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食後、立っていると血糖値が下がる?

「糖質」「糖分」「血糖値」などといった言葉を見聞きすることが、多いですよね…

イメージとしてはあまり良くない印象を持っている方は多いと思います。この「糖」というのは身体にはなくてはならない存在でもあり、増えすぎても良くない存在。つまり、上手く共存しなくてはならないのです。
人間の身体の中で唯一、血糖を下げてくれるのは膵臓から出るインスリンという物質であり、インスリン作用により身体の組織で、代謝調節能を発揮し血糖を含む代謝全体が正常に保たれます。しかし、これが不足するとインスリン抵抗性は増大し、作用不足、血糖上昇となるのです。

今回は、昨年、投稿された論文を紹介していきたいと思います。
そのテーマは
「食後立位姿勢がエネルギー代謝とグルコース代謝に与える影響」

現代社会、座りっぱなしの生活スタイルが問題となり、長時間座り姿勢をとることによる身体への影響が様々もたらされるとされています。長時間座っていることにより(身体活動量の低下)肥満や、糖尿病、脳血管障害、循環器障害など生活習慣病に関連するリスクが増大するといわれています。
このリスクを減らそうと取り組んでいる企業や在宅ワークの方々も身体活動量を増やすために職場にスタンディングテスクやバランスボール、エアロバイクなどを導入されている方もいるかと思います。
エネルギー代謝は基礎代謝量(約60%)食事誘発性熱産生(約10%)、身体活動量(約30%)で構成されており、「脂肪」を減らすには身体活動量増加によるエネルギー代謝量をいかに上げるかがポイントとなります。エネルギー代謝量を増やすことで疾病対策にもなるということです。
※食事誘発性熱産生とは、食物の消化、吸収、貯蔵に関連する代謝率を意味します。

自分の体をセルフメンテナンス。自分の健康を手に入れるばかりでなく医療費の削減にもなりますので自身の健康、家族の健康を考えてみましょう。

 健康的な人で糖尿病ではなくても、食後の高血糖値は酸化ストレスを促進し、血管内皮細胞障害を引き起こすといわれています。(この血管内皮細胞は血管の緊張の調整、血管内血栓形成の防止、動脈硬化の予防等の機能を備えています)食後すぐに家事や食器を洗ったり、短距離のウォーキングといった低負荷な身体活動を取り入れることにより食後の血糖値変動を減らすことが分かっています。またスタンディングテスクの使用による食後血糖反応の影響については、過度な肥満及び肥満者のオフィスワーカーが座位立位を交互に行うことにより食後血糖反応が大幅に減少し、20分ごとに座位立位を繰り返すと食後の血糖値の上昇が抑制されると報告しています。
 そしてスタンディングテスクを使用し立位姿勢を維持すると、座っている時よりも減り、身体活動によるエネルギー代謝が増加。そして食後の血糖値の上昇が抑制される可能性があるとされています。また長時間の立位姿勢は心疾患リスクを軽減するため、座位の代替とされています。しかし、2時間立位姿勢を保っていると動脈硬化の指標である脈波速度が上昇することが示されています。1時間あたり40分以上立っていると、座位での仕事よりも痛みと疲労感が増す事も論文が投稿されています。

 しかし、食後のエネルギー消費と糖代謝に焦点を当てたスタンディングデスクの最適な使用時間はまだ検討されていないのが現状であり、食後の立ち姿勢がエネルギー消費と糖代謝に及ぼす長期的影響をより詳細に理解することで、長時間の立ち姿勢による悪影響を制御し、座位時間を減らし、座りがちな生活習慣によって引き起こされる疾患を予防することが容易になります。そこで今回のこの研究では、「食後の立ち姿勢がエネルギー消費と糖代謝に及ぼす影響を調査し、食後に座る代わりに立つと、食後の血糖値の上昇が軽減され、エネルギー消費が増加する」という仮説を立てています。
対象
〇喫煙歴、服薬がない15名の男性(年齢21.6±1.1歳、身長172.7±5.8cm、体重68.3±5.9kg)
〇本研究の少なくとも1か月前に感染症の病歴がなく、代謝障害または精神疾患の病歴のある被験者は除外。
研究方法
 被験者は全員、立位試験と座位試験での試験を行い、各試験は7日間の間隔を空けてランダム化。試験前日と試験当日の朝の身体活動をコントロールするために、少なくとも24時間前から中程度から激しい運動を控えるように指示。前日から試験終了までアルコールやカフェインの摂取を控えさせ、試験前日の午後 9 時までに夕食を摂取し、その後は朝食まで飲水のみ許可。試験当日の午前 8 時までに朝食を摂取するよう指示。各被験者は、2 回の試験で同じ朝食をとり、その後は試験まで飲水のみ許可。午後 12 時に研究室に来て、10 分間の休憩の後、炭水化物 負荷として 300 g の米を摂取。その後、被験者は、教室の机に座るか、高さを調整した机の前に立って、その姿勢を 120 分間保持するよう指示。
酸素消費量(VO2)と二酸化炭素排出量(VCO2)および呼吸交換比(RER)を米の摂取前、試験開始直前10分間、および試験開始後30、60、90、120分に収集。エネルギー消費量は、間接熱量測定法を使用してVO2とVCO2から計算。昼食前と試験開始後30、60、90、120分に、穿刺器具を使用して指先から血液を採取し、自己血糖測定器にて血糖測定。
統計分析
統計分析は、SPSS forWindows を使用して実施。すべてのデータは正規分布しており、コルモゴロフ・スミルノフ検定、 t 検定の仮説検定を使用。
結果
・エネルギー消費量

