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『鵼の碑』京極夏彦【秋の読書会】感想文

たいへん遅くなりました!
2024/09/11頃に読み始めたはずなんですが、感想文書くまでに一か月近くかかっているという……。申し訳ありません!

先月は個人的にいろいろあったのですが、昨夜も別件で寝込みました。
何でしょう、この秋は環境が激変するような運勢なんでしょうか。
押し入れに眠っているタロット出してきて占いたいぐらいです。

今回の課題図書はこちらの作品になります。
ネタバレがありますのでご了承下さい。
うちのは文庫ではなくてノベルス判です。
京極夏彦といえば紙の本でしょう! と思ったのですが、重いし、大きく開かないから読みにくいです。あの頃はどうやって読んでいたのか……。
読者もあれから17年歳を取っています。腕の筋力が衰えてしまったのか。
電子書籍で買えば良かったかな……文字が小さくて辛い。
拡大したい。できれば読み上げて欲しい……!
(すっかりデジタル時代の人間になってしまった)

文句ばかり言っているようですが、やっぱり新作が出るのは嬉しかったです!

タイトル感想

鵼とは不吉で忌み嫌われる怪鳥です。
鵺と鵼は同じ意味で使われるようですが、厳密には若干違うかもしれません。鵺(白鵺)は想像上の鳥で、鵼は怪鳥のこと?
私は京極堂のように物知りではないので調べました。

どんな内容の小説なのか、全く想像もつきません。
ぶっちゃけ京極夏彦氏の著書でなおかつ久々の百鬼夜行シリーズじゃなかったら手に取らなかったと思います(だって、煉瓦だし高価だし)。
昨今のわかりやすいタイトルに慣れ過ぎたせいでしょうか。
鵼はたぶん鳥? 碑は石碑? モニュメント的な……程度の理解。
『ネリマドールに鵺が鳴く』って漫画が昔あったのですが、昔過ぎてタイトルしか覚えていない。

鵺は、「ヒョーヒョー」と、もの悲しく不気味に鳴くそうですが、昔の夜は電気のある今と違ってずっと暗く、鳥の声さえも不気味で怖いものだったのでしょう。
鵺の声は、現代ではトラツグミという鳥の声とされていますが、トラツグミってとても可愛い鳥なんですよ。大きいのかな、でもぷくっとしたシルエットがラブリー。

当時は「◯◯殺人事件」というタイトルでさえ露骨で無粋というひとがいましたが、今はあらすじみたいな長いタイトルが定着した感じがします。
私はなかなか自作のタイトルを上手に決められませんが、読まれるタイトルとは何か考えさせられました。
『凪いでる海へ行こうか』はかなり気に入っているタイトルですが、あれだって最初は『お姉ちゃんは八月に死にたいっ!』ってタイトルで書き始めましたからね……。

Wikipediaの解説に、目録にある名前が出てきますね。


あらすじ感想

百鬼夜行シリーズ新作長編!

殺人の記憶を持つ娘に惑わされる作家。
消えた三つの他殺体を追う刑事。
妖光に翻弄される学僧。
失踪者を追い求める探偵。
死者の声を聞くために訪れた女。
そして見え隠れする公安の影。
発掘された古文書の鑑定に駆り出された古書肆は、縺れ合いキメラの如き様相を示す「化け物の幽霊」を祓えるか。

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作家は関口くん、刑事は木場さん、学僧はわからないな。
探偵は益田くん? 女は誰だろう。
予想を立ててみました。

とりあえず、古書肆は京極堂で間違いないでしょう。祓う古書肆なんてそうそういない。

過去作を履修しているほうが楽しめる類いの本だと思います。
たぶん、キャラクターを把握していたほうがいい。
私もずいぶん忘れちゃってるから、また最初から読み返してみたくなっちゃった。

