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帰り道と校長室/エッセイ

雨の日はバスを利用する私は、真ん中の入り口を挟んで後ろ側にいないと嫌だというこだわりがある。これは「これからはどんな異常も見渡せる最後部座席に座るよ!まあ、金輪際バスに乗りたくないのが本音だけどね!!」という感じで、バスジャック事件に乗り合わせた海外の少年が明るく話すインタビューを観た日から続いている。

今日も雨なのでバスを利用した。真ん中の入り口から二番目に後ろになり、前の座席では女子高生が船を漕いでいた。「もし何かあったら私はやられるかもしれないが、この学生だけは私が必ず守ってやろう。」とか、小学生男児のような妄想(しかしこれは立派なシミュレーションなので健全だし褒められてもいいはず。)を少しした後に、改めて前を向くと、彼女の髪型がとても立派だったので思わず記録したくなりました。おほほ。まるでグーパンチチョココロネ、山にそびえ立つ大きな岩。一本も乱れぬ雄姿。几帳面な子。携帯電話に貼ってあるプリクラが等間隔で、校長室を見上げた日を思い出す。

中学生の頃に、私は表彰で校長室へ呼ばれ、ずっと環境整備の用務員だと思っていた白髪じじいが校長だったと知り、今まで「おじいちゃん今日も暑いのに土いじって、可哀想だねえ。校長先生に言ってあげようか?」などと声をかけていたことを思い出して表彰後のスピーチを予行練習しながら汗が止まらなかったし、校長がずっと目を細めて笑顔でいたことが恐ろしかった。本番前に「あなたには度胸人一倍あるので自信を持ってくださいね。」と言われ、スピーチ原稿が頭から消えた。アドリブまみれの本番に、担任と教頭から咎められたが校長だけは笑顔で「面白かったなあ、一生あなたのこと忘れません」と感想を残し、あくる日、用務員が雇われた

あの校長は長らくその座に君臨し、私は大学生になってから一度だけ、里帰りついでに同級生と訪問した際に再会した。あの日のことを思い出し、謝罪をしようと口火を切ったら、校長は目を細めて「用務員として話しかけられることが、実はとても嬉しかったんですよ。校長先生って言われるのちょっと疲れちゃうときがあるからね」と言った。予想外の返答に拍子抜けし、あほ面の私は歴代校長の写真を見上げながら、ふむ、スピーチ原稿3枚分を暗記した青春の時間を返してほしいものだ。と偉そうに思った。誰からも慕われている校長だった。今も綺麗な花を咲かせているだろうか。陰で「はなさかじじい」と言われていた。いつも花壇が美しい学校だった。


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