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味と安心 -前編-

旅先では、いつも食事に困る。

普段見慣れないお店の数々を前にすると、優柔不断な性格の僕は「どこに入るべきか」を悩みまくってしまうのである。仮にお店を選ベたとしても、選んだ店でのメニュー選びに時間がかかってしまう。

その上、安定志向だからなのか、「その土地ならでは食文化に触れたい」とか「地元で人気のお店に行きたい」みたいな欲求は特にない。

結局、普段行くようなファストフード店や慣れ親しんだチェーン店に入ってしまうことが多い。

今、僕が【吉野家 武蔵小金井駅前店】の自動ドアをくぐった理由は、もはや説明不要だろう。

まだ午前7時を回ったばかりだというのに、店内は会社員らしき男性客たちが、チェスの最終局面のように点々と座席を埋めていた。僕は出入口側の一人席に座り、早速メニュー表を開く。

えっーと、カレーは……。あぁ、あった!

見慣れたメニューたちの中から、お目当ての品はすぐに見つかった。

右手を軽くあげて店員を呼び寄せ、希望の品を告げる。

「かしこまりました。少々お待ちください」

一仕事を終えて、スタスタと厨房へ戻っていく彼を後目に、僕はポケットからスマホを取り出した。時間を潰すにはもってこいの道具だ。

実際には、スマホを見る時間はほとんどなかった。一瞬で(体感は1分くらいだった)注文の品が到着したからだ。さすが、ファストフード店。

「いただきます」

スプーンを箸のように両手で持ち、呟くように挨拶をする。

カレーライスを載せたスプーンを口に運ぶと、いつもの味が広がった。

うまい。少しばかりスパイスが効いていて、コクがあるルーはご飯と相性抜群だ。

新鮮味は全く無いけれど、安心感が沸くような味だ。旅先の見知らぬ街で一人でも不安に駆られないのは、知らない世界の中に「知っているもの」が同居しているからだろう。旅先で失敗することへの恐怖や慣れない環境での不安を和らげてくれる存在を、僕は「食」に求めているのかもしれない。

そんなことを考えていると、昨晩訪れた個人経営のケーキ屋での出来事が思い出された。

記憶を辿ろうとしてスマホのカメラロールを開くと、一番上に「ピザトースト」と「ブレンドコーヒー」が載ったトレイの写真が表示される。

後編に続く


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