『鵼の碑』感想文

目次


複数の人物がそれぞれの視点で見ていく話なので、どう感想書いていこうかなぁ……。最初に書いてある目次の通りにまとめて書いてみます。

「鵼~久住加壽夫の創作ノオトより~」

「朔の夜である」で始まる物語。
朔というのは新月のこと。陰暦の一日目である。
何度もこの言葉が登場する。
虚しい、居ないもの、空っぽの鵼。
「わたしとて。同じなのだよ」

────きっと、私も。

「蛇」

久住 加壽夫の物語

脚本家。日光榎木津ホテルに逗留中。

久住さんは、同宿の関口くんと知り合います。
ふたりとも創作の仕事をしているせいか、すぐ親しくなったような気がします。
関口くんが結構深い話をしていました。
「いつももごもごうまく話せない関口くんが、まともな会話をしている!」というのが印象的でした。
思想がちょっと暗いのは仕方がないでしょう。
関口くんはいつも弱くて情けない存在に見えますが、傷だらけで闇から生還したひとでもあるのです。
まわりの人が強すぎるんだよ!

徳山丑松さんの「野分のわきなんぞに名前付ける」って台詞がよい……かっこいい。

「虎」

御厨 冨美

薬剤師。薔薇十字探偵社の依頼人。

御厨の感性の乏しさ。これが普通のひとなのかな。
まあ、情緒豊かで得することなんてそんなに無いよ。
もし感情を持ってしまったら、創作者になるしかないもんね。

益田くん。長いつきあいだし根はいい人なんだけど、軽薄な感じが好みではない。和寅くんのほうが好き。和寅くんの活躍する話を希望します。

放射性物質とか爆弾とか特別気になってしまうのは、昨今の世界情勢のせいかなぁ。
少し前に書いた歌についての記事もそうですが、戦争って言葉にあの頃の気持ちを思いだして、キュッとなってしまいます。

「貍」

木場 修太郎

刑事。昭和9年の未解決殺人事件の謎を追う。

木場さんって、わりといつも核心に近いところにいる気がします。
本人は何やらサッパリわかっていないのだけど、刑事の勘なんでしょうか。

元公安の郷嶋郡治。公安って嫌なんですよ。
理由は無いです。「なんかイヤ」なだけ。
たぶん過去に読んできた本の中で印象が悪かったのでしょう。
偉い人は好きだけど偉そうな人が大嫌いなので、上から一方的にものを言う人だっていう先入観が……。
そんな公安が出てくる話、ご存知ですか?

ところが、数年前にコナン映画で大人気になった安室透の別の顔(というか真の姿)が、公安刑事の降谷零だった時から、「ま、まぁ……それもありか……」くらいの公安に対する心の雪解けが起こりました。
担当声優の不祥事で今後どうなるのかわかりませんが……殉職しちゃうんでしょうか降谷さん。当時映画を14回観に行った私としては、ほんのちょっぴり気になったりします。
あ、あと降谷零の部下の風見裕也くんが好きなので、彼はどうか逞しく生き延びて下さい。

余韻を置く書き方が気になります。
う~ん、京極夏彦さんの作風というか、文体。
最後の一行に「女が──立っていた。」を持って来る表現。
わたしもやりがちなので、こういうところは無意識に影響を受けているのだろうか?

近野諭と、木暮元太郎が格好いいと思いました。
芯の強い人っていいね。憧れるなぁ。私もそうなりたい。

「猨(さる)」

築山 公宣

学僧。中禅寺の友人。古文書と経典の調査をしている。

中禅寺と仁礼くんと三人でお仕事中です。

光る猿って、放射性物質でもかぶってんじゃないの……?
研究所絡みの事件みたいだし。それも放射線関連。
と思ったら、京極堂も似たようなことを言い出した。

「鵺」

緑川 佳乃

医師。中禅寺・関口・榎木津とは知人。

「薄ら寒い感じの助言」は、私も嫌だな。

昔から、ちいさくて可愛くて強い女性が大好きなので、緑川さんのことも好きなタイプ。バランスのとれたひとっていうイメージです。
冷静で賢くて。臨床に降りてこないタイプのお医者さん。
それでも大叔父がどういうひとだったのか、何を志し、なにを諦めたのか。
そういう問いが心によぎる女性なんです。
う~ん、好みですね。魅力的。

