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【Netflix】「終わらない週末」秀逸な政治スリラー オバマ元大統領プロデュース

<概要>

終わらない週末 Leave the World Behind
2023 | 年齢制限:16+ | 2時間 21分 | ヒューマンドラマ
のんびり週末を過ごそうと、豪華な別荘を借りた一家。だが到着早々、サイバー攻撃により携帯やパソコンが使えないという不測の事態が起こる。そして、玄関口に見知らぬ男女2人が姿を現す。
出演:ジュリア・ロバーツ、マハーシャラ・アリ、イーサン・ホーク
(Netflix公式サイトより)


<評価>(ネタバレなし)


期待しすぎなければ、とてもいい、意味深な映画です。

得体のしれないサスペンスがずーっと続く映画。

ナイト・シャマランの映画かと思うほど不条理で、最後近くまでミステリアスで、「敵」の正体がなかなか見えない。


私はこれは「政治スリラー」だと思って見ました。

バラク&ミシェル・オバマがプロデューサーに入っているのもダテじゃない。

日本にも共通する、現代の政治状況を表している。


平和な週末旅行を楽しむはずの一家が、何者かの陰謀のようなものに巻き込まれていくーー。

まあ、たとえば、ですよ。中国が日本に攻めてきた、とする。

そうすると、こういうふうになると思う。

もう、軍と軍がたたかうような「戦争」にはならない。


軍隊とか、警察とか、政府とか、ふだんは頼りになりそうな連中は、一切出番がない。

ただただ不気味で制御不能な状態がつづく。

そして、否応なく「世界の終わり」を認めざるを得なくなる。


社会が複雑になりすぎた、という認識がある。

もう、だれにも、世界を見通せなくなっている。

でも、なんとなく、「敵意」が世に満ちているのはわかる。

そんな現代の雰囲気を、この映画はうまく表現しているんですね。

私は、アガサ・クリスティの唯一の政治スリラー(最低作とも言われる)「フランクフルトから来た男」を連想しました。


そういう世の中で、人びとは、原初的な「連帯感」を失ってしまった。

社会が分断され、隣人への信頼感を失ってしまった。

それが、たぶん、この映画のーーそしてバラク・オバマたちのーーいちばん言いたいことですね。

最後の最後、「敵」が目の前に攻めてこんできたとき、それを思い出すかもしれないが、もう遅い。



原作はルマーン・アラムの2020年の小説。早川から翻訳が出ています。


バラク・オバマは、原作小説のファンで、現実政治をいちばん知っている彼が、映画にリアリティをもたせるために、いろいろ意見を述べたそうです。


本作は、オバマの製作会社「ハイヤー・グラウンド・プロダクション」のフィクション第一作(これまでノンフィクション作品をいくつかつくっている)。

この作品のポイントの一つは、白人家族と黒人家族が出てきて、その「階級」の差異でお互い気まずい思いをする、というところらしいけど、日本人にはわかりにくいね。

でも、「階級」「人種」的ニュアンスは繊細かつ大胆に描かれていて(ジュリア・ロバーツが「ヒップホップ」で踊るところとか)、そのあたりにもオバマのアドバイスが生きていそう。



「テスラ」が登場する場面が、いちばんコワかった。

あのシーンにアカデミー賞をあげたい感じ。



ジュリア・ロバーツがすばらしい。

現代人のイライラ感や抑圧された怒りを見事に演じて、共感できる(オスカー候補になっておかしくない)。もっとたくさんの映画、ドラマに出てほしいね。

あと、久々のケヴィン・ベーコンも、もっと長く映ってほしかった。

そして、ジュリア・ロバーツの娘役の女の子(ファラ・マッケンジー)がよかった。非常に複雑、かつ神秘的な役柄で。

最後のシーンは、賛否両論あるみたいだけど、あの子が最初からずーっと伏線つくっているから、納得できるし、しかもコワいエンディングになっている。(もちろん、そこで流れる音楽が、痛烈な皮肉になっている)


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