2018年〜2019年 リーディング・ワークショップの実践報告メモ -走りながら考える授業-
前任校での実践について、書き出してみました。
私の実践の特徴は、教科書との共存です。教科書を読み書きスキルの基本を学ぶ場、リーディングワークショップを実践やパフォーマンスの場としてカリキュラムをデザインし、実施しました。
今回はRWの部分を時系列で紹介します。実践は異動後も新たな勤務校で続いています。教科書の授業部分は、今後整理してご紹介します!
つたない実践のまとめ方についてもアドバイスいただけたら嬉しいです。
1 2018年度末 1~3月 20時間 2年生2クラスに実施
【教師側の観察ポイント】
試作の「読みたいリスト」「読書記録」「RWの目的」「レターエッセイの作成」を使い、「選書」「読書」「スキルの活用」について、どのくらいできるのかを探る。
試験的実施。
【授業の目標】
1既習のスキルを活用して、スキルを習う前の読書とは違う読書体験をする。
2読書記録をとることで、自分の好みや傾向を知る。
3本を点数評価することで、他者との違いや共通点に気づく。
4レターエッセイを書くことで、読んだことに対する自分なりの考えをもつ。
【結果】生徒アンケートより
1 アンケートについて 教師の考察
◯RWへの肯定的評価8.5割 否定的評価1.5割。
◯読み書きへの抵抗感 9割改善の方向。
◯表現技法に敏感になった。
◯既習のスキルを意識した読み書きをするようになった。
◯読む時間の確保ができれば、中学生は本を読むことがわかった。
2 生徒の声 <RWを知らない人に紹介する文章(生徒アンケートから)>
〇RWは、普段あまり本を読まない私にとって、本当に良い機会だった。自分の好きな本に出会えることはもちろん、本を読むときに注意したいポイントや、コツを学ぶことができた。また、それらを実践し、本を読むことを楽しいと思えるまでに成長した。レターエッセイのように自分の感じたことを一からまとめる作業は、情報の取捨選択の練習にもなった。この活動は、何回もやることに意味があると思う。これからも、自分で本をもっと読めるようになりたいと、初めて私に感じさせてくれた活動であった。
〇友達から紹介された本は、自分では選ばない本だった。だから冒険しているみたいで面白いし、色々なジャンルを読むことができる。だから自分の本の好みを拡げることができると思う。
〇本を読むことが好きな人、嫌いな人、どちらの人でも自分に合う本を探して読むことができます。その本が飽きたら、別の本を読むこともできます。
〇本を何事もなく読んでいたけれど、RWをして、少し考えて読むようになったから、本を好きになれたと思います。
〇自分はあまり本が好きではありませんでした。ですが、1ヶ月、2ヶ月と続けていくと、本が好きになるし、国語の授業で習ったことを生かせるし、スキルも上達するので、嫌でもがんばってください!
〇RWをすることで、自分の苦手な本がわかり、自分に合った本を選ぶことができる。
〇自分の集中しやすい場所で本を読むことができる。色んな本を読めるから、自分の好きなジャンルを見つけたり、本を読む力が鍛えられたりする。
〇ただ本を読むのではなく、それを文字に反映させることが面白い。そうすることで、一層、物語や文の深みを感じることができる。
【授業への教師の所感】
〇生徒からは、概ね良好なリアクション。
〇生徒が自ら取捨選択、試行錯誤しながら本と向き合う姿に感動。
〇評価基準を明確にして実践すれば、生徒がそれぞれ、もっと目的をもった活動ができるかもしれないと感じる。
【次年度(2019年度)の目標】
〇ルーブリックの提示
〇レターエッセイの質の向上
〇時数の確保
〇WWも選択肢に入れて生徒に示す。(どうしても読めない生徒対応)
〇国語辞典等の用意。
2 2019年度 RW Ⅰ期 8月末~10月初 13~15時間 3年生4クラスに実施
【教師側の観察ポイント】
・ルーブリックを提示する効果を探る。
・前年度のレターエッセイを見本にする効果を探る。
・教師の声がけやレターエッセイのフィードバックの効果を探る。
・学年全員で行う。できればパフォーマンス評価をして成績に含める。(注意!成績で脅さない!)