「鵼」

ようやく、問題の建築物を一行が訪ねます。
郷嶋さん、いい人じゃん。見直したわ。結構好きかも。

京極堂の語りの間、見逃しそうなところにあるけれど、「死人の声が、聞こえた」というところが刺さりました。きっと緑川さんは、これが聞きたかったんだろうって。

「仲良くしようと云うのは、同じになろうと云うことではないんですよ。違うものを違うままに容認し合うということでしょう」

まとめ

斜め読み速読人間として生きてきましたが、感想文を書く時はもちろんしっかり読みます。熟読すると一日数ページしか進まないので、途中からペースを上げました。

秋になって、今まで停滞いつもどおりだった環境が激変しています。唐突に「まとめてどっかーん!」って感じの破壊力。
厄年か? いや、厄落としなのか?

絶望的な鬱状態はどうにか回避できているのに、ストレス多くて精神的に落ち着かない……まぁ、そんな個人的な事情で大変遅くなりました。
お待たせして本当に申し訳ないです。ごめんなさい。

さて、言い訳はこのへんにして、読み終えた感想です。
「事件が起きなかったなぁ……」
京極堂も「何も起きていない」と言っていましたが。
なんだろう……地味だったな、と思います。
京極堂の憑きもの落としも、榎木津のめちゃくちゃな活躍も物足りないなと。
淡々とした話を二段組み700ページ以上延々と最終話まで追っていたのは、この瞬間のためです。それまでの話も面白いんですけどね、やっぱり先にあるはずのお約束展開を期待しゃうんですよ。
だってこれは百鬼夜行シリーズ。
立ち位置としては『キャラクター小説』とも言えるでしょう。
水戸黄門で、「この紋所が目に入らぬか~!」って言われた悪代官が「申し訳ありませんでした! 死んでお詫びを!」ってその場で切腹したら、それはまぁ……別の意味で面白いですが、水戸黄門の楽しさではないですよね。
読者として、めでたしめでたしならそれでいいわけではないのですよ。
そういう意味で、もっと派手に魅せて欲しかったかな。
遠い昔には『魔術的踏切(マジカルステップ)』に痺れたものですが、もうそういうのは読めないのかな?

事件が起きていないせいなのか、全体的におとなしいです。
今迫っている危機ではないからかな。
長い物語のわりに、あまり残るものもなく……。
ただ、それも作者の思惑通りなのかな?
過去は過去だよって。そんな気がしなくもありません。

戦前戦中の放射性物質に対する考え方や、それを取り巻く人たちのこと、時代の中で消えて行こうとしている「存在しない者」たちへの敬意。
この国には、1997年まで「旧土人保護法」という法律がありました。
先住民族を「保護」するのための法です。
今まで「存在しない者」だったひとたちに日本名が与えられ、戸籍に数えられるようになりました。
恩恵を受けるひともきっとたくさんいたのでしょう。
でも引き換えに、生活が制限され、生業も名前も文化も取り上げられ言語を失った……ってことを考えると、新たに戸籍を作って「日本国民」になるっていうのは、幸せにならない可能性もある。
……京極夏彦氏は私と同郷の人なので、やっぱりそっとしておきたいと考えるのではないか。偽善で手を伸ばすのではなく。いや、そっとしておくこともまた偽善かな。
それでも。
人間が誇りを持ったまま、生きて、死ねるように。
もしかしたら、これはそういう話なんじゃないか。
まぁ、全く根拠のない想像です。

次作もあるようですね!
何年後になるかわかりませんが、楽しみにしていようと思います。
なんだかんだ言っても、主要登場人物に会いたいんですよ。
だってそれはみんな若い頃の……友達みたいなものだから!



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