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緑玉で君を想い眠る⑭
四話:深い眠りの中で
1
結婚式を明日に控えた金曜日。
会社でも頭の片隅では、犯人は誰なのかで頭がいっぱいだった。
午後からは定例ミーティングがあって、朝からバタバタしていたのに。
答えが出せない問題について、延々と考えていた。
昨日警察に、一昨日の夜の叶羽さんの様子や行動について聞かれた時、一瞬、ほんの一瞬でも、叶羽さんを疑ってしまった。
見送った時は、もしかしたら叶羽さんは
緑玉で君を想い眠る⑮
2
製品の開発協力をしてくれている矢切製薬に、定例ミーティングに来ていた。シロノと矢切の製品開発の中心メンバーが集まり、リモートで、時には対面でミーティングを行う。対面の時はシロノの社員が矢切まで出向くことになっている。
矢切製薬の社長は日本の経済に多大な影響を与える、旧財閥の桜錦家と縁戚関係があるからだ。本来、シロノのような小さな会社に協力するようなところではない。
なのに開発に協力
緑玉で君を想い眠る⑯
五話:剣を振るいし者
1
結婚式当日。控室で準備を終えた私のもとに、輝一郎さんが来た。
「叶羽ちゃんも……とうとう結婚か……」
私の姿を見てそう呟いて、背を向けてから手を目元に当てていた。
ウエディングドレスのハイネックの小花柄のレースは、そのまま肩から手首と、ビスチェ部分を覆っている。ビスチェは腰の辺りでギャザーが入れられているワンピースだ。体のラインは拾いすぎずに、けれど広がり過
緑玉で君を想い眠る⑰
2
新婦の入場と共に、拍手が湧き起こった。
昼間に行うガーデンウエディングは、エメラルドの光が差し込んでいる。
神からの祝福を受けているような気がした。
両サイドにゲスト席が並んで、その間に道がある。カーペットはないが、日差しで鮮やかさが増したエメラルドが、由貴のもとまで続いている。
輝一郎さんとお辞儀をする。そして、輝一郎さんの腕に右手で軽く添えて、一歩ずつエメラルドのウエディ
緑玉で君を想い眠る⑱
Sleeping in the forest
1
父も母も兄も、皆背が高かった。兄なんて、体格もよくて、精悍な顔つきで、とても同じ両親から生まれてきたとは思えなかった。
僕は、父方の祖母に似ているらしい。
父方の祖父母はもう他界していると聞いたから、代わりに写真を見せてもらった。写真を見てようやく、そう言われるのも納得した。小柄で、細くて、繊細な印象を受ける人だった。
女の子に生ま
緑玉で君を想い眠る⑲
2
天真爛漫な彼女は、笑顔が絶えなかった。
そんな彼女は、人目につかない場所で泣いていた。
同級生の男の子から、チビとか、ブスとか、そんな言葉を言われていた。
彼女はそれを、興味無さそうに知らん顔していた。言い返したりしない、大人な対応をできる人だったのだと、関心してしまった。
でも僕は、その現場を見た時、その男の子達を注意するべきだった。
知らん顔してどこかへ歩き始めた彼女
緑玉で君を想い眠る⑳
3
いつか別れるのだと覚悟していた僕に訪れたのは、予想外の、その逆の展開だった。
「守のことが、ずっと好きだった」
中等部の黒いワンピースに袖を通した叶羽は、可愛いの中に綺麗が混じるようになっていた。
初等部の時にしていたハーフツインと言うらしい髪型はしておらず、肩甲骨まである髪は、そのままおろされていた。
白い肌を紅潮させながら、今にも泣きそうな顔で、あろうことか、僕は告白され
緑玉で君を想い眠る㉑
4
なのに僕は、彼女の幸せを、守れなかった。
鎌倉にあるという、彼女の別荘へ行った日のことだ。
別荘に行くまでに、鎌倉観光をしていた。ご飯を食べて、彼女はお手洗いに行った。小さな路面店で店内には設置されておらず、店を出て、通り道を逸れた人気(ひとけ)の無い場所に、トイレが設置されていた。小さな建物の中に、男性用女性用の出入り口の扉が、隣り合う形で並んでいた。薄い扉の向こうに、個室が何個
緑玉で君を想い眠る㉒
5
叶羽は誘拐されて、左目を失う大怪我を負った。
ごめんね、叶羽。
君の幸せを守りたいと思っていたのに。
怖い思いをさせて。痛い思いをさせて。
横たわっていた君は、やっぱり涙の跡一つなくて。
あるのは血だけだった。
僕が責められるのは、当然だと感じた。
どんなに口汚く罵られてもいい。
でも叶羽を、これ以上傷付けないで。
この事件で一番傷付いたのは、彼女だ。
なの
緑玉で君を想い眠る㉓
6
叶羽に危害を加えられないように、彼女とは徹底的に距離を置いた。
何も難しいことではない。連絡を取らず、近付きもしなければ済む話だ。
それで僕が何を思いどう感じるかは、別の話だ。
感情を殺すのは、得意だろう? なら、上手くやり通せ。
なのにあの人は何が不満なのか、叶羽の友人面をやめない。彼女が桜ノ宮を去る時でさえ、善人を演じていた。
二人が何を話しているかは、僕には聞こえない
緑玉で君を想い眠る㉔
7
誘拐事件から十五年の時を経て、再び事件は起ころうとしていた。
脅迫状を読んで、違和感を覚えた。
その違和感の正体に、すぐには気付けなかった。
だが、あの人が、また何か企んでいることだけはわかった。
家に帰ると、扉が大きな音を立てて閉まった。乱暴に閉めたのは自分だとも気付かなかった。
「ちょっと! 何よ!」
リビングにいたあの人はそのまままっすぐに向かう僕に、珍しく動揺し
緑玉で君を想い眠る㉕
8
彼女が殺されたと聞いて、一瞬、一昨日の口論の時に自分が殺してしまったのではないかと感じた。
死亡推定時刻、僕は事務所にいたことが確認されており、容疑者からは外れていた。
首を絞められた跡があったそうだ。口論の前に一方的に胸倉を掴んでいたのを思い出して、犯人でもないのに後ろめたい気持ちになった。
光の森公園で遺体は発見されたらしい。平日の夜に、そんな場所に行った心当たりはないか、
緑玉で君を想い眠る㉖
六話:目覚めた時に、
1
「馬鹿なこと言わないで! そんなことのために……!」
二人が何を話しているのか、ボクには聞こえなかった。叶羽さんはボクに背を向ける形になっているし、守さんは大怪我を負っている。でも、叶羽さんのその叫び声だけは聞こえた。
「安静にして! 動かないで!」
何を思ったのか、守さんは立ち上がろうと、体勢を変えていた。左腹部のナイフが刺さっている辺りを押さえて、そのまま
緑玉で君を想い眠る㉗
2
何か用途があるわけではないデザイン目的の木の枠がある、ベージュの壁、ダークグレーの床、ブラウンのシーツの掛け布団、枕とボックスシーツのみが白の室内は、とても病室だとは思えない。こんな部屋をポンと用意できる霧島家は、ボク達とは違う世界の人達だ。
桜ノ宮大学病院の特別室に、ボクと叶羽さんは来ていた。
その部屋で眠る守さんは、あれから五日、意識が戻っていない。
新婦とゲストの二人が病