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【中国語原書】豊子愷『万般滋味,都是生活』を読んで
こんにちは、かなの中文散策です。
今日は中国語の原書を紹介しようと思います。
豊子愷『万般滋味,都是生活』
豊子愷(フォンツーカイ・1898~1975)は近代中国の作家・画家であり、『源氏物語』の翻訳者として活躍した人物でもあります。
日本への短期留学経験もあり、「漫画」という言葉を中国に普及させました。
1914年に杭州にある浙江省第一師範学校にて、恩師である李叔同から音楽や絵画を学びました。また日本留学の最中に竹久夢二の影響を強く受けたと言われています。
この本は豊子愷が1920~1940年に書いたエッセイと、言葉をのせて絵を1コマで見せる「漫画」が収録され、文章と絵の両方を楽しむことができます。
淡々とした雰囲気の文章と、素朴で優しい「漫画」を見ていると、心が温かくなりました。
これから幾つかエッセイを紹介したいと思います。
「阿咪」
飼い猫の「阿咪」(訳:ミーちゃん)の話です。まずは原文の一部を紹介します。
阿咪之父是中国猫,之母是外国猫。故阿咪毛甚长,有似兔子。想是秉承母教之故,态度异常活泼,除睡觉外,竟无片刻静止。地上倘有一物,便是它的游戏伴侣,百玩不厌。人倘理睬它一下,它就用姿态动作代替言语,和你大打交道。此时你即使有要事在身,也只得暂时撇开,与它应酬一下;即使有懊恼在心,也自会忘怀一切,笑逐颜开。哭的孩子看见了阿咪,会破涕为笑呢。(P10-11)
ざっと説明すると、ミーちゃんはウサギに似た白い猫。とても活発で常に動き回っている。ミーちゃんと関わると、悩み事があったとしても、笑顔になってしまう。
ミーちゃんが家に来てから、にぎやかになった。来客があった時も、和やかな雰囲気になり、お客さんも気分よく過ごせる……という内容のエッセイです。
「阿咪」は猫のいる日常生活を描いたものですが、豊子愷の猫への愛情が感じられました。猫が出てくる「漫画」も多数あります。頭の上に猫を乗せた彼の写真もあるほどです。
2/22は猫の日。ネコ派の作家は沢山いますが豊子愷もそのひとり。頭や足に乗っかったネコに癒される〜 #猫と熊猫
— 内山書店【中国・アジアの本】 (@uchiyamasyoten) February 17, 2019
『知中(15)再認識豊子愷』https://t.co/0udGp4ANb6 pic.twitter.com/8dy33uJUF6
ちなみにこの文章に添えられていた「漫画」は、ミーちゃんらしき白い猫が手すりに乗っかり、鳥かごを狙っているものでした。
「绘画之用」
次に「绘画之用」(訳:絵画の用途)を紹介します。
もし展覧会の最中に「絵は一体何の役に立つのか?」と誰かから質問をされたら、どのように答えるかを論じたものです。
例えば、道路の脇の広告、タバコやビール瓶の絵は購買を促進するため役に立つといえる。
一方で、展覧会のタバコやビール瓶を描いた静物画に目的はなく、役に立つとはいえない。
しかし真の美術の絵とは、本質は「美しさ」である。「美しさ」とは知識ではなく感情であり、実用ではなく鑑賞するものだと述べています。
人类倘然没有了感情,世界将变成何等机械、冷酷而荒凉的生存竞争的战場!世界倘没有了美术,人生将何等寂寥而枯燥!美术是感情的产物,是人生的慰安。它能用慰安的方式来潜移默化我们的感情。
所以说,“真的绘画是无用的,有用的不是真的绘画。无用便是大用。”用慰安的方式来潜移默化我们的感情,便是绘画的大用。(P167)
そして、美術とは感情から生まれたもので、人生の慰めとなる。美術は慰めによって私達の感情を無意識に変化させる。これが絵画の大きく役立つところだとしています。
「真の絵画とは役立たないが、役立たないというのは、大きく役に立つのである」と結論づけています。
やや内容が難しいですが、これ以外にも芸術について語るエッセイが多くありました。彼の芸術に対する強い思いや考えが、少しでも伝わればと思い紹介しました。
「吃酒」
続いて「吃酒」(訳:酒を飲む)からエピソードの一部を紹介します。
このエッセイでは、お酒にまつわる忘れられない思い出を語っています。
日本に留学中の豊子愷が、中国人留学生の友人と江の島に遊びに行ったときのこと。江の島で正宗とサザエのつぼ焼きを堪能します。
そこで目にしたのは日本の割り箸。とても衛生的で、「世界で最も進歩的だ」と感心します。
江の島で友人と楽しく酒を飲む……すがすがしい気分で、まるで別世界にいるようだったと振り返っています。
このように日本と縁のあった豊子愷ですが、日本でも翻訳された書籍が出ています。
○『豊子愷画文集 人生は短し、芸術は永し』豊子愷研究會・編・著
○『わが子たちへ』豊子愷著 藤村とも恵訳 日本僑報社
○『少年音楽物語』豊子愷著 藤村とも恵訳 日本僑報社 など他多数
豊子愷は1975年文化大革命中に亡くなりましたが、近年中国で再び人気が高まり、この本も多くの中国人に読まれているようです。
私は今まで豊子愷をよく知らなかったのですが、この本を通じて、もっと彼の作品に触れてみたいと思うようになりました。
最後に、本の背表紙に掲載されていた「豊子愷語録」から一部を抜粋します。
(※もし訳が間違っていたらすみません。)
心小了,所有的小事就大了。
心大了,所有的大事都小了。
看淡世事沧桑,内心安然无恙。
心が狭くなると、すべての小事が大きくなる。
心が広くなると、すべての大事が小さくなる。
世情の移り変わりを気にせず、心穏やかでいる。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。