松重豊の監督デビューに喝采:劇映画『孤独のグルメ』レビュー
このたびの第37回東京国際映画祭ガラ・セレクション 部門に並んだ松重豊監督・脚本(テレビ版の田口佳宏と連名)・主演の劇映画『孤独のグルメ』は、12年続くテレビシリーズの集大成と銘打たれるに相応しい、松重豊のキャリアと、作品への思いの丈がしみじみ体感できる仕上がりである。ワールドプレミアを釜山国際映画祭に譲ったことが個人的にはなんとも惜しまれるが、韓国エピソードが重要なキイとなって、韓国が誇る名優にして、韓流ファンにとっては「長家」グループ会長ユ・ジェミョン(『梨泰院クラス』の食つながり!)特別出演となればやむなし。
映画版らしく、食材を求めて破天荒な展開で韓国にたどり着くサービス満点のレシピ。おまけに、杏、内田有紀、磯村勇斗、村田雄浩、オダギリ・ジョー、遠藤憲一(役名、タイトルとも言い得て妙!)と役者揃えが良く、とりわけ冒頭からの塩見三省登場には2人の長い来し方が透けて見え胸打たれる。
また、物語の根っこに据えられた「さんせりて」すなわちフランス語の「真心・誠実」という店名にそっと寄り添うタンポポのデザイン画には、食のドラマ製作者としての先達伊丹十三への敬意の沸騰を見せられた思いを抱かされ、松重豊の役者と言うより人としての魂、姿勢にただただ感服させられりばかりであった。結末部のシーンは、オマージュを超えた年長の映画愛好家が等しく感涙の抒情に溢れている。
加えて、個人的にはこれが大事と感じ入ったところなのだが、松重豊が牽引するスタッフ、キャストが等しくB級小品であることをわきまえ、徹している。くどく繰り返しになるが、かえすがえすもワールドプレミアを釜山国際映画祭に譲ったことが残念でならないが、本作はTIFFのオープニングとはなり得ない。実にガラ・セレクションたる立ち位置ではある。おそらく、そこまでの熟考もあったろう。松重豊の監督デビューに喝采を贈りたい。
待望の全国公開は年明けの一月予定。
(本稿画像は、©2024 TIFF)