・前年度の経験者と、今年度初めて行う生徒の違いを探る。
【ねらい】
1既習のスキルを活用して、スキルを習う前の読書とは違う読書体験をする。
2読書記録をとることで、自分の好みや傾向を知る。
3本を点数評価することで、評価の視点を体験し、自己認識を高める。
4レターエッセイを書くことで、読んだことに対する自分なりの意味を作ることができる。
【結果】
1 Ⅰ期 生徒アンケート結果参照 https://docs.google.com/document/d/1hH4o5TcqSd9pvYE6TKShrt8-SHMDZ4mA8Lp_pIuXqLQ/edit?usp=sharing
2 教師の振り返り
◯生徒のニーズの発掘ができた。⇒Ⅱ期への課題。
◯生徒の向上心がレターエッセイから感じられた。
◯レターエッセイのフィードバックを受けて、もっとうまくなりたいという声が多数寄せられた。
◯見本があると、マネをしやすい。本の評価点と点数をつけた理由を書くスタイルが書きやすいようだ。
◯もっと読みたいという要望が多数。
◯ルーブリックを意識している生徒が5割ほど。スキルでは、特に「比較」「推測」が意識された。
◯前年度経験者が、よいお手本になった。支援者として機能していた。
◯WWの生徒が2名。期間中ずっと創作物語を書いていた。読みにくいのでシナリオ化を提案したらシナリオを書き出した。それでもわかりにくいので、絵本を参考にして、物語を書くことを提案したら絵本を複数読み始めた。この一連の関わりが、この生徒には嬉しかったようだ。
◯学年全体で行うことで、教師同士の授業フォローが可能。教師間の相談や情報交換ができる。
◯生徒は成績を気にせず、よりよいレターエッセイを書くことに集中していた。形成的評価の価値が生徒に通じているようだ。
◯残念ながら、レターエッセイ未提出者が1~2割ほどいた。しかし、成績についての問い合わせはなく、本人の中で納得できているようだ。
◯ルーブリックの表現が難しすぎた。教師の指導がぶれないという効果はあったが、生徒には理解しにくかった。
◯Googleフォームにて振り返りをした。
◯家庭で読む時間を持つことができている生徒が8割。朝読書等、学校で読む生徒が1割。本を借りない生徒が1割。
◯読めない生徒で、WWを入り口にする生徒が1名。読んだふりをしている生徒が1名。
3 成績について
今回のレターエッセイを、前期の成績に含めた。(観点は「読む」。)
レターエッセイにつけた得点を、生徒には知らせていない。(生徒からの問い合わせもない。おそらくフィードバックが具体的で役に立ったので、あまり心配していない。また、お手本になっている生徒のレターエッセイと比較して、自分の現状を理解できている。)
点数は、テスト60点に対して、レターエッセイ20点。テストの三分の一の配点に留まるが、テストに向いていないタイプの生徒に、ルーブリックをもとにした一定の評価が加えられることは絶対評価において無意味ではないと考える。
【次回Ⅱ期への目標】
・ルーブリックの言葉を優しくして、生徒にわかりやすくする。
・なかなか読めない生徒に、これまで以上に積極的に絵本を提供する。これまでは校内の絵本の活用に留まっていたが、Ⅱ期は、公共図書館から借り出す。
・全員のレターエッセイ提出を目指す。または、レターエッセイに代わるもの、こと。
3 2019年度 RW Ⅱ期 12月~2月末 30時間 3年生4クラスに実施
【教師の観察ポイント】
〇Ⅰ期のアンケートにでてきた、もっと読みたい、もっと書けるようになりたいを実現するために、フィードバックを強化したらどんな変化があるか。
〇読み返し、書き直しの推奨。
〇読み書きと受検勉強の両立を計画的に行えるように、生徒に時間の使い方を条件付きで委ねることの効果について。
〇教師のTT授業による効果について。
〇絵本の活用の効果について。
〇やさしい表現に直したルーブリックの効果について。
〇これまで最長時間の30時間における生徒の姿勢や態度について。
【ねらい】
1既習のスキルや表現技法を意識して、各自がこれまでより深い読書体験をする。
2読書記録をとることを通して、自分の好みや傾向を知る。
3自己選択した本を読み、点数評価することを通して、評価の視点を体験し、自己認識を高め、自己評価できるようになる。
4レターエッセイを書くことを通して、読んだことに対する自分なりの意味を作ることができる。
5自己をメタ認知できるようになる。⇒セルフ・ブランディングにつなげ、表現者として読み書きを楽しめるきっかけをつかむ。
【結果】
1 Ⅱ期生徒アンケート結果参照
https://docs.google.com/document/d/1-a7iLw4hqqVA11ub3QGe4FGUbG3Ge000G0itjogIU18/edit?usp=sharing
2 教師の振り返り
〇読み返したり、書き直したり、複数回レターエッセイを書いたり、という新たな動きや挑戦が見られた。この点は、Ⅱ期授業内でアピールした点だったので、半数近い生徒が反応してチャレンジしたのは嬉しいことだった。生徒も自分自身の変化や成長を感じていた。
