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パルマ風豚の角煮とアルモドバールの新作映画「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」とアンナ

昨年秋にパルマにオペラ鑑賞に行った際に皆で夕食をとったイタリアンと和食のフュージョンレストランで食べた豚の角煮をぜひ再現したいとずっと思っていました。

パルマのオペラ鑑賞と馬肉の前菜の話はこちら

昨年末に買った念願のアレッシ社のリチャード・サッパーデザインのココットのデビューも兼ねてじっくり煮込む料理がしたかったのです。

豚の角煮を食べたのはパルマのコルテックス・ビストロというレストラン。パルマっ子のシェフが日本人の奥さんと一緒に経営している。二人はロンドンで知り合ったとか。

食事後、挨拶に出てきたシェフの奥さんが日本からうなぎの蒲焼のタレを仕入れてきて云々、と言っていたので、要は蒲焼きの様に味付けすれば良いのだと。
*タイトルはパルマ風としていますが、実際にはこのビストロ風です。

私は35年前、渡伊当時のイタリア人の食へのコンサバぶりに辟易したので、イタリア人に和食を出すときにお醤油やお味噌で煮込んだものは出さないことにしてきたのだけれど、このレストランを選んだ友人の指揮者のお勧めで角煮を選んだ皆が「すごく美味しい」と言いながら食べていたので、これは自宅でも使えるかな、まずは試作を、と思った。

普通日本では豚の角煮にはバラ肉を使うが、そのレストランではコッパと呼ばれる豚の首のあたりの肉を使っていて、ロースなどに比べ脂はやや多いとはいえ、バラ肉よりははるかに脂が少なく、上品に仕上がるのです。


豚肉の部位の図 ©Grillo83
画像の4の部分がコッパまたはカポコッロと呼ばれる。
日本だと上肩肉と呼ぶのでしょうか?。

この部分のスライスされた物はスーパーマーケットで簡単に見つかるけれど、塊で売っているお店がなかなかなくて再現できないでいました。

先日、運河地区のダルセナ(港)にあるマーケットに久々に寄ってみたら豚肉専門店があり、塊を見つけ購入。

パルマで食べたような高さ6-7センチの厚みを買ったら900gで4人分くらい。これは人を呼ぶしかない、と最近お姉さんを亡くしたアンナを元気付ける夕食会をすることに。

作り方は以前甲斐さんに教わってよく作ったスペアリブの調理方法と同じにしてみました。
スペアリブは今まで圧力鍋を使っていましたが今回はココットで。

このリンクも参考にしましたが、バラ肉ではないので、この方法だとお肉の旨みの出た水を全て捨ててしまう事になり、どうなんでしょう?

アルモドバールの新作映画「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」とアンナのことはレシピの後に。


材料写真
リチャード・サッパーデザインのアレッシ社のココットをバックに青梗菜はパルマのレストランで付け合わせに使われていた。玉ねぎは当初肉の臭み取りにだけ使うつもりだったので写真に入れていません。臭み取りだけならお米の研ぎ水でもOKです。
肉と玉ねぎ半分を投入後、一緒に煮込んだら美味しいかと2個加えました。とろりと煮込んだ玉ねぎは美味しかったので次回は小さめのものを丸ごと入れようと思います。

<角煮材料> 4人分

・豚のコッパ(上肩肉) 900g

・生姜 1かけ

・玉ねぎ 2個

<煮込み用調味料>
・水 400ml
・白ワインまたは日本酒 120ml
・醤油  60ml
・みりん  60ml
・砂糖 大さじ 2

<付け合わせ野菜>
・青梗菜 500g
・塩
・オリーブオイル

<作り方>

1・肉は人数分に切り分け、多めの湯を沸騰させた鍋に玉ねぎの四つ割りとともに入れて7ー8分茹でる。(写真は大きめ3人分+味見用小片三つ)

2・時間が経過したら茹でた水を捨て、ごく薄くオイルを敷いたフライパンで全ての面に焼き目をつけます。(今回はこの工程を省略したので写真なし。でも焼いた方がいいはず。)

3・鍋に「煮込み用調味料」を入れ火にかけ、沸騰したら2の肉と玉ねぎと一緒にスライスした生姜も投入。

4・蓋をして30分煮込んだら、蓋をしたまま最低30分火を止めて休ませます。
温度が下がる時に肉が柔らかくなるのだそうです。

5・4の工程を3回繰り返します。
毎回煮込み始める前に肉を裏返し満遍なく味が染みるようにします。

6・付け合わせの青梗菜は縦に四つに割りよく洗っておきます。

7・頂く10分前に5のお鍋を火にかけ温めます。

8・7を温める間に中華鍋にオリーブオイルを熱し6の青梗菜を数分炒め、シンプルに塩で味を整え付け合わせ野菜にします。
*イタリアの食生活に慣れると、化学調味料の味を美味しいと思えなくなるので化学調味料は入れません。

