古川柳つれづれ 焼香を先へしたので後家と知れ 柄井川柳の誹風柳多留二篇③
江戸時代に柄井川柳が選んだ誹風柳多留二篇の古川柳作品紹介。
読みやすい表記にしたものの次に、記載番号と原本の表記、前句を記す。自己流の意訳を載せているものもある。
乳母が手へわたると羽子も二つ三つ
107 乳母が手へわたると羽子も二つ三つ じやまな事かなじやまな事かな
若い娘が羽根つきをしているところへ、子どもを抱いた乳母がやってきて、「私も」と羽根をついたけど、2・3回で羽根を落としてしまった。「じゃまなこと(じやまな事かな)」だなあ、という句。
乳母をじゃまもの扱いした差別的な句ではあるけど、昔は、乳母や子守という仕事もあった。
座頭の坊しごく大事に芋を食い
149 座頭の坊しごく大事に芋をくい ぎやうさんなことぎやうさんなこと
座頭の坊は、頭を剃った盲人。按摩などで生活していた。芋はサトイモ。つるつるしていてつかみにくい。盲人がやっとつかみ、大事そうに食べている。それを「大げさなこと(ぎょうさんなこと)」と言っている。
目の見えない人を差別した句ではあるけれども、目が見えなくても普通に生活しているのが江戸時代。金貸しの盲人もいて、裕福な生活をしている人もいた。差別をしながらも当たり前に生活していた江戸時代と、差別はダメだと言いながら差別が残っている現代。どう進歩したのだろう。
焼香を先へしたので後家と知れ
247 しやう香を先へしたので後家と知れ ふうのよいことふうのよいこと
葬式の焼香は順番が決まっている。親族の中にきれいな女性がいる。あれは誰だろうと思っていると、一番最初に焼香をしたので、未亡人だとわかった。
後家は、周りの男にとっては色っぽい存在。「ふうのよいこと」という前句だから、見た目のいい女性だったのだろう。葬式で不謹慎だが、家庭内のことを知らない参列者にとってはエロい目で見てしまいがち。
焼香を先にしたのが若い妻
女房になぶられて出る地紙売り
285 女房になぶられて出る地がみ売 こしらへにけりこしらへにけり
地紙売は扇に貼るおしゃれな紙を売る。女性相手の商売だから、前句「こしらえにけり」で、身なりをこしらえて商売に出る。当時は派手な服装で女性相手の商売だったそうだ。その夫の様子を女房が嫌みを言うのだ。
「嬲る」は、困らせたりいじめたりして楽しむこと。からかってバカにすること。「あんた、そんなかっこうをして、いい女でもいるんじゃないの」と嬲る。「嬲る」とは、なんともなんともな意味と文字(女が二人の男に囲まれる)。
現代なら
女房になぶられ出勤ホストかな
吸い付けて煙をいただく野がけ道
299 すい付けてけむをいただくのがけ道 かく別なことかく別なこと
煙草は、南米原産のものを、コロンブスがヨーロッパに持ち帰り、日本には鉄砲とともに伝わった。梅毒とともにあっという間に世界中に広まった。
日本では、昔はキセルに刻んだ葉をつめて、そこに火をつけていた。マッチやライターなんてないので、外出時には火を手に入れることに苦労した。たまたま見かけた農民から、「火を貸してください」と火種をもらい、吸い付けたのは「格別なこと(かく別なこと)」だ。
差別はあり、男も女も喫煙していた江戸時代だが、本質的に今の我々とどこが違うのだろうか。
今も昔も、私の心の中では一つにつながっている。
うぴ子の歌も江戸時代とつながっている。
江戸の人も現代の人も、みんながんばって生きている。