波なるみをつくしても逢はむとぞ思ふ

わびぬれば今はた同じ難波なにわなる みをつくしても逢はむあわんとぞ思  元良親王もとよししんのう

 あなたに会えなく、思いわび暮らしていると、もうどうなってもいい。難波のみおつくしのように、この身を捨てても会いたいと思っている。

 「澪漂みおつくし」と「身をくす」の掛詞かけことば澪漂みおつくしは海に建てられた水路を示す船用の標識。作者元良親王が、時の天皇の妃との不倫が発覚したときの歌。それでも会いたいと詠う。


7―21 今来むと言ひしばかりに長月の有明の月を待ちいでつるかな

来むこん言ひしいいしばかりに長月ながつき有明の月ありあけのつきちいでつるかな  素性法師そせいほうし

 今すぐ行くとおっしゃるので、長い夜を待っていたが、とうとう有明の月が出る頃を迎えてしまった。

 作者は男性の僧侶だが、女性の心を詠っている。当時の貴族の女性は、妻問婚つまどいこんであり、女性が夜に男性の来るのを待っていた。ずっと待っていても来ない男性。


 全43首を全て紹介するととても長くなる。あんまり長い文章は嫌になる。いくら好きな人でも、四六時中一緒にいると息苦しくなる(個人の見解です)。ほどよい長さが最適。だから今回は7首で終了。

 恋の歌は次回へ続く。


 見出し画像はぱくたそからお借りしました。
 私は男です。だから女性が好きです。いくつになっても女性が好きです。いくつになっても恋にときめきたいと思います。



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