平均エネルギー消費量は、ベースラインよりも立位の方が座位よりも有意に高かく、試験時間毎のエネルギー消費も立位の方が高い結果。

・呼吸交換比(肺呼吸における酸素摂取量に対する二酸化炭素排出量)
平均呼吸交換比は、立位と座位で有意差はなかったが、立位と座位の両方で、昼食後60、90、120分でベースラインより有意に高くなった。

・血糖値
立位と座位共に昼食後 30 分の方が昼食後 60、90、120 分よりも血糖値が有意に高くなっていた。本研究中の血糖値の 時間経過に伴う血糖値増加量面積(AUS) は、立位と座位で有意差はなし。

・心拍数
平均心拍数は、立位の方が座位よりも有意に高かった。また、食後から実験終了まで、立位の方が座位よりもHRが有意に高かった。

・外因性糖代謝率
外因性糖代謝率は時間の経過と共に立位座位において徐々に有意に増加。

考察
 食後120分までの平均エネルギー消費量は、立位で2154.2±235.7kcal/日、座位で1918.1±169.3kcal/日であり、立位の方が座位よりも約10.7~4.6%高かった。身体活動は、立位で2.0~2.5代謝当量(MET)、座位で1.5METの範囲であり、身体活動の増加により、立位の方が座位よりもエネルギー消費量が高いことが示唆されている。今回の結果に基づくと、1日4時間の座位を立位に置き換えると、エネルギー消費量がさらに38.4kcal/日増加し、1年間で体脂肪量が1.6kg減少すると予測される。更に、スタンディングデスクの使用は、その後のエネルギー消費に影響を与えないことが示されている。座位を立位に置き換えることは、エネルギーバランスの原則に基づいて肥満を予防および軽減する可能性があります。エネルギー消費の動態は、立位と座位の両方で、昼食後にベースラインよりも有意に高くなりました。この増加の要因としては食事誘発性熱産生です。昼食後に座った場合の平均エネルギー消費はベースラインよりも9.3 ±7.7%高く、これは食事誘発性熱産生のエネルギー消費と一致している。
 昼食後30分まで、立位と座位のエネルギー消費に有意差は見られませんでした。本研究では、立位と座位のエネルギー消費量の平均差は0.16 ±0.08 kcal/分であった。従ってエネルギー消費量を増やすには、食後約30分間立位を維持する必要がある。本研究では、立位と座位の呼吸交換比の動態に有意な差はなかったが、立位と座位の両方において、昼食後60、90、120分で呼吸交換比はベースラインより有意に高かった。体は増加した炭水化物負荷を優先的に代謝して内部環境を維持する可能性がある。低~中強度の運動を長時間行うと脂質利用が増加することが示されている運動は、収縮する骨格筋への糖の取り込みを増加させる。膝の屈曲を伴わない等尺性収縮でも糖代謝は増加するが、大腿四頭筋の最大随意収縮の 66% の等尺性収縮が必要であると報告している 。しかし講義、勉強、またはその他の作業中に最大随意収縮の 66% の等尺性収縮を適用することは身体にとって非現実的である。更に、食後血糖値は食後 30 分でピークとなる。従って、食後の血糖値の上昇を抑えるためには、膝の屈曲を伴う運動など、骨格筋の動的収縮を食後30分以内に行う必要がある。正常な被験者では、食後血漿グルコース濃度の動態は食後30~60分でピークに達し、食後2~3時間で食前の値に戻ることが示されている。血糖値の上昇によりインスリン分泌が増加し、血液から筋肉へのブドウ糖の取り込みが促進され、血漿ブドウ糖値が低下した[。本研究では、立位作業の直前に摂取したブドウ糖は、少なくとも2時間は筋肉で代謝されることが示唆された。また立位と座位の間にブドウ糖代謝の有意差は観察されなかったことから、立位と座位のエネルギー消費量の差は、脂質の優先的使用によるものであることが示された。主観的運動強度は、立位終了時の方が座位時よりも有意に高かったため、身体活動の増加が主観的運動強度に影響を与えたと思われる。
結論
 昼食後のエネルギー消費は、座位よりも立位で約 10% 高く、また、主なエネルギー基質は脂質であることが示された。更に、膝の屈曲を伴うような骨格筋の収縮は、糖代謝を高めるために必要であるように考えられる。食後 30 分まで立位のみを維持した場合、エネルギー消費に有意な差が見られたことから、呼吸交換比 は立位で高く、食後血糖値は食後 30 分でピークに達した。 食後にスタンディング デスクを利用する最良の方法は、食後 30 分以内に、立位と座位の作業姿勢を繰り返すことであった。


紹介文献
Hiroya Kono,Int. J. Environ. Res. Public Health: Effects of Standing after a Meal on Glucose Metabolism and Energy Expenditure 2023, 20, 6934