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第37回東京国際映画祭オープニング作品『十一人の賊軍』レビュー

 第37回東京国際映画祭オープニング上映作品『十一人の賊軍』は、白石和彌監督の思い溢れる仕上がりで、見応え十分。原作プロットはかの笠原和夫と聞けば邦画オールドファンなら誰もが心躍るはず。わが国最初の五輪開催年の1964年に企画却下され、激怒した笠原和夫が脚本350枚を破り棄てたとのことで、白石監督はその僅かに残されたプロットをKindleで見つけたと上映前の挨拶で語っていた。
 山田孝之、仲野太賀という今をときめく2人を起用し、阿部サダヲ、玉木宏を絡ませる佳品お約束の好布陣。巻頭から画角に勢いがあり、維新前夜の新潟新発田藩での歴史の一コマが虚実巧みに構成されて鮮烈である。市井の一般人(賊軍たちは罪人の設定であるが)が権力を有する立ち位置の者たちに運命を翻弄される歴史の普遍的一事象として説得力をもって描出されて、白石和彌監督が、今の時勢にこそ作品化されるべきと東映にかけあったというエピソード、大いに納得である。スピード感あるエンターテイメントだが、主題をしかと受け止めれば製作の基本に時代を見据える視点を堅持しようとする監督の中軸がはっきり観てとれよう。
 監督自らが手を入れたとの幕切れシーンが秀逸。激烈な155分が穏やかに暖かく着地して、心地よく映画館を後にすることができる。
 多様性を基軸とする東京国際映画祭オープニング上映に相応しい一本である。
 11月1日から全国拡大ロードショー予定。

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