おいしそうなところが好きで|思い出図書 vol.01
子どもの頃のことを思い返してみると、ずいぶんな数の絵本があったなぁと思う。
正確なサイズはもうわからないが、おそらく一般的な本棚ひと竿分に、絵本がみっちり詰まっていた。
その中でもお気に入りの絵本が何冊かあって、すべてに共通するのが「おいしそうなものが出てくる」ということだった。
しろくまちゃんのホットケーキの、白い生地に焼き色がついてぷっくりと膨らむ様子。
11ぴきのねこたちが作るコロッケに、タイトルは忘れたが、森に迷い込んだ女の子が勝手に食べてしまった、くまさんお手製のスープ。
ヘンゼルとグレーテルに出てくるお菓子の家はもちろんのこと、目印としてちぎって落としたパンのかけらも何やらおいしそうだった。フランスパンっぽかった。
しかし絵本で「おいしそう」といえば、まずこれだろう。
「ぐりとぐら」。
カフェの紹介記事などで「ぐりとぐら」のカステラを彷彿とさせるような(あるいは、明確に再現と謳っている)メニューを見つけると、俄然行きたくなってしまう。行かないのだが。
ぐりとぐらたちが作ったカステラは、幼少期のわたしが知っていた「カステラ」ではなかった。
わたしが「カステラ」だと認識していた食べ物は、一言でいうと「文明堂のカステラ」だ。
四角くて、上と下が茶色で、下の茶色はザラメのしゃりしゃりとした食感と甘みでとりわけおいしい。紙にくっついてしまった部分が惜しくて、紙ごと口に入れて食べ、下品だと怒られた。
なんでこんな紙が敷いてあるんだ……と思ったものだ。
そういえば、子どもの頃にはよくテレビCMも見た。
「カステラ一番、電話は二番、3時のおやつは文明堂♪」というやつだ。
ねこが踊っていた気がする。
ともあれ、子どもながらに「カステラ」と認識していたものと、ぐりとぐらたちが作った「カステラ」は全く異なっていて、好奇心と食欲が刺激された。
ただでさえおいしいカステラ。
よくCMで見ていても、滅多に食べることはなかったカステラ。
大きなフライパン(今風にいえばスキレット)に入った、黄色のふあふあの、未知のカステラ。
「枕の下に敷いたものが夢に出てくる」とかいうおまじないを知った時には、真っ先に「ぐりとぐら」の絵本を敷いた。
夢にまで見ようとしたものを、もしかしたら簡単には叶えたくないのかもしれない。
ぐりとぐら(中川 李枝子 作 / 大村 百合子 絵)
福音館書店