「認知症高齢者の生活を支える。」 ~環境作りから始めましょう~
「親が認知症なって生活を支える為に大切なものは何ですか?」
「認知症の状態にある方への環境変化がもたらす影響ってありますか?」
「認知症ケアに適した環境づくりを教えてください!」
そのような質問が多数あります。
認知症を患っても安心して、その人らしく生活をするためには、環境を整える事がとても大切です。
今回はなぜ環境づくりが大事なのか、適した環境づくりの方法などについて紹介します。
認知症の方は環境変化に敏感
認知症の方は何事にも敏感になっていて不安いっぱいの毎日です。
それは何かがおかしいと感じ、忘れっぽくなってきたと自覚している場合も多いです。
大きな声や大きな物音にも苦手で不安感が高まってしまいます。
認知症の人は何でうるさいのか、大きな物音がするのかなど、その理由がわからず、もしかしたら自分が原因なのかと不安になることもあります。
気持ちを落ち着かせるために「静かな環境を整える」ことやこれまでと大きく変わらない環境で安心して生活できる「なじみ」の関係など、今までと変わらない環境を整えることがポイントとなります。
環境変化がもたらす症状
周囲の人が想像する以上に、認知症の人は自分の変化や周辺環境の変化にとまどいや不安を感じており、ちょっとした違いに敏感になります。
少しでも環境が変わると、その違いがストレスになり、BPSD(周辺症状)の発症や悪化につながってしまうのです。
※BPSD(周辺症状)とは?
行動・心理症状は、周囲の不適切なケアや身体の不調や不快、ストレスや不安などの心理状態が原因となって現れる症状です。
様々な認知機能が低下し、日常生活に支障が出てきます。
そのため、できないことが増えることから、気分が落ち込み、うつ状態が見られることがあります。
例)BPSDの症状
①「怒りっぽくなる」
②「妄想がある」
③「意欲がなくなりうつ状態」
④「一人で歩き回り徘徊をする」
⑤「興奮をしたり、暴言や暴力が見られる」等。
BPSD症状を軽減させるためには「脳の活性化を向上させる」。
笑顔を引き出すと良循環をもたらし、楽しい生活の中では脳が活性化されます。
逆に不安やイライラでBPSDを悪化するため、悪循環になり不快の生活の中では脳が退化します。
環境づくり ~3つのポイント〜
・見当識への支援
見当識(けんとうしき)とは、日付や現在の時刻、場所や周囲の状況、人物の把握などを判断ができ、自身が現在置かれている状況を把握し理解する能力です。
認知症の人に「時間・場所・そこで行われていること」がわかりやすい環境を作ります。
①居室やトイレなどの位置を分かりやすいように、サインや絵などの目印(ユニットの名前や表札、図柄など)を用いる。
②時間経過をわかるように、カレンダーや時計を飾るなどの工夫を行う。
③食事の場などを分かりやすくするために、家具やものなどにより、空間の雰囲気づくりをする(食器棚など)。
④時間の流れがわかるように、調理や洗濯などに関わる行為を、本人様の目に入るところで行う(野菜の皮むき、盛りつけなど)。
・刺激の質と調整
認知症の人に適した環境を提供し、ストレスや混乱を減らす。
①昼夜の時間変化が分かるように、照明は意図的に「昼間は明るく」「夜は抑える」
③入居者になじみのある時代や文化を反映した絵画や装飾品を取り入れた環境づくりをする。
④色調、家具、床や壁など施設全体のインテリアは、調和がとれ、違和感をもたせない。
⑤部屋には、消毒や清掃などの施設的な臭いではなく、生活を感じさせる香り(新鮮な花や食物など)を採り入れる。
⑥テレビや電話の着信音の音量を、低いレベルに抑える。
⑦部屋の窓は、カーテンなどにより日差しの調整が容易にできるようにする。
・自己選択の支援
居場所や好みのものを自己選択できるように環境をつくる。
① 就寝、食事、入浴時間などを入居者の状況に対応させる融通性
ある。
②食事の献立に対して意見を出したり選択することが出来る。
③ 外出は、自由に出来る。※一人で外出が難しい場合は付き添いをする。
④部屋のカーテン、空気、明るさなどをご本人様も容易に調整することができる。
⑤ご本人様の希望により、部屋の家具配置や衣服の入れ替えすることができる。
参考: 認知症高齢者への環境支援のための指PEAP日本版3
※注意するポイント
ご本人様の許可なく部屋を模様替えしたりなど、急な環境変化は、ストレスの原因になります。認知症の方がリラックスして過ごせるよう、本人のペースに合わせましょう。
普段から家族関係など周囲の人間関係を良くすることで、安心してもらうことも大事です。
環境と転倒
ご自宅の環境が悪化すると、転倒につながる危険性があり、床や手すり、段差、などの環境に起因するものがあります。
環境を整える際にチェックするポイントをご紹介していきます。
例)
「玄関の段差、敷居などの段差」
段差を緩和する玄関台や手すりを設置することで負担は大きく変わり、専用の滑り止めをつけると、階段を踏み外してしまうリスクを下げることができ転倒予防につながります。
「コードなど引っかかりやすいもの」
床に散らばった物はつまずきの原因となるため片付けるようにしましょう。
電化製品のコード類も足に引っかかると危険なので、壁に沿わせたり、カーペットの下に通す等の対策が有効です。
普段の行動をよく観察することが大切です。
環境を整えることで転倒を完全に防ぐことができるわけではありませんが、要因の多くを減らすことができます。
これらのことから、環境の整備が健康寿命の延伸につながります。
※健康寿命:健康寿命とは、日常生活を制限されることなく健康的に生活を送ることのできる期間。
まとめ
認知症の人にとって、環境の変化はもっとも大きなストレスです。
イメージするとわかりやすいと思います。
・環境の変化に対応しにくくなっている。
↓
・わからない事やできない事が、少しずつ増えてくる。
↓
・なんでもやってもらう生活になる。
↓
・自分の意思で行動する事が少なくなる。
↓
・できていたことができなくなる。
このような負の連鎖にならないよう、可能な限り本人の生活習慣を継続できるように、創意工夫をしていくこと、そして困っている本人の心のよりどころになれるように尽力することが大事なことです。 昔から馴染みのある場所で、昔から見知った人や物に囲まれて暮らすほうが落ち着きます。
できることなら転居などで環境が変わるのを避け、住み慣れた地域の顔見知りの人たちの中で暮らせるような支援が、一番効果的な環境作りではないでしょうか。
※東住吉介護センターでも利用者にとって最適なプランは何かを一番に考えアドバイスさせて頂きます。健康のこと、介護のこと、認知症のことなど、お気軽にご相談ください。