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会計検査院のお仕事 その6 〜原子力関係〜

前回に引き続き筆者が指摘に関与した案件をご紹介します。今回は、原子力災害発生時に備えて実施した放射線測定器に関する指摘です。

前回の記事はこちら

概要

原子力発電施設等緊急時安全対策交付金事業において、整備した簡易型電子線量計等が仕様書に示された内容を満たしておらず、空間放射線量率を測定できなくなるなどのおそれのある状態となっていたもの (内閣府 9651万円)

以下の引用文については、太字を中心に拾い読みしていただければと思います。

 これらの交付金事業は、 2 道県が、原子力発電施設からおおむね30km圏内の区域において原子力災害に伴う緊急時モニタリングの体制を整備することを目的として、空間放射線量率を常時測定して伝送する機能を有する簡易型電子線量計79 台(北海道 60 台、青森県 19 台)を整備するなどしたものである。電子線量計は、電気事業者の電線路から架空引込線により直接又は中継用ポールを介して商用電源を引き込むための受電用ポール(引込柱)と、受電用ポールに固定された空間放射線量率を測定するための検出器、測定データを送信するためのデータ伝送装置等で構成されるものとなっている。
 しかし、引込柱として用いられた部材は、3 か月程度の短い期間に限って設置し、その後撤去される臨時施設専用のポールであり、腐食による倒壊等の原因となることから常時施設用として使用しないこととなっているものであった。
 また、工事の受注者が 2 道県に提出していた強度計算書を確認したところ、引込柱の基礎の安定計算が行われていなかった。そこで、 2 道県が設置した引込柱計 81 本について、電気事業者が電線路の支持物に係る設計を行う際に広く使用されている配電規程等を用いて、所定の風圧荷重等が加わった状態における引込柱の基礎の安定計算を行ったところ、全ての引込柱において、配電規程等により必要とされている安全率を下回っていた
 したがって、本件交付金事業(交付対象事業費計 96,519,600 円)は、整備した電子線量計等が、堅牢にして長期間の使用に耐えられるように設置することなどの仕様書に示された内容を満たしておらず、空間放射線量率を測定できなくなるなどのおそれのある状態となっていて補助の目的を達しておらず、これに係る交付金計 96,519,600 円が不当と認められる。

https://www.jbaudit.go.jp/report/new/all/pdf/fy01_04_02_05.pdf

解説

この電子線量計は、原子力災害時に空間放射線量率を測定して、近隣住民の避難等に活用されるものです。電源を確保するための引込柱ついて、次の2点から倒壊するおそれがある状況となっていました。

① 腐食しやすい部材の使用 
② 基礎が安定していない

このうち、筆者は②の指摘を行いました。これだけでも指摘としては成立すると思いますが、後任の方が①もダメ押しで指摘されたということでしょう。

基礎の安定については、そもそも安定計算をやっていないのですが、やってみたらセーフということもあり得ます。なぜダメだったかというと、リンク先の図のとおり、コンクリート基礎ブロックが地面から張り出すぎており、必要な根入れ(地中への埋込)が足りていませんでした。

こちらの報道では、写真付きで分かりやすいです。

簡単な理屈です。地中深くにポールを埋め込めば、そのポールを横から押しても倒れないですよね。

これを工学的な知見に基づきルール化しているのが本文中に出てくる配電規程です。

詳しい話は割愛しますが、こんな↓計算をしています(電気技術者協会HPより。基礎の計算まではないです)。

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ところで、この工事の設計をしたのが誰かまで検査報告には書いていませんね。

実は、日本を代表する超大手企業です。このnoteの読者で知らない人はいないと思います。

プロ中のプロの技術屋さんが会計検査院のど素人(ていうかただの公認会計士)に指摘されてしまうんですから、世の中どうなってんでしょうね…。しかも、原子力災害への備えという極めて重要な設備の設計です。

おわりに

会計検査院では、国民の生命を守る最後の砦になり得る仕事を行っています。公務員受験生は、是非官庁訪問してみてください。



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