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時間切れ!倫理 168 宗教改革 カルヴァン 後篇

 ただ、自分は救われる人間だと思っても、やはり不安は残ります。本当に救われるのか?、と。救われるか救われないか、知る方法はあるのか? カルヴァンの回答はこうです。
 カルヴァンもルターと同じく、職業は神から与えられた天命だという職業召命観を持っています。そこで、カルヴァンは「知る方法はないけれど、神がはじめから救うと決めている人は幸運な人だから、その人は仕事、職業において成功する確率が高いだろう」という。職業で成功することと、救われる人であることは、相関関係が高いのではないかという推測です。説得力があります。
 これを聞いた人々は、成功を目指して頑張ります。成功とは何か。カルヴァンは、成功とはお金が貯まることだと言う。お金が貯まれば貯まるほど、それが成功のバロメーターなので、カルヴァン派の信者になった人は、一所懸命働いてお金を貯めます。貯めたお金は使いません。使ったら減るから。減ったらバロメーターが下がります。だから質素な生活をして、贅沢をせず、一所懸命働いて、お金を貯めに貯める。貧乏暮らしをしてるように見えるけれども、床下に金貨を貯めたツボがたくさん並んでいる。そんな感じです。  彼らが、懸命に働くのは、直接的にはお金が欲しいからではありません。自分が救われる人間であるという確証が欲しいからです。
 結果的に、このような理論建てによってカルヴァンは蓄財を肯定します。
 ローマ=カトリック教会も、ルター派教会も、蓄財に関しては否定的ですが、カルヴァン派は肯定します。時代としては、大航海時代も始まり、封建制度が揺らぎ商工業も発展し始めています。商工業でお金を儲けている人、もしくはお金を儲けたい人は、カルヴァン派の信者になっていきました。こののち、イギリスでピューリタン革命という事件がありますが、ピューリタンとはカルヴァン派のことです。オランダやフランス北部にこのカルヴァン幅広く広がっていきました。歴史的にも面白い宗派です。
 話はそれますが、イギリス国王がカルヴァン派を弾圧したために、彼らはアメリカ大陸に渡って植民地を作った。これが現在のアメリカ合衆国の源流のひとつであり、現在のアメリカの政治経済の中心にはこのカルヴァン派の流れをくむ人が多いです。「成功=お金」という考えは、今ではまさしくアメリカ的発想ですね。冷静に考えれば「成功=お金」とは言えない。そもそも人生を、成功と失敗に分けるのことに、私は違和感を覚えますが、 この考えのルーツをたどれば、カルヴァンにまで行き着くと思います。
 ※20世紀初頭に、ドイツの社会学者ウェーバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』という本で、カルヴァン派と資本主義の発展の相関関係を指摘しました。現在は、この考えには多くの批判が出されていますが、歴史に残る名著です。資本主義との関係に関する当否は別にして、この本の鮮やかな論理展開には学生時代魅了されました。授業で話した内容も、ウェーバーの本を基にしています。

対抗宗教改革
 ルター派をはじめとするプロテスタントの広がりによって、ローマ=カトリック教会の信者が減ります。これに対するローマ教会側の対応を、対抗宗教改革と呼びます。その代表的な事例が、イエズス会(イグナティウス=ロヨラ創設)の結成と海外布教です。ヨーロッパで減少した信者を、アジアやアフリカ、アメリカで獲得しようとしたのがイエズス会です。日本に来たフランシスコ=ザビエルもイエズス会でした。

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