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いなかのねずみと町のねずみ
いなかで田んぼと畑を耕している田中には幼なじみがいた。
今では町でギャングをしている町田だ。
ギャング。
恐ろしい言葉だが、町田は昔からギャングだったわけではない。昔はただの子どもだったが、町へ出て、いろんなことを経験するうちに、いつの間にかギャングということになっていたのだ。
町田と田中は子どもの頃、よく一緒にいた。よく一緒に遊んだ。
昔から性格も生活も正反対なのだが、なぜか二人は気が合った。
町田が久しぶりにいなかに帰った。
都会の生活にすっかり慣れてしまった町田には、かつて暮らしていた田舎がなにか別世界のように思えた。
俺はこんな何もないところで生活していたのか。
町田はそんなことを思った。
町田が田中の家に寄ると、田中は相変わらず貧しい家で貧しい食事をしていた。
「おいおい。まだこんな食事をしているのか。せめてファミレスへ行くか、コンビニで何か買ってきたらどうだ」
「あっ、ここらにはファミレスもコンビニもないのか」
田中が住んでいる町田のふるさとにはファミレスもコンビニもなかった。
「こんな暮らしをやめて、俺と一緒に町へ行かないか。町は楽しいぞ」
田中は町田について町へ出た。
町田はミシュランの星がついたレストランへ連れて行った。
「どうだ。おいしいか」
確かにおいしい。今まで食べたこともないようなおいしい食事を楽しんでいると、いきなりレストランの入り口に数人の男が現れた。
「うわっ、やばい。逃げろ」
町田と対立する組織の殺し屋がやってきたのだ。
バンバン。
ピストルまで飛び出す。テレビのドラマのようだが現実だ。
田中と町田は命からがらレストランを脱出した。
うまく逃げ出すことに成功した。
やっと心臓の鼓動が収まると、田中が言った。
「こんな暮らしはまっぴらだ。僕はいなかへ帰る。貧しい食事でも、いなかにこんなに危険なことはない。安心して食事ができる」
「……」
「では、さようなら」
田中が町へ行くことは二度となかったし、町田がいなかに帰ることも二度となかった。
二人の友情はあっけなく終わってしまった。