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芥川賞「この世の喜びよ」レビュー

10日は文藝春秋、発売日。2月に書店に並ぶ三月号は年度下半期芥川賞掲載号で、今期は2作。まずは井戸川射子「この世の喜びよ」を読了してのレビューなのだが、これがはたと難しい。もう一作あるので、まだ選評未読で、どう推されたのか知り得ていないが、どうなのだろう。この作品のどこが画期的なのか、受け止められない。二人称の語り口は、久方ぶりの感があるものの、その立ち位置だけで評価されたとは思えない。喪服売り場とゲームセンターが向き合って共存する空間への着目、設定がいいのか。そこにあって、不登校気味の中学生に、自分自身の2人の娘を重ね思いを巡らす展開の、どこが評価され、一気に芥川賞まで駆け上がったのか。文章はよくこなれて停滞感、全くなし。一気に最後の場面まで連れて行ってくれる。しかし、いままで出会ったことがないほど斬新、新鮮かと考えても、確かにそう、とは言えない。その想念の実相を過不足なく描き切り、それを「この世の喜びよ」と言われても、ああそうですか、としか返せない。頑固になりつつある年配者の柔軟性のなさでしかないのかな。ともに喜べず、残念。

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