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2024年6月の記事一覧
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―1.モノローグ
❅1モノローグ
夜の闇を全速力で駆け抜ける。
もしも捕まったのなら俺たちを待ち受けるのは死か絶望かはたまたそれよりも惨い生き地獄か。
考えただけでゾッとする。
闇はすぐ後ろまで迫っている。
逃げても逃げても追いかけてくる。
一秒、また一秒無慈悲に刻むように真綿が喉元を締め上げるように。
息が上がる。
逃げなきゃ。
肩をあげて必死に取り込む酸素が肺を拒絶するように拒んでいく。
悲鳴に似た呼気の音。
❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―2 いっそ残酷なほど美しい 「#創作大賞2024応募作品」
2. いっそ残酷なほど美しい
片道の切符を通して電車に乗り込む。
扉の入り口脇。お気に入りの指定席。
最後尾の少し人の少ない場所。
この窓から切り取られた空を、景色を見るのが好きだった。
居場所を見つけて不意に彷徨った手が上着を掠めて疑問に思う。
「あ…。玄関閉めてきたっけ…。」
電車に揺られながらポケットに手を突っ込んで引っ掻き回してもそこにあるはずの金属は一向に指に触れない。
一度手を出して
❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―3. この先の寂しくて孤独で退屈な人生の最後の手向けに 「#創作大賞2024応募作品」
3.この先の寂しくて孤独で退屈な人生の最後の手向けに
深紅に彩られた燃えるようなルビーの瞳をした少年がスマホを熱心に覗きこんでいる。
そのルビーは濁りきっていてお世辞にも綺麗とは言い難い。
映し出された画面の検索ボックスには、
―――――『確実に死ねる方法』
そして、少年の細長い指先が検索結果をタップする。
Loading画面に少年は寂し気にため息をついた。
パッと画面に文字の羅列が浮かんだ瞬間
❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―4.どうせ、捨てようと思ってた命だ。アンタの好きにすればいい。 「#創作大賞2024応募作品」
4.どうせ、捨てようと思ってた命だ。アンタの好きにすればいい。
一つ深く息を吸って
「それで、アンタはどっから来た?あの電車はどこにつながってる?」
目線を逸らして聞いた。
「…サマエル。」
「は?」
どういうことだ?
サマエルってとこから来たってことか?
サマエルなんて地名聞いたことないんだけど。
首を傾げる僕に
「サマエル。アンタじゃない。」と付け加える男。
そっかそっか、この男はサマエルっ
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍-5.今でも俺はおまえにあまいらしい
5.今でも俺はおまえにあまいらしい
サマエルはおぶってきた暁をその部屋にあったソファーに座らせ、目に入ったクローゼットから数着取り出し暁の着ていた服をはぎ取り着替えさせた。
そのままベットに移動させようと手を伸ばしたところで濡れた床が視界に入った。
少し考えて足元を見れば全身の服の端から水滴が落ちて水たまりを作っている。
チッと舌打ちを一つ零したサマエルは、先ほど入ったクローゼットから自分でも着
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―6.ーー「決めるのは君自身だよ。」
6.――「決めるのは君自身だよ。」
「紫月の姫、本日の朝食はどちらで召し上がられますか?」
ちらりと自室の出入り口を見やれば紺色の燕尾服を着て笑みの仮面を張り付けた執事が立っている。
「嗚呼、もうそんな時間なのか…。」
時計を見やって一つ溜息を溢す。
「今日はここで頂くよ、お願いできるかな。」
「ええ、承知いたしました。」
執事は扉の前から一歩たりとも動かずその場でなにかメモを取ると
「では、半
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―7.いくら大切にしようと愛そうと守れんこともある。
❅7.いくら大切にしようと愛そうと守れんこともある。
広い講堂の片隅、ひやりと冷え切った薄暗いそこには魔界のヴァンパイア界における権力者たちが集まっていた。
上席に座っていたヴァンパイアのおさ。
お偉いさんの中でもトップに立つ者。
そのおさは難しい顔をして補佐のヴァンパイアの権力者達の主張を聞いていた。
