
「ネイビーシールズ伝説の指揮官に学ぶ究極のリーダーシップ」
リーダーとはどのような存在なのでしょうか。企業の経営者や組織の指導者、チームのリーダーに求められる資質。それは権限を持ち、指示を出すだけでなく、すべての結果に対して「自分が責任を負う」という覚悟を持つことです。この考え方を、米海軍特殊部隊ネイビー・シールズの元指揮官であるジェッコ・ウィリンク氏とリーフ・バビン氏は「極限の責任」と名付けました。「There are no bad teams, only bad leaders.(悪いチームなどない。悪いリーダーが居るだけだ)」は強烈な言葉です。
すべての責任を引き受けるのがリーダー
戦場という極限状態では、一つの判断ミスやパニックが仲間の命を奪うことに繋がります。そのため、リーダーには圧倒的な決断力と責任感が求められます。ウィリンク氏がイラク戦争中に部隊を指揮していた際、ある作戦で味方同士が誤射し合う「フレンドリーファイア(同士討ち)」という事態に直面しました。
この重大なインシデントに直面した彼は、部隊の前に立ち「これは私の責任だ」と言い切りました。作戦の計画、指示の伝え方、部隊の連携など、すべての要因において指揮官として改善できることがあったはずだと考えたのです。この姿勢を示したことで、彼は部下や上官からの信頼をさらに強めることになります。リーダーが責任を負うことで、チーム全体が団結し、成長していく切っ掛けにすら成り得るのです。
ミスを責めず、フォローするリーダーの本質
この原則は戦場だけでなく、企業経営や日常のリーダーシップにも当てはまります。たとえプロジェクトが失敗したとしても、部下のミスを指摘するだけでは往々にして本質的な解決へと向かいません。そしてこの場合、チームメンバーの自責や萎縮に繋がり、将来ミスを増やすことに繋がるかもしれません。むしろ、リーダーは「自分の指示が不十分だったのではないか」「リスク管理が甘かったのではないか」と振り返ることで、次の成功への糧とする心構えが重要です。
なべて責任を負うことは決して楽な道ではありません。しかし、リーダーが決して言い訳をせず、問題から逃げずに責任を引き受ける覚悟と姿勢を見せることで、リーダーへの絶対的な信頼感が生まれるのです。
チームアプローチに重要なリーダーの態度
また真に尊敬されるリーダーは、部下のミスを責めるよりも、「申し訳ない。私がもっとフォローできていれば、このミスは防げたかもしれない。」と考える訳です。ミスやヒヤリハットが発生したとき、それを指摘し責め立てるのではなく、「大丈夫、次は共に乗り越えよう」「この経験から学べることは何か、一緒に考えよう」と伝えることで、きっとチームの団結は強まります。これはミスを許容するわけではなく、責任は自分が負いながらも、それを学びの機会と捉え、部下と共に前進する姿勢を示すことなのです。
このようなリーダーの下で働くチームメンバーは、次第に「この人のために全力を尽くしたい」「この人を高みに押し上げたい」と強く願うようになります。たとえ自分がミスをしたとしても、フォローしてくれるリーダーがいるという安心感は、チームの結束力を高めます。そして、リーダーのためだけでなく、チーム全体のために責任感を持って行動するようになるのです。信頼とは「責める」ことではなく、「支える」姿勢によって築かれます。
チームの力を最大限に引き出す
秀逸なリーダーは、個人の能力よりもチームの連携を重視します。ウィリンク氏はこれを「カバー・アンド・ムーブ(援護と前進)」と呼びました。戦場では、兵士が前進する際、仲間が援護射撃を行いながら敵の攻撃を防ぐことで、安全な移動が可能になります。もし一人の兵士が単独で行動すれば、敵の標的となり、部隊全体が危機にさらされるでしょう。
この原則は、ビジネスの世界でも同じです。企業の営業部と開発部、マーケティングチームと経営陣、それぞれが互いに援護し合わなければ、どんなに優れた戦略や商品があっても成功には繋がりません。「自分の仕事だけをこなせばいい」という姿勢ではなく、チーム全体の成功を目指して互いをサポートする意識が、強い組織を作るのです。また目的を共有することが重要であり、手段については自主性が重んじられるべきであるということも大切です。
冷静沈着に優先順位を決め、確実に実行する
リーダーのもう一つの重要な資質は、冷静に優先順位を判断し、着実に実行する能力です。戦場では、同時にさまざまな問題が発生します。敵の攻撃、負傷者の発生、通信障害、弾薬の不足などなど。そのすべてに一挙に対応しようとすれば、チームはパニックに陥り、かえって状況は悪化するのです。ウィリンク氏は、この場合に「何が最も重要か?」を即座に判断し、順番に対応することが肝要であると説きます。まず敵の攻撃を防ぎ、その後で負傷者を救助し、次に通信を回復する。このように冷静な判断と優先順位の決定が、混乱の中でも勝利へと導く方法論であるとします。
規律が自由を生む
さらに、ウィリンク氏は「規律が自由を生む」という逆説的な真理を説いています。一見すると、規律とは自由を奪うもののように思えます。しかし実際には、規律を持つことでこそ、真の自由を得ることができるのです。この場合、ビジネスパーソンにおける時間管理も同様のこと。自由な時間を増やしたければ、ルールを決めて行動することが大切になると言います。リーダーとして、規律を守ることは、自分自身だけでなく、チーム全体の効率を高め、成功への道を切り開くことに繋がるのです。
本書の教えは、戦場という極限状態から導き出されたものですが、その本質はどのような環境にも応用できるものです。リーダーとは、周囲に指示を出す人ではなく、責任を引き受け、チームを方向付ける存在です。成功も失敗もすべてを自分の責任とし、チームを支え、優先順位を見極め、規律を持って行動することで、組織はより強く、より成長することができるのです。
組織や仲間を引き上げるリーダー像
リーダーシップとは、生まれつきの才能ではなく、鍛え上げるもの。ウィリンク氏とバビン氏が伝えるこの原則を日々の仕事や生活に取り入れることで、より優れたリーダー像が磨かれます。すべての責任を自ら負う覚悟を持ち、仲間を守るリーダーこそ、誰もがついて行きたくなる真の指導者なのです。資本主義社会は基本的には弱肉強食の世界だからこそ、我々はこのような信頼構築の術を学び、組織をポジティブに引き上げる方法論を確立する必要に迫られています。
危機対応で見えるリーダーの本質
介護現場においても、転倒や誤飲、誤薬などと不測の事態が発生します。事故は減らすことは出来ても、完全に無くすことは出来ません。そしてこのような場合、ミスや不遇の状況が重なることが往々にしてあります。いつもと同じようにしていれば、間違いが起こらなかったであろう時、まさに事故が起こったりします。
この場合、リーダーが「私は知らない」「あなたがちゃんとしていればよかった」という価値観では、信頼は勝ち得ないであろうし、事故を隠すようになるかもしれません。まさにこのような危機対処能力こそが、リーダーの真価が発揮されるべき時なのです。たとえ自分に非が無い場合であっても、どのようにすればフォローできたのか。それを自分の責任として、自問自答が出来る人間こそ、指導的地位にあるべき者の姿勢であると考えます。