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アルモドバールの新作映画「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」とアンナのこと

アルモドバールの新作映画「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」は病に侵され安楽死を望む女性と彼女に寄り添う親友の最期の数日間を描く物語。イタリアでは12月上旬からロードショーが始まった。日本とは異なり自殺を「罪」とするカソリックの国イタリアで「安楽死」というテーマがどのように受け止められるのかという視点でもかなり興味があった。

同じアパートで時々映画を一緒に観に行くカルラにもう観たか聞いたら「つい先日見たところ。他人のオピニオンを左右したくないから、感想に関してはあなたが見てから話しましょう。」とのことだった。。。。という事は、カルラはネガティブな感想を持った、と解釈。

そこで、しばらく会っていなかった在ミラノの日本人の友人二人と三人でクリスマス直前に見に行ってきた。
語学専門で超映画好きの澄子さんはこの映画は好きだと言った。ファッションジャーナリストの恵さんは「家の中に散在するブランド物が気になった。」と眉を寄せていた。
ファッションに疎い私はブランド物があると気が付かなかったし、あったとしても映画制作の資金集めの為だろうと思うので、澄子さんと概ね同じ意見だった。今回の映画はアメリカが舞台なのでいかにもアルモドバールらしいスペインの民族的なディテールが抜けてしまった事が少し残念だったことを除き。

その後カルラに会った時「私は気に入ったけど何が気に入らなかったの?」と聞いたら、
「主人公二人があまりにもエリートでお金持ちで、家も美しすぎて、この安楽死という万人が掘り下げるべきテーマが一部のエリートのもののように描かれているのは本当に残念でがっかりした。すごく期待していたのに。」
と力説する。
カルラは難民の保護・救済活動や死刑の廃止・人権擁護などを啓発する運動を行う国際NPOアムネスティ・インターナショナルでボランティアをしているので、そういう側面が気になるのだと思う。

アルモドバールの映画は昔から画像や特に色彩が美しいのだが、その美しさがカルラには皮肉に見えたのかも知れない。本人がブルジョワ出身のパオラも主人公がブルジョワすぎると不満そうだった。

私はデザインの仕事をしてきたので、エリートでも金持ちでもないが結構綺麗な家に住んでいる。だから美しい家に住むのがそんなに特権とも思っていないという違いもある。

昨年クリスマスに風邪をひいてベットに釘付けになっていた時チャットをしていたファブリツィオはカルラとは対極の意見で「死への入り口の扉で美しい環境なのは素敵な事だ。」という。確かにそれも一理ある。彼は現役時代テレビ番組のエグゼクティブ・プロデューサーをしていた人だからそういう見方ができるのかもしれない。

***

そんな風に映画と安楽死に関する意見交換を色々な友人と交わして1ヶ月半経った頃、

「姉の最期に付き添うために帰省する。もう直ぐ飛行機に乗るところ。」
と、アンナから電話があった。午後の中頃。

かねてからの肺の問題と最近の交通事故で酸素マスクを装着しなかれば生活できない状態になってしまったお姉さんが、植物状態で生きるのは嫌だと酸素マスク装着を拒否して死ぬ覚悟を決めたのだという。

アンナはサルデニア州カリアリの大きく景気の良いパン屋さんの娘で七人兄弟姉妹で育った。特に姉妹三人は結束が強く一日数回電話し合うほど硬い絆で結ばれていた。

そしてその日の夜の9時には
「姉が私たちを残して逝ってしまった。」
とメッセージが入った。

私が彼女のお姉さんの立場でも同じ選択をしたと思う。

勇気のある正しい選択をしたとも思う。

でも、残された側には、僅かだが自殺されてしまったような苦さが残るのは否めない。
美しい画像の映画では描き切れていない一面だ。

落ち込まないように、色々な実務をテキパキとこなしているアンナを思うと、余計に胸が痛む。泣き崩れてくれる方が見ている側は楽なんだけど。。。

だから「ねえ、明日の晩空いてたら、豚肉を日本風に料理するから食べにこない?初めて作るから美味しくできるかわからないけど。」と誘ってみた。

そうしてオーガナイズした会食では、食事中皆何も無かった様に同席した澄子さんの引っ越しと家探しの話題で盛り上がり、食後は投資関連の話を続け夜がふけた。


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