新作ゲーム「チェス・テリトリアル」のご紹介
ここのところゲーム出版のほうの活動が裏の進行上の理由で滞り気味なのですが、その間に既存のゲームコンポーネントを使って遊べる新作アブストラクトゲームをKanare_Abstract公式サイトに追加したので紹介させてください。「チェス・テリトリアル」(領土チェス)というゲームです。
どのようなゲームか
チェス・テリトリアルは変則チェスの一種で、「捕獲も移動もないチェス」をコンセプトに作られました。このゲームは通常のチェスセット一式(100円ショップのものでも)があれば遊ぶことができます。
変則チェスとはいっても、捕獲がないのでチェックメイトを目指すゲームではありません。目的は領土で、終了時に相手よりも多くの領土を獲得することを目指します。とはいえ囲碁のように「囲む」要素はありません。
手番は自分の駒を1つボードに配置することのみで構成されるため、16個ずつ駒を置いた時点、つまり32手で必ずゲームが終了する比較的コンパクトなゲームです。
どうやって遊ぶか
ルールは公式ページでPDFファイルとして全文公開していますので、ここではおおまかな流れを紹介します。
通常のチェスと同じく白が先手です。まず交互に自分のキングを、ボード端に接するマスのどこかに配置します。
以降、手番では自分の駒を1つボードに配置しますが、ポーンとポーン以外の駒(このゲームではハイピースと呼ぶ)では配置のルールが異なります。
ハイピースの場合、「既にボードに置かれている自分の駒のどれかへ、置こうとしている駒が(通常のチェスであれば)到達できる」地点のいずれかに配置できます。
と、こう文章で書くとややこしく見えますが、例えばルークを置きたいのであれば、ボード上にある自分の駒がすべてルークであると仮定して、その移動範囲内に置くことができる、ということです。
置きたい駒がポーンである場合は、「ボード上の自分のハイピースのいずれかが(通常のチェスであれば)到達できる」地点に置くことができます。
ハイピースは「既存の駒から自らの力で飛び出す」ようなイメージで、ポーンは「ハイピースの力によって射出される」ようなイメージですね。
クィーンだけは追加の制約があり、黒番はクィーンを最後の駒として取っておくことはできません(とても有利になるため)。
駒がすべて置かれたら領土をカウントします。領土は「自分の駒が置かれているマス」+「自分の駒に隣接している、駒と同色の空きマス」の合計です。ただし、自分のキングかクィーンに(縦・横で)つながっている領土は2倍で計算します(両方につながっていても4倍にはならない)。同点の場合は引き分けです。
どうやって生まれたか
「変則チェス」については、去年のエントリで特に奇抜な特徴を持つものを集めて紹介したことがあります。
この中で、近年の捕獲のないチェス「パツォ・シャコ」(平和チェス)を紹介しているのですが、ではここにさらに制約を増やして「捕獲も移動もないチェス」を作ることはできないかな、という考えを押し進めて生まれたのがこのゲーム「チェス・テリトリアル」です。
もう一つのコンセプトとして、このゲームは通常のチェスセットだけで過不足なくプレイできるものにしたいと考えました。そのうえでヒントというかベースになったのが、私自身が過去に作ったゲーム「バイナリー」です。
このゲームは「汎用ボード "チェッカー" セット」に付属しているオリジナルゲームの一つでチェッカーボードを使用します。私のゲームとしては珍しく配置できる駒の数に制限があり、ボードのマス目の数(64)の半分ということで32個(各色16)の駒を使います。これはたまたまチェスの駒の数と同じでした。
そこでバイナリーで使用している領土のアイディアと、チェスのルールを組み合わせれば「捕獲も移動もないチェス」が作れるな、と考えてこのゲームが生まれたというわけです。しかし単純に組み合わせるだけですんなりできたというわけでもなく、例えば「先手が先に駒を置く有利さ」と「後手が最後に駒を置ける有利さ」との間でどうバランスを取るかという難しい問題に対処する必要がありました。
最終的には十分バランスの取れたゲームになっていると思いますが、「キングのバランスルール」と「クィーンのバランスルール」の釣りあいがこれでベストな状態かは、限られたテストプレイの範囲ではまだ判断しかねるところもあります。「やってみたけど先手が強かった」とか「どう考えても後手が有利になる戦法がある」など、実際に試してみた感想を(方法はなんでもいいので)寄せていただけるととても嬉しいです。
似たゲームはある?
さしあたり完成した形にはなったので、もしかしたらこれで「移動も捕獲もない変則チェス」を初めて作った人間になれたかもしれないな、と思ったものの、Chessvariants.comを落ち着いて探してみるとそのような変則チェスはすでに存在することがわかりました。
ChessNim (Alfred Pfeiffer, 1997/1998) はチェスとニムのマッシュアップです。あらかじめ使用する駒の種類と数を決め、交互に駒を配置します。どの駒の移動範囲にもないマスは「フリー」で、配置によって必ずフリーなマスの数を配置前より減らさなくてはいけません。手番でフリーなマスを0にしたプレイヤーが勝利します。
同じ作者が、これに通じるアイディアでチェスと囲碁とのマッシュアップも作っています。
CheGo (Alfred Pfeiffer, 1997) では、自分の駒の攻撃範囲(移動範囲)が自分の領土とみなされます。両プレイヤーの駒の攻撃範囲にも入っているマスは中立です。手番は駒の配置のみで構成され移動はありません。また既存の駒(敵味方とも)を攻撃する位置に新たに駒を置くことはできません。攻撃範囲が無くなった駒は捕獲され除外されます。最終的に領土が多い方が勝利します。
囲碁とのマッシュアップとはいっても、囲碁と共通するのは「あらかじめ駒を配置せずに順に置いていく」ことだけなので、そういった意味ではチェス・テリトリアルと同じようなゲームということになります。ただCheGoがチェス駒の移動範囲をテリトリーに転用しているのに対し、チェス・テリトリアルでは移動範囲を駒の配置ルールに利用し、テリトリーは別のしかたで定義しているということですね。
上図をみてもわかるように、CheGoのテリトリーは視覚的にかなり把握しづらいので、その点チェス・テリトリアルに利があると自負していますが、このように過去のアイディアと比べてみるのも面白いものだと思います。
Kanare_Abstractの「その他のゲーム」のページでは、これ以外にも一般的なゲームコンポーネントでできるゲームや「汎用ボード」シリーズで遊べるゲームをまとめているので、こちらもぜひ訪れて見てください。