
希望は決して奪えない『ショーシャンクの空に』
名作映画と聞いて、この映画を思い出す人も少なくないのではないか。そう、1994年に公開された『ショーシャンクの空に』だ。
原作は『グリーンマイル』や『スタンド・バイ・ミー』でも知られるスティーヴン・キング。監督は本作でその名を轟かせたフランク・ダラボンが務める。
物語は、若くして大銀行の役職に就く銀行員・アンディの、妻とその愛人を射殺した罪を裁く法廷シーンから始まる。アンディは無実を訴えるも終身刑の判決が下り、ショーシャンク刑務所に投獄される。
荒くれ者揃いの刑務所内で孤立していたアンディは、同じく服役している調達屋・レッドに声をかけ、趣味である鉱物採集のため小さなロックハンマーの調達を依頼する。その日からアンディはレッドと交流を重ねながら、様々な過去を持つ囚人たちとの生活を始めるのだった。
トム・ハンクスやトム・クルーズなどの有名俳優からも売り込みがあったとされる主人公のアンディ役を勝ち取ったのは、ティム・ロビンス。
当時はまだ若手俳優に過ぎなかったが、監督曰く、誰に対しても優しいが腹の中では何を考えているのかわからない彼のミステリアスさが、観客にとって本当に罪人なのかが明確でないアンディ像に合致したことも、主人公に抜擢した理由のよう。それに、本国では童顔に見られるが、195cmという体格を併せ持つ存在感も、ほかの俳優にはない個性のひとつだ。
そして、レッド役は50歳を過ぎてから知名度を得たモーガン・フリーマン。
感情的、直情的な囚人たちが多い中、落ち着きがあり貫禄すら感じさせるレッドは所内でも慕われている存在。その役を見事に務めた上に、他作品にて知的で温かみのあるキャラクター像を演じてから芽を出し始めた彼がレッドに扮すると、一段と人間味も増していく。今ではすっかり、彼以上にこの役が似合う役者はほかにいるまいと思えるほどだ。
今なお世界中の人たちの心を打ち、1990年代最高の映画とまで評される本作。
刑務所内での出来事を中心に描いたストーリーではあるが、そこには普遍的なテーマでもある、抑圧や束縛から逃れるため、自由に生きたいがために希望を持ち続けることの大切さを説いている。
また、主人公のアンディは自身のためだけに希望を持ち続けていたわけではない。
例えば、仲間たちの労働の見返りとして、彼が身を切る思いで看守にビールを要求する場面。もちろん最初は衝突するが、結果的に囚人と看守、それぞれの立場を越え、そこにいる全員がひとつになる様子は美しいとすら思えてしまう。
どんなに気の合わない人とも協力し合い、目の前の課題を乗り越えていく様は、なにもフィクションの中に限る話ではない。職場や学校、そのほか集団の中における、現実の僕たちにだって重ね合わせることができる。
多くの困難に押し潰されそうになりながらも相当の覚悟で信念を貫くアンディを見ていると、まさに彼こそが希望そのものに見える。
そしてそれは、レッドやほかの囚人たちが感じている、彼の印象そのままなのだ。
「希望は危険なんだ。希望は人を狂わせる。塀の中では禁物だ」
入所したての時は洗礼として多くの憂き目に遭うものの、アンディがその知識を活かし、相続税に悩む看守に助言したり、刑務所長の税務処理をも任せられるようになった頃、レッドはアンディにそう言う。いくら信頼を得たところで罪は軽くならないことをレッドは知っているからだ。
それにそれは、何十年も服役しているレッドにとって、刑務所以外の場所でなんて生きていけるはずもないという、彼自身の考えでもあった。
「他人からは決して奪えないものがある。希望だよ」
そんな忠告にアンディが返した言葉。この言葉にこそ、この映画の本質が詰まっている。
レッドはそれを聞いてどう思ったのだろう。もしただの理想主義者に映ったとしても、アンディは物語終盤に実際に希望を勝ち取っていくのだ。その姿にレッドを含め、観客のどれだけの人たちが勇気づけられたのだろうか。
この先凹むことがあっても、そのたび僕は『ショーシャンクの空に』を思い返すだろう。
そして、たとえ大きな困難に見舞われても、目指す光が小さくたって諦めやしない。そう自分に誓って未来に進んでいく。それこそが誰にも奪うことのできない、アンディが教えてくれた、僕にとっての希望なのだ。
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