古川柳つれづれ 衣川さすが坊主の死にどころ 柄井川柳の誹風柳多留三篇②
江戸時代に柄井川柳が選んだ「誹風柳多留三篇」の古川柳作品の紹介。
読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。
自己流の意訳を載せているものもあり。七七のコメントもつけたりしている。
衣川さすが坊主の死にどころ
146 衣川さすが坊主の死にどころ 見事なりけり見事なりけり
衣川という名前の場所で衣姿の坊主の弁慶が死んだ。敵の矢を全身に浴び、立ったまま死んだという「弁慶の立ち往生」で有名。
前句が「見事なりけり」なので、見事な最期だった。
衣川衣の坊主が死ぬ所
人の死さえもダジャレで笑う
歴史的なことを扱った川柳だが、現実世界をあからさまに詠むと「おとがめ」もあった身分社会。歴史にことよせて現実社会を詠むことが多かった。
とはいうものの、江戸庶民の歴史認識は、物語から得た知識。NHKの大河ドラマや戦国時代のゲームから歴史だと思う現代社会と同じような物。
そもそも武蔵坊弁慶という人物が実際にいたかどうかはわからない。源義経に協力した僧兵の姿が弁慶という人物に凝縮されたものらしい。弁慶の話自体が創作。何本も矢がささったまま立っているなんて、マンガの世界の話でしかない。
当時の人は義経や弁慶の話をよく知っていた。現代の子どもたちは牛若丸の話も知らない。「京の五条の橋の上~♪」。それどころか、ちょっと前の我々には当たり前だったことも知らない。
鉄腕アトムは七つの威力だが今の子は知らない。ブラックジャックですら知らない。ライオンキングは知っていても、ジャングル大帝レオは知らない。手塚治虫は遠くなりにけり。でも、子どもたちに動画を見せると喜んで見てくれる。せっかくのネット社会だから、いいものを子どもたちに見せたいもの。
傾城の枕一つは恥のうち
166 けいせいの枕一つははぢの内 まぎれこそすれまぎれこそすれ
いろんな枕を使う、つまり誰とでも寝る素人は淫売だが、傾城は客と寝るのが商売。たった枕一つ、つまり一人の客しか取れないのは恥となる。人身売買の売春ではあっても、そこにさまざまな人の思いがある。
傾城は遊女のこと。国を傾けるほどの女性だというところから呼ぶようになった。
風俗で客一人だけ恥ずかしい
人気ある人たくさんの客
四百づつ折々母はたばかられ
144 四百づゝ折折母はたばかられ さがしこそすれさがしこそすれ
四百文は四六見世という安い遊女屋の代金(1文が12円で考えると今の4,800円くらい)。また、「嘘八百」という言葉があるが、八百まではいかずに、その半分くらいのウソを息子がついて母親をだましているという意味もこめている。
見え透いたウソでも母はだまされて
息子可愛や可愛や息子
たぬき汁化かされたのが一の客
173 たぬき汁化かされたのが一の客 あくな事かなあくな事かな
たぬき汁を作ったが、最初によばれたのがたぬきに化かされた人だった。
たぬきやきつねが人を化かすことはあるわけがない。当時は不思議なことがあれば「たぬきに化かされたんだ」と思ったのだろう。たぬきやきつねだけでなく、多くの妖怪も考えた。
さて、たぬき汁はみそ味だそうな。これまた、本当のたぬきは脂臭いので、実際においしいのははタヌキに似た姿のアナグマ汁らしい。
たぬき汁化かされた人が初の客
うれし恥ずかし食後の感想
おばけを信じ、妖怪を想像し、物語が本当の歴史だと思っていた江戸の人々。AIが絶対だと信じる現代人とどこが違うのか。