『シン・仮面ライダー』を見た雑感(多分ネタバレなし)
50周年記念作としても、庵野秀明作品としても、個人的には120点
本作を一言で述べていいのかどうかもよく分からないのだけど、ネタバレ無しに評するなら、石ノ森作品×庵野秀明作品×仮面ライダー50年の歴史の傑物。庵野秀明作品として特異なところがあるとすれば、「仮面ライダーとはエンタメである」を忠実に踏襲して、サービス精神が他の作品より過剰、エンタメとしてやりたいことを盛り込みまくったのかな、というところぐらいか。
仮面ライダー以外の石ノ森作品モチーフもかなり入ってたし、浜辺美波の綾波レイ感もかなり出てたけど、それ以上に色んな要素がぎゅぎゅっと詰まってた。で、仮面ライダーという作品、シリーズもさることながら、本作も色んな偶然、奇跡が重ならなければ実現し得なかった作品なんだろうなぁ、とも。
その一つが、ヒロインの浜辺美波。めちゃくちゃ失礼な表現をしてしまうけど、彼女がグラマラスな女性に成長していれば、今回の緑川ルリ子は成立しない。良く言えば控えめ、悪く言えばチンチクリンな塩梅だからこそ、庵野秀明の求めるヒロイン像をギュッと押し込めることが出来た。
綾波的な要素ももちろんあるけど、その他の要素もてんこ盛りでしょ? 彼女を見るためだけに本作を見ても、損はしないはず。
髭と髪型で当時の藤岡弘、本郷猛にかなり寄せられた池松壮亮もポイント高い。真威人の「若かりし本郷」も良いんだけど、それはまたそれで、楽しみに取っておきたい。
庵野作品で言えば、綾波とかエヴァ以外の要素もかなり色々盛り込んであった。エンドロールでようやく気がつくこと、エンドロールを見ても気づかなかったことも多々あるから、何がどうだったのかはぜひ劇場で、自分の目と耳でお確かめください。
「これまでの歴史」あればこそ
本作を見て、何人かは「『THE FIRST / THE NEXT』でコレを見たかった」と言うかもしれない。あるいは、他の大人向けと言われそうな作品でできただろうに、と言うかもしれない。
でも、それは違う気がする。『THE FIRST / THE NEXT』はもちろん、初代からの試行錯誤が沢山あったから、本作で「やってないこと」に手を伸ばせた。もし、「これまでの歴史」を加味せずに手をつけていたら、この仕上がりにはなっていない。
その歴史に、村枝賢一氏の『仮面ライダーSPIRITS』も含まれているっぽいシーンがチラホラあったのも、個人的には非常に嬉しかった。『THE FIRST / THE NEXT』の血を吐く描写もさることながら、今作の「きりもみシュート」からのライダーキックは、ね?
そこまで観てるんだ、そこまでカバーするんだって言う嬉しさと言うか、敬意が非常にグッと来たよね。50周年記念作品て、こうやって作るんだぞ。分かってるか? 『BLACK SUN』チーム。
ちゃんと、「庵野秀明の仮面ライダー味」なエンターテインメント
万人向けかって言われると、そうじゃない。だって、「庵野秀明」も「仮面ライダー」もテイストとしては一般向けじゃないから。でも、きちんとエンターテインメントしてる。少なくとも、過去の大人向けライダー作品よりはとっつきやすい。『BLACK SUN』がダメだった人も、全く問題ないし、『シン・ウル』も『シン・エヴァ』もピンと来なかった人でも大丈夫。クセは強いけど、美味いから。
特報PVから感じた、強烈に暗い、陰鬱な話になるのかなと言う予想は全く外れて、「ライダーはエンタメ」をちゃんとやってくれた。てんこ盛りというか、大盛りすぎるサービス精神も乗っかって。ついでに「エンタメだから」と本当はやりたかったかもしれないことも、いっぱいやってくれている。
ニチアサ的な仮面ライダーの劇場版、映画としては疑問符がつくかもしれないし、石ノ森の漫画版的な仮面ライダーとしてもイマイチかもしれないし、庵野秀明作品、『シン〜』のラインとしては浮いてるかもしれないけど、掛け算の結果は、「これはこれでいいんじゃない?」が個人的な感想。
「これ以上は食えないよ」な満足だったので、ちょっとでも気になる方はぜひ。エンドロール見て、「え、そんな人出てた?」って絶対なるから。
Bravo!