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【SF小説】ユニオノヴァ戦記 I ー はじまりの事件①  ※改訂版

※襲撃シーンを含みますが、過度な暴力表現は避けています。ご自身の判断でお読みいただけたらと思います。(今回文章を大幅改訂して引越してきました。)


「戻れ!ヴィクトル・シャンドラン!!」

 騎士候補生第三部隊の教官ギルバは宙港警備隊ちゅうこうけいびたいの装甲車両内で、臨時に設置された司令本部のモニターを食い入るように見つめていた。

 できることなら、すぐにでもヴィクトルの元に駆けつけ、引きずってでも彼を装甲車内に連れ込みたい。

 しかし、特殊な遺伝子アップデートを繰り返し受けているヴィクトルに、そのようなことをできる者はいない。教官であるギルバすらなす術はない。

 無力感に苛まれ、時間ばかりがすぎていく。ギルバは唇を噛んだ。


 衛星要塞都市えいせいようさいとしユニオノヴァを構成する五つの衛星間を繋ぐ中継ステーション、エルダの第一プラットフォームに騎士候補生のヴィクトル・シャンドランは立っていた。

 プラットフォーム内は先ほどまでの喧騒けんそうが嘘のように、辺りは異様な静寂に沈んでいる。

 彼の周辺には、人工人体ネウロノイドとアンドロイドの残骸が無惨な姿で百体以上転がっていた。

 ヴィクトルは停泊している地上行きの車両運搬用宇宙船アリアに向き直ると静かに歩き始める。

「アカデミア騎士団が到着まで待機だ!これは教官命令だ!!」

 声は焦燥で震え、大きくなる。しかし、ギルバの声は、虚しくプラットフォーム内に響き渡るだけだった。

 ヴィクトルはタラップに足をかけ、アリア内部に向かう。

 ギルバは自身の限界を呪った。これ以上学生に犠牲者を出したくない。焦る気持ちと不安が募り、呼吸が荒くなる。

☆                                         ☆                                       ☆

 第一プラットフォームで事件が発生したのは、アカデミアから騎士候補生10名が中継ステーションエルダへ見学に訪れていた時だ。

 本来の目的は、来月から始まる実習に先立ち、受け入れ先を最終決定する現地視察のためだった。

 候補生たちは、宙港業務に携わっているネウロノイドの案内の元、セキュリティー本部を中心とした警備体制の説明を受けたり、人工人体の制御室の見学、実際の活動の様子を視察するなどしていた。

 ターミナルのセキュリティー業務を一通り見学したのち、彼らはプラットフォームの管理・監視体制の説明を受けるため、第一プラットフォームに向かった。

 第一プラットフォームは大型輸送機体専用だ。

 この日は、騎士団が地上で使用する車両を運搬するために、積荷を終えた車両運搬用宇宙船アリアが、出航直前の最終チェックを行っていた。ちょうどいい機会だからと、最終作業を体験学習することがその場で決まった。

 候補生たちは和気藹々と、ガイド担当の陽気なネウロノイドを先頭に、説明を受けながらアリアに向かって歩き出す。

 あと10メートルほどでタラップというところだった。それは何の前触れもなく、和やかな雰囲気の中発生した。

 ガイドが、すぐ後ろを歩いている候補生二人に「あそこのハッチが見えますか?」と、右方向の少し先にあるシェルター用ハッチを指差した。

 二人は言われるまま顔を向ける。突如、後ろから歩いてきたアンドロイドが二人のすぐそばを横切り、同時に何かがキラリと二人の首元で光った。

 次の瞬間、二人は首を押さえ、静かに跪くと、赤い飛沫しぶきの中静かにうつ伏せに倒れ込んだ。急所を切られていた。

 それがこの騒動の始まりだった。


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※登場人物の画像はMSのAI画像ジェネレーターで出力したものです。


最後までお読みいただきありがとうございます。

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