「なぁ、その年になりゃ分かんだろ?幸せってのは誰かの不幸の上に成り立っているもんなんだよ。
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―8.「言わせたい奴には言わせておけばいい。」
❅8.「言わせたい奴には言わせておけばいい。」
まだ夜も開けぬ真っ暗な中ろうそくを持って天上の入り口で待っていた。
外は風が吹いていて肌寒い。
僕の荷物はどうやら昨日積み込まれたらしい、今手に持っているのは小型の手持ちトランク一つ。
暗いからか気を抜けば涙が溢れそうになる。
それを握りしめる手と唇を噛み締めることでなんとか耐えている。
少しでも心が揺らげば今にも泣き叫べぶことが出来るだろう。
ち
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―9.僕の血統は紫月の姫の伝説
❅9.僕の血統は紫月の姫の伝説
紫月の姫の伝説。
それは、この魔界に住むヴァンパイアならだれでも知っているだろう歴史。
何故紫月の姫がここまで知れ渡ってしまったのか。
何故紫月の姫がこんなにも祭り上げられているのか。
それは、紫月の姫の起源にある。
今ではもう何千年前にもなる大昔。
魔界と人間界が分断して何度目かの夜だった。
ある時、紫色の月が夜空に瞬いた。
その月は大層美しかったらしい。
月
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―10.誰でもないサマエルが僕を肯定してくれた。ただそれだけで僕は救われたんだ
❅10.誰でもないサマエルが僕を肯定してくれた。ただそれだけで僕は救われたんだ。
あの夜、サマエルに話した。
紫月しづきの姫のこと。
僕の生い立ちと僕の血のこと。
“サマエルなら”そう思った。
サマエルなら大丈夫。
わかるんだ。
サマエルは僕を見捨てない。
でも、ほんとは凄く怖かった。
―また信じるの?
―また裏切られるの?
――またあの地獄に戻るの?
もし…。
もし、サマエルまで失ったら僕は。
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―11. サマエルのその当たり前がどれだけ僕を救っているかなんてきっとこれっぽっちもわかってはいないんだろう
❅11. サマエルのその当たり前がどれだけ僕を救っているかなんてきっとこれっぽっちもわかってはいないんだろう
中庭を抜けた先の屋根の上、僕らの隠れ家は風が気持ちよくそよいでポカポカと温かい。
空は青く澄み渡っていてふわあぁっとあくびを溢す。
お昼寝日和だといわんばかりにサマエルと2人寝転がっている。
ふと思い立って隣のサマエルへ「なぁ、サマエル。」と声を掛ければ「なんだ。」と小さな声がかえって
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―12.――俺に役割があるのなら喜んで引き受けるさ。
❅12.――俺に役割があるのなら喜んで引き受けるさ。
最近、ミハイルがおかしい。
そう肌で感じ取った違和感はすこしづつ膨らんでいる。
今日は一層顔色が悪かった。
何かあったらすぐに助けてやりたい。
だが、心配したと告げて申し訳なさそうにするミハイルは見たくない。
ミハイルに罪悪感を植え付けることなんかしたくない。
それに口下手な自分がうまく伝えられるとも思わない。
誤解でも生めば億劫だし、一度産
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―13.Luna s-a părăsit umbră
❅13.Luna s-a părăsit umbră
月が欠けて闇が光を食いつぶそうとしている。
最後の命を楽しむように揺ら揺らと光が揺れる。
ミハイルの心の柔い部分に無遠慮に土足で上がり込んでしまったあの日誓った言葉はあれ以来なんの音さたもなく平穏な日々に覆い隠されていた。
ミハイルはあれからも一度も俺を頼ろうとはしない。
だた、隣に並ぶことだけで何もできない自分が何もしてやれないもどかし
「#創作大賞2024応募作品」❅ルナティックエンメモア Lunatic aime moi -紅紫藍―14.――『許さなくていい。だから俺の前から消えるな。』
❅14.――『許さなくていい。だから俺の前から消えるな。』
結局無力な俺の前で悠々ゆうゆうと新しい月がまた生まれては育つ。
深夜、ひゅと息の詰まる感覚にふと目が覚めて寒気のような背筋が凍る嫌な感じがした。
夜更けの肌を撫でつける風のひりつく涼しさを無視して。
真夜中の真っ暗なキッチンにサマエルは急いだ。
まるで切り裂かれた古傷が痛むように痛みが自分はここに確かにあるのだと叫ぶ。
指先が痺れて目を