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ロイヤル顧客育成は、ユーザーの2つの心理を担保した先に成立するという話

今度は行動経済学について学んでいるのですが、IDOMの中澤さんが書かれたこちらのnoteを見て思うところがあったので、書きます。

今回書きたいのは「アンカリング」と「一貫性」について。
ロイヤル顧客を育成するときに、この概念を知ることが施策を検討する一助になるのではないかと思っています。

参考図書はこちら。

人間はそもそも合理的ではない

人間は果たして合理的な生き物なのでしょうか? 行動経済学では、その答えは「NO」であるということを、実験をもとに示しています。

冒頭に引用した中澤さんのnoteは、ロイヤル顧客の育成について触れていますが、愛だとか好みといった感情的なものは抜きにして、ロイヤル顧客を育成するためには人間の2つの“特性”を考慮する必要があると思いました。

それが「アンカリング」と「一貫性」です。

それぞれ見ていきましょう。

人間は比較軸を持たねば判断できない

たとえば食べたことのないような料理を、友人に振る舞ってもらったとします。
果たして、それを食べた後に「これ、お店だったらいくらで出せると思う?」と質問されたとして、正しい値付けをすることは可能なのでしょうか。

人間には、「アンカリング」という心理的特性があります。これは、経験に基づき物事を判断する尺度をそれぞれの中に持っているというものです。

先ほどの料理の例で言えば、その前に買い物に同行して材料を1000円で購入している場面を目にしていれば、質問(「これ、お店だったらいくらで出せると思う?」)に対して、その価値を1500円くらいと答えるかもしれません。あるいは、調理中に「私は料理にこだわりがあり、いつも1万円くらいの材料をふつうに使うし、今回の料理にも使っている」というトークがあれば、質問に対して、その料理に8000円くらいの価値をつけるかもしれません。

上記、例えを交えて書きましたが、アンカリングは「経験に基づき」と述べたように、値付けの軸がその人の中に出来上がるきっかけは、割と些細なことだったりします。

『予想どおりに不合理』においては、「被験者が持っている保険証の番号の末尾2桁をあらかじめ記入する」だけで、被験者が値付けをする金額が、そのNoの大きさによって変動したといったようなことが書かれています。

良い『真実の瞬間』とは、その人の『アタリマエ』を超えるかどうか

真実の瞬間において、アンカリングは作用します。
そもそも『真実の瞬間』とは、中澤さんのnoteを引用すると以下のとおりです。

経営学の成果に「真実の瞬間」という考え方があります。1981年にスカンジナビア航空のCEOに就任し、赤字で苦しんでいた同社をたったの1年で立て直したヤン・カールソンが、自伝的著書「Riv Pyramiderna」に著し有名になりました。

「当時年間1000万人の旅客が、それぞれほぼ5人のスカンジナビア航空の従業員に接し、その1回の応接時間の平均が15秒であった。従って、1回15秒で1年間に5000万回、顧客の脳裏にスカンジナビア航空の印象が刻みつけられたことになる。その5000万回の“真実の瞬間”が、結局スカンジナビア航空の成功を左右するのである。その瞬間こそ私たちが顧客に、スカンジナビア航空が最良の選択だったと納得させなければならないときなのだ」
(出典)ヤン・カールソン「Riv Pyramiderna」

航空機の利用では、その予約に始まり、搭乗までの体験、フライト中の体験等、多くの体験の集合として、総合的な体験価値が決まりますが、顧客満足度を左右する要因の大きなウエイトが、スタッフと顧客が向き合う「たった15秒」に集約されているという考えです。

この『真実の瞬間』において、人が「いい体験をした」と思うのは、あらかじめその人の中にあるアンカリング、つまり基準を上回ったときに発生します。

アンカリングは中長期的に人の判断に影響するという実験結果も『予想どおりに不合理』の中では示されています。

スカンジナビア航空においては、そしてリッツカールトンでもよく取り上げられる例ですが、従業員の方がサプライズを提供した結果、感動や熱狂を生んでいます。「他の会社では決してやってくれないこと(アンカリング)を、この会社はやってくれた!」といった感じです。

つまり、中澤さんのnoteで示されていたロイヤル顧客を育成する1つの道である「期待を超える体験を提供する」というのは、あらゆる人が持っているアタリマエ(アンカリング)を超えられるか、と読み解くこともできるのではないでしょうか。それを行うには、その人が「何をアタリマエだと感じているのだろうか」を拾い取る感性が必要だと思います。

しかし、一度その期待を超えた結果、新しいアンカリングがユーザーの中で行われてしまうと、それを下回ってしまうことが失望のリスクにもなり得ます。

つまり、アンカリングを超え続ける、少なくとも「いつもこれくらいのことをやってくれるだろう」というユーザーに応え続ける体制づくりはロイヤル顧客育成の1つの鍵になりそうです。

できるだけ「好き」でいつづけたい

そしてもう1つの特性が、「一貫性」です。
人は、たとえば「わたしは◯◯な人間である」というように宣言したり、自覚したりした場合、そういった人間であり続けようとする心理です。

つまり、一度好きになった場合は、それを好きだと言い続けたい生き物です。

自分自身がその一貫性から逸れるような発言をしたり、振る舞いをしたりすると、心の中に一種の「気持ち悪さ」が生まれます。

だからアンカリングと同様、ロイヤル顧客を育成するのに大切なのは「あなたが好きでいてくれることはこちらにとっても光栄なことです」という姿勢を見せ続けることで、ユーザーを安心させることなのかもしれません。

結局のところ、大切なのは一過性でなく「継続」

中澤さんのnoteでは、ロイヤル顧客へ育成するには2つのルートがあると説かれています。

・期待を超え続ける(→結果、エンゲージメントが向上する)
・期待を大きく上回る体験を提供する
(→結果、エンゲージメントが向上する)

結局はその実行体制が必要であり、顧客との「真実の瞬間」において、当たり前のようにユーザーが抱えるアンカリングを超え続ける必要がある。

つまり、一過性のロイヤル顧客育成施策では意味がなく、腰を据えて、文化や組織に投資するように中長期的な視点でロイヤル顧客の育成には取り組んでいく必要があるのではないでしょうか。

お読みいただきありがとうございました、

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亀井大樹@マーケティング学ぶならMARPS
BtoBマーケティングのプロを目指すため、日々精進しています! ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます! スキくれる方はみんな大スキです(*´ω`*)