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田中英道氏の新「源義経=ジンギスカン」説 (ちょっとG7広島サミット的な)

東北大学名誉教授(美術史)で右翼の大物、田中英道氏とは政治的立場はまるで違うが、彼のトンデモ的、都市伝説的日本史、というか日本偽史は大好きで、はっきり言ってファンです。

日ユ同祖説の新展開について、以前も取り上げました。


また、田中氏の戦後左翼批判に共感するところあります。


その田中氏が、昨年から「義経=ジンギスカン(チンギス・カーン)」説の再評価に取り組んでいる。

義経は、東北の平泉で死なずに、北海道経由で大陸に渡り、モンゴル帝国初代皇帝となった、というのは、ご存じのとおり昔からある説です。

義経は死なずに逃れた、という話は江戸時代初期からあったそうですが、義経がジンギスカンとなった説は幕末のシーボルトが唱え、大正13年刊の小谷部全一郎『成吉思汗ハ源義経也』が大ベストセラーとなって世間に広まりました。


さて、田中氏がどんなことを言っているのか、大いに期待して、2日前にYouTubeに投稿された動画を見てみました。

「成吉思汗の名は義経の静御前への愛から生まれた」(田中英道)


うーん、期待はずれでした。

使い古しのネタばかりで、新ネタがない。

「成吉思汗の名は義経の静御前への愛から生まれた」とか、「本名のテムジンは『天神(菅原道真)』だ」とか。

「成吉思汗」は「吉野に成りて水汗を思う」、つまり、「吉野に行ったつもりで水汗(水干、武士の装束)を着て踊る君(静御前)を思っていますよ」という意味で、義経の恋情がこもっている、というのは高木彬光+仁科東子の説。

「テムジン」がジンギスカンの本名とされるのは、自分は「天神」さま、つまり菅原道真のように追放された身だ、と義経が自称したから、というのは佐々木勝三の説だ。(ちなみに、田中氏によれば、菅原道真はユダヤ系だ)

(田中氏は以前の動画で、「ジンギスカン」という名は、「源義経」をローマ字書きした「GENGIKEI」から来た、と言ってましたが、説を変えたのでしょうか。)


田中氏らしい点は、肖像画の義経とジンギスカンの顔が似ているという考察と、モンゴルがイタリアのルネッサンスに影響した、という美術史家らしい(しかしアヤフヤな)話くらいでしょうか。

言われてみると、2人の顔は、確かに似ているといえば似ているのですが・・


頼朝に追われ平泉でやつれていた頃の義経(=ジンギスカン)。美男でないからリアルだ、と田中氏はいう
羊肉食って大陸でブイブイ言わせていた頃のジンギスカン(=義経)


日本人の「道徳的偉大さ」


ただ、田中氏が本当に言いたいのは、そういう細かい点でないことは伝わってきます。

田中氏は、「日本人は道徳心において偉大だ」と言いたいわけですね。

その強調点がちょっと新しいかもしれない。

日本人である義経は、偉大な道徳心を持っていたから、モンゴルに行っても、たちまちモンゴル人を心服させた、と。

世界史上、最大の帝国は、日本人の偉大な道徳心によって築かれた、と。

世界を指導できるのは、日本人の偉大な道徳心だけなのだ、と。


文明において最重要なのは「道徳」であり、その点で中国文明などは「日本文明」にまるで及ばない、というのが田中氏の持論ですね。

「日本文明」の、その道徳心の源泉は、天皇です。

田中氏によれば、義経はもともとユダヤ系(出た!)なわけです。

日本に来たユダヤ人は、田中氏によれば、天皇の偉大な道徳心に心服して、みんな「同化」しちゃうんですね。

義経なんかも、ユダヤ的な頭のよさと、日本の天皇に感化された偉大な道徳心の両方を持っている。


でも、日本国内では、本物の天皇がいるから、自分は天皇になれない。

だから、大陸に渡って、大陸の天皇になろうとした、と。

ということは、モンゴル=元帝国は、大陸に築かれた「大東亜」帝国だったわけです(と、田中先生が言っているわけではないが、そう言いたいのだと思う)。

義経時代のモンゴルは偉大だったけど、彼が死んだあとの元帝国は堕落して、日本に攻めてくるような過ちをおかす。

でも、日本人の道徳心はモンゴルに残っているから、モンゴル人は立派な力士になる。(まあ、そうでないモンゴル力士もいたようですが、とここで田中先生のセルフツッコミが入る)

モンゴルが野蛮だったというのは西洋の偏見で、本当は日本由来の偉大な道徳心が武器だった。

(同様に、大日本帝国は野蛮だったと言われるが、そうではなかった、と言いたいのだと思う)

だから、日本が統治したときの朝鮮も道徳的だった・・とか、まあ話はどんどんやばい方向に広がります。


でも、どうですか、気持ちいい話ではないですか。私も、いまこれ書いていて気持ちいいもん。

G7を終えたあとの岸田首相みたいな気分ですよ(お疲れさまでした)。

戦争には負けたけど、道徳心、というか精神性ではこっちが上だ、みたいな。

(でも、結局、戦争に勝たないと悲惨なんだよな、と同時に思ってしまうところがどうも・・)

気持ちはいいんだけど、もうちょっと新しいネタはないのか、と思うーーいや、G7ではなく田中氏のことですが。


80を超えてお元気なのは何よりですが、いつも右翼のお仲間とだけ話していると、学者としてはダメなんじゃないですかね。

今後の新しい展開に期待しています。

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