~SaaS・リテールテック~シリコンバレーの一流投資家が教える世界標準のテクノロジー教養 山本康正(著)を読んで②
本書の著者や目次の紹介に加えて、第一章で述べられている、「現在、世界で何が起きているか」については、前回の記事のとおりですが、この記事では第二章から第三章について触れて、個人的にコメントをしたいと思います。※前回の記事は以下のとおりです。
1.第二章 SaaS ものづくり時代のおわり(倉林陽氏)
第二章以降は各分野のスペシャリストの考え方を紹介しています。
第二章ではデジタルエコノミーに不可欠な「SaaSの活用」、「M&A」、「CVC」三要素について、SaaS投資の第一人者である倉林陽氏との対談形式で議論が展開されます。
経済を回す重要分野であるSaaS
SaaSとは、「Software as a Service」の頭文字を取った言葉です。自社開発ソフトやパッケージソフトを自社用サーバーに導入するのではなく、クラウド上にすでに存在しているソフトウェアを必要な分だけサービスとして利用する形態を指します。 「シリコンバレーの一流投資家が教える世界標準のテクノロジー教養 山本 康正(著)」より
アメリカでのデジタルエコノミーの中心はSaaSとなっていると倉林氏はいいます。現在のようにリモートワークの進展によって、デジタルトランスフォーメーション(DX)が求められ、そのDXの中心にSaaSがあるためです。
しかし、日本の大企業の多くは、SaaSを含めたクラウドの活用も遅れて、デジタル時代の経営に必要なM&A(合併と買収)やCVC(事業会社が自社の戦略目的のためベンチャー投資を行うこと)も遅れていると本書では述べています。
伝統的日本企業の弱点
テックリーダー企業と比較した場合の、伝統的日本企業の弱点として
・将来の成長に寄与するスタートアップより、短期的に利益を出す事業を重視している
・M&Aがないので最大の戦略的リターンを取り込めない
・CVCのプロを採用して任せることができない
の3つが挙げられます。
テクノロジーがわかる人材の重要性
そこで、伝統的日本企業においても以下の3点のスキルを重視して人材を集める必要があると本書では説いています。
・ITやデジタルを理解している
・デジタル経営(M&AやCVCを含む)を理解している
・英語力
逆に働く側としては、この3点のスキル(いずれかでも可)を得ることは、今後のデジタルエコノミー社会において重要といえそうです。
2.第三章 リテールテック 体験としての売買(前田浩伸氏、中垣徹二郎氏)
リテールテックとは小売り(リテール)事業にITやIoTの最新デジタル技術を導入すること。または、それによって実現される新機軸の技術やサービスことを指します。
近所のスーパーやコンビニでセルフレジが導入されるなど、リテールテックの一端を体験している方も多いのではないでしょうか。
第三章では流通市場に精通している、前田浩伸氏と中垣徹二郎氏に話を伺っています。
リテールテックにおける日本の課題とは何か
これまで日本では現場におけるオペレーション改善を続けることで、「おもてなし」に代表されるレベルの高い顧客体験を実現してきました。
特に小売り業界では、オペレーション自体が国内競争における差別化要因となっており、企業の強みになってきた面があります。
しかし、それがかえってテクノロジー導入の足枷になっていると中垣氏はいいます。
オペレーションが独自になっているので、パッケージソフトやSaaSなどでまかなえず、自社独自のシステムが必要となります。その結果、先端のテクノロジーに自分たちが合わせるというよりも、どうやって自分たちのオペレーションに組み込むかという発想になっていることから、テクノロジーを活用するためのマイナス要因となっているとのことです。
リテールテックの分野で日本が戦うために必要なもの
日本の小売業も過去数年間、新しいテクノロジーを現場に導入しようと努力してきましたが、試作のプロジェクトで終わってしまうことが多かったといいます。
その一方で中垣氏は、店舗内での顧客行動の見える化や複数のセンサーを駆使したデータによる解決策を提案している会社の事例を紹介しています。
しかし、小売業にカメラなどを利用したビックデータを活用することに、プライバシーの問題が提起されることも多いことから、どのように理解を得るかは今後の課題でしょう。
日本のリテールテックの分野で戦うために必要なものは、プライバシーの問題に適切に対処し、日本のビジネス環境を踏まえた上で、テクノロジーの導入に取り組むことだといえそうです。
3.第二章、第三章を読んで
第二章と第三章に共通する日本の課題として、「これまでの強みだった伝統的な経営やこれまでの創意工夫によって仕組まれたシステムが、かえって新しいテクノロジーを導入するうえで障害となっていること」が挙げられます。
日本のように、テクノロジーの導入が遅れている状況を、チャンスとみている新興国もあることでしょう。
これは、経済成長を目指す一部の新興国において、テクノロジー分野への投資に力を入れていること、また、その新興国においてテクノロジー分野での成長が目覚ましいことと深く関係していると思います。
第四章以降の内容については、改めて書きたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。