【虹の女神 Rainbow Song('06)】戻りたいなぁ、あの時代に。
懐かしい。懐かしすぎる。
急性ノスタルジア中毒で呼吸困難になる寸前だった。
観ていて何度も息が詰まった。
映画そのものの良さと、自分の記憶のせいだ。
15年の時が経った僕の過去の記憶は劣化して、いいものだけが残って美化され、少しずつ事実から乖離し始めていることは重々承知している。(僕はそれを蒸留と呼ぶ)
僕らはまさに00年代の前半を学生として過ごし、映画研究会ではなかったが集団で物事を催して、出合ったり別れたり、就職してそれぞれが社会に飛び出して疎遠になったりならなかったり、新しい世界で変わったり変わらなかったりした。そんな”普通”がそのまま保存されたような映画だったから、あまりにも刺激が強すぎた。
特にリアルだった、当時の彼らの服装や話し方。
フレア気味の細いジーンズ、リュックのストラップを長く伸ばした女。開いたシャツを羽織った男。今聞くと少し恥ずかしい若者言葉や語尾の延ばし方、見覚えも聞き覚えもある。
部屋の中には謎のカラフルなプラスティックの円盤の連なりが暖簾の様にぶら下がっていて、変な小物が並んでいた。
自分を含めて、ああいう人たちが確かにこの世界に居たとはっきり思い出せる、本物の景色。
リアルもなにも、当時作られた映画なのだから当然なのだけど。
こんなタイムマシン体験のような映画は手元に残しておきたい。
大人になって、つらすぎる現実にもまれ続ける僕らの最後の逃避先として、この世界は貴重だ。
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共同脚本とプロデュースだけらしいのだが、明らかに岩井俊二氏の気配がする。醸し出す香り。
きっと面倒な実務から離れ、手間や妥協から開放されたことでいい所だけにエッセンスが残せたのだと思う。
その作り出す世界は美しく儚い。
本人も認めるとおり少女漫画のテイストが残っている。アタシの好きな人の好きな人は、アタシじゃないかもしれない。というやつ。
今回これはわりと典型的なそれで、つかず離れずの関係の男女が、どこかで素直になれば良かったのにねというお話。
一箇所だけ、説明過剰だなと感じた台詞があって、岩井監督オンリーだったらそこまで言わせなかったかもしれないかなと思ったのだけど、予告でその台詞を聞いたことでこれを見ようと思ったので結果的にはそれで良かったのだと思う。見た人ならなんとなくわかるとおもうけど。
もし若い頃にこの映画に出会っていたら、もしかしたら何かが変わっていたかもしれないし、何も変わらなかったかもしれない。
そんなノスタルジアと喪失感が、歳を取った胸を刺す。
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自分の思い出を振り返られるほど強くないし、きっとこれからも無理なので、家の奥底に眠る当時の写真やビデオ、手紙やその他沢山のなにかを再び見ることは生涯に渡って無いと思うのだけど、少なくともあの時代を精一杯生きた人たちが存在したことの数少ない証拠として残している。
よくある映画のようにそれらを焼き捨てる事は出来なかった。
それは映画のように気が向いたらいつでもレンタルしたり再放送されたりすることはない、本当にこの世に唯一のもの。
有る、という事実だけで十分。
想い出はゼリーに固めてとっておくのが一番。
そんなことを思い出させてくれた、良い映画だった。
ああ、戻りたいな。
2002年位に。