
「桃太郎後日噺」①江戸時代の大人の絵本、黄表紙の不思議な世界
黄表紙は、恋川春町(1744~1789)作画の「金々先生栄花夢」(1775刊)から始まるといわれる。子どもの絵本を、大人が楽しめる絵物語とした。
春町は下級武士であり、同じ武士である朋誠堂喜三二(1735~1813)の作品の挿絵を描いたのが本作品である。
「桃太郎後日噺」(1777刊)は、朋誠堂喜三二作、恋川春町画、上下2巻。子どもの絵本でおなじみの「桃太郎」の後日譚を描いている。
笑って楽しむ大人の絵本。現代語に意訳し、挿絵も部分模写をした。江戸の人々は、こういう作品を楽しんでいた。
上巻
一

桃太郎、鬼ヶ島へ渡り宝物を手に入れ、ふるさとへ帰る。お供は、猿、雉、犬。
雉「おお、お宿が見えるぞ」
鬼ヶ島の大将、赤鬼の息子の白鬼は、なかなかこぎれいなので、桃太郎、供にして連れてくる。
白鬼「おらが住む島と違って、なかなかおもしろそうな所じゃ」
二

桃太郎の父、山右衛門、母のお川、桃太郎が帰ってきたのを喜ぶ。
山右衛門「祝いの盃じゃ」
下女のおふく、酌をする。
おふく「見かけと違って、やさしそうな鬼殿じゃ」
白鬼「私は新参者でございます。犬殿、猿殿同様に、すみからすみまでご贔屓をお頼み申し上げます」
桃太郎「なかなか心のやさしい鬼でござります」
三

桃太郎「打ち出の小槌で七千両打ち出したら休憩しよう。腰が痛くなった」
犬「これで四百両でました。ワンワン」
猿「もう小判も見飽きてしまいます。キャッキャッ」
白鬼「私はいつまでもお仕えいたします」
雉は、ふるさとのことや子どものことが気になって、暇をもらって、ふるさとへ帰る。ケーン。
山右衛門は、雉の好きなヘビをつかまえ、土産に渡す。
山右衛門「これをかばやきにして食わせよ。ヘビは漢方でも薬として貴重じゃ」
四

桃太郎十六歳になりければ、元服して、「きんきん」の男となりけり。このついでに、白鬼も元服させる。
桃太郎「俺が流行の男にしてやろう。まず髪の毛を真っ黒にして、月代に剃った頭に青い色をつけて、ツノがあった跡は髪の毛で隠そう。名前は、鬼の字を用いて鬼七とつけてやろう」
母お川「ツノを切った跡が痛みはせぬか。おお、むごたらしい」
鬼七、剃り落としたツノを薬の大坂屋へ持って行けば、珍しいものなりと、一本を十両、二本で二十両で買ってくれたので、おおいに喜んだ。
猿は、鬼の元服姿を見て、うらやましく思い、「私も元服したい」と願いける。
猿「ついでに、私もお願い申し上げます」
六 五

五
おふく「おまえは、人まねではなく鬼まねだね。鬼七殿のようなイキな男にはならないねえ。おまえの名は猿六とつけられたって。いやな名だねえ」
鬼七「俺と違って、毛がぼさぼさだから、アデランスやアートネーチャーを使っても、ちょんまげは結いにくかろう」
猿「ふん。おまえのような硬い髪じゃないさ。いらぬおせっかいじゃ」
犬「これこれ、カミソリを使っているときにしゃべると、切れてしまうよ」
六
猿、元服して、これも猿の字を用いて猿六と改め、流行のちょんまげにし、薄化粧もして、色男気取りでいるけど、顔はまるで猿のような猿だったが、調子に乗って、おふくをくどきにかかる。
猿六「二人は結ばれる運命だと思って、お猿のお尻のように色よい返事をしてくれよ」
おふく「あつかましい。いまいまましらだ」(猿の古語は「ましら」)
桃太郎「いやなやつじゃのお」
七

おふく、鬼七の男前に惚れてしまいラインを送ると、鬼七も鬼のあさましさ、おふくを大切な女だと思い、えっちをしているところを猿六に見つけられ、ラインまで見られて困ってしまう。
猿六「こいつはこいつは、こいつはとほうもない。あつかましい、いまいましい。きゃっとも言ってみろ」
鬼七「鬼のままがましらだった。鬼ヶ島ならこんなことはあるまいに」
おふく「お許しください」
恋川春町画
上下巻の上巻はここまで。一巻は5枚の紙を二つ折りにしたものが本文。見開きページもある。
画工恋川春町は駿河小島藩に務める倉橋格が本名。一方の作者朋誠堂喜三二は本名平沢常富で、出羽久保田藩の江戸留守居役というけっこうな身分だった。
町人だけでなく、こういう武士たちもシャレた黄表紙を作っていた。
来週の下巻につづく。
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