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苛烈な老いへの拒絶:映画『サブスタンス』レビュー

 中止も一部で囁かれた今年の米アカデミー賞のノミネートが発表され、下馬評通り主演女優賞に『サブスタンス』デミ・ムーアの名が並んだ。先にゴールデンアロー賞が発表された時、日本では、ドラマ部門『SHOGUN将軍』の真田広之や浅野忠信の受賞で沸き返ったが、映画のミュージカル・コメディ部門の主演女優賞は『サブスタンス』のデミ・ムーアで、その報に慌てて諸事繰り合わせ年明け最初の試写として同作を観た。
 映画『サブスタンス』は、かつてのロバート・ゼメキス監督メリル・ストリープ主演の『永遠に美しく…』(1992年)の今日風発展系かつスプラッター映画と位置付けたくなるようなブラック・ホラーコメディ作品である。昨年のカンヌでは脚本賞を受賞し(その前年はわれらが坂元裕二の『怪物』だったんですよ)、共演はここのところ話題作出演が続いているマーガレット・クアリー。観ないわけにはいかない。ネタバレとなるので、あまり内容には立ち入らないが、本作注目点は、なんといってもかつて『ゴースト/ニューヨークの幻』で一躍スターダムを駆け上がり、いまやすっかり面立ち変容してしまったデミ・ムーアの激烈なキャラクターデザイン。かくまで貪欲に美に拘泥し、老いを拒むのかと恐ろしく、最後は悲しく同情すら禁じ得なくなる。かつての『永遠に美しく…』はただ笑っていればよかったコメディだったが、本作に描かれる今日の最新技術にすがる往年の大スターの藻掻きは笑っているだけでは済まされない。映画ゆえ大誇張は当然だが、少し見方を変えれば、老いも若きも男女とも美容整形を普通のこととして飛びつく(言い過ぎかな)現況を深く映し出した内容と言えなくもない。『エイリアン』やつい最近の訃報が悲しいデヴィット・リンチの『エレファント・マン』まで連想してしまう仕上がり。142分はちょっときつかった。この手の映画、好きな人は好きなんだろうな。日本公開予定は春過ぎらしい。

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