〇読むことはできたけれど、書けない生徒が複数いた。話をきいてみると、本についてしっかり自分の考えを持っていた。同じ本を読んだ3人と教師で「どこに注目したのか」「誰の立場で読んでいたのか」「気になった表現やセリフはないか」などトークをして、書くための種を探したが、このままトークの時間を充実させればよかったと後悔。次回実践の時には「話す」時間の設定も必要だと感じた。生徒のニーズを逃してしまった。ある程度、感情移入できる作品に出会った生徒は話すことができる。30時間を投入して初めて気づいた。(ここまで時間を使わなければ出てこないニーズかもしれない。)
〇30時間の後半、ダレてくる生徒が少数だがいる。そこで絵本を投入。2回に分けて、計40冊投入した。絵本は読み切るまでの時間が短く、出会いの数を増やす効果がある。また、絵本から創作意欲を刺激されたり、自分に合う本を探す意識や紹介し合う意識が生まれたり、新しい視点を得た生徒が複数いた。スキルを使った読みの再認識にも役立った。
〇絵本は、同じ本を読んだ仲間を短時間で増やすメリットもある。生徒にとって他者の読みは刺激になっている。
〇年間40時間程度かけて、やっとRWの入り口に立てた生徒もいる。教科書の解説を聞き続けた生徒の思考を開放するには、スキルの学習も含めると100時間は必要かと思う。
〇RWだけでなく、スタイルを合わせて行った総合的な学習の時間「キャリア教育」の効果もあったように思う。学校としてのカリキュラム構成の関係性が生徒を育てている。
〇受験に向けて、スケジュールを生徒に委ねたのは正解だと思う。4コマを1クールとして、1クール内に1回は国語のテスト対策をしてよいという条件を生徒は守ったし、それぞれに活用していた。これがなければ、逆に読書に集中できなかったかもしれない。
〇妊婦の教師と介護を抱える教師の二人で行った実践であるが、お互いの不在のフォローもできたし、二人で、それぞれのクラスにいる、困難を抱える生徒の指導ができた。生徒から見たら、指導者を選べる状態になっていた。
〇どうしても読めない生徒が1名。この生徒に話を聞くと「めんどくさい」「映像化はできる」とのこと。活字を読むことへの困難がある生徒(おそらくLD)だと推測されるが、すでに多くの挫折をしてきており、素直に自己認識ができない(プライドを守ることが優先)状態。今は、これ以上のアプローチは難しいと判断した。このような状況になる前に、この生徒が、多様性に配慮した授業を受けられていたら、違う反応があったかもしれない。
〇読んだふりをする生徒が1名。日常生活でネット中毒、ゲーム中毒の状態であり、且つ、他者を攻撃することで脆弱な自己を守っている状態の生徒である。活字を読む力はあるものの、集中力の欠如、からっぽの自分を正視できない状態なので、読んだことについての反応をすることで評価されたり口を出されることを恐れて拒んでいる。この生徒も、今はこれ以上のアプローチは難しいと判断する。
〇振り返りの時に、ルーブリックを見返したり、Ⅰ期との自分の違いを感じたりしている様子があった。
【次回の目標】
〇時間の確保。
〇話す時間の確保。
〇教科書の授業で、話す方法の学習。(スパイダー討論、アクティブ・ブック・ダイアローグなど)
実践をまとめてみて
思いつくまま、書き出してみました。
授業者が多くの手立てをもっている必要があると感じました。授業者の修業が必要です。
司書さんの手助けも必要で、RWのチームを作って授業ができることが理想です。
回数を重ねていくことで、授業者も生徒と共に成長していきます。
教科書を教えることに意味がないことが実感できます。
『教科書をハックする』新評論
P64L2 教科書を知っておくべきことを見つける目的で使用すれば、私たちのニーズを満たしてくれるのです。
P65L7 学習は教師のために行うのではなく、自分のために行った方がいいと生徒が悟った時にエンゲイジメントが起こります。
↑ これらを実感できるのがRWだと思います。
私は「完璧を目指すより、まずやってみよう」というマーク・ザッカーバーグの言葉にならって、2018年からRWをやってみました。支えてくださる方もいました。幸運だったと思います。
バラバラのテキスト、個別に対応する、テストはどうする?、教科書はどうする?
現場の先生方の疑問は尽きないと思います。
でも、私がしたことは『イン・ザ・ミドル』のものまねです。
誰でもできることだと思います。
私は研究者ではありません。本を読んで(全部分かっているわけでもないし、部分的な理解に過ぎない程度の)意味を拾い出して、目の前の現実にあわせて授業をしている一人の実践者にすぎないのです。
本を読み、えいっ!と踏み出す勇気があれば、誰でもできる授業だと思います。
ただ、複数の本を読んで、意味をつなげていく力は必要だと思います。
力を貸してくださる方、共に実践を語り合ってくれる方を募集中です。現在の私の勤務校では、RW実践はおろか、新指導要領の理解さえおぼつかなく、教師主導の授業が繰り広げられ、テスト点数の評価で生徒を値踏みする状況が続いています。完全アウェイの状況下、静かにRWを実践しています。2020年はゲリラ的に実践を行い、生徒を育成中…。ちと寂しい…。
GIGAスクールはRWにとって追い風です。Googleを使って電子データ化して共有していく。そういう授業に即対応ができます。生徒たちこそ、最もこのRW実践の意味を理解してくれる存在になるのだと思います。生徒こそが本当の学びの実践者だから。
最後までお読みくださいましたことに感謝いたします。