ホットパンツの10人の女/『ウルトラマンA』覚え書き(11)

今回はちょっと前置きが長い。

『ウルトラマンA』が放映された1972~73年は、「ウーマンリブ」の時代でもあった。ウーマンリブとはWomen's Liberation(女性解放)の略語。60年代、世界的に学生運動の嵐が吹き荒れるが、平和や反権威を訴える男子左翼学生が同志であるはずの女子学生を炊事洗濯などの雑用に使うなど、女性差別的な言動が目立ったことへのカウンターとして起こったとされる。

日本では、1967年に朝日新聞記者の松井やよりを中心とする「ウルフの会」が結成され、1970年には「侵略=差別と闘うアジア婦人会議」が開催され2000人を集めた。こうした動きに「ウーマンリブ」という和製英語の名称をつけたのは朝日新聞とされるが(英語では当然、women's liberationと複数形)、1971年11月には第一回ウーマンリブ大会が渋谷で開催されるなど、『ウルトラマンA』の企画が進んでいくのとほぼ並行して、この言葉が徐々に浸透しはじめていたのだ。

ウーマンリブという言葉を、さらに広く日本社会に知らしめたのが、中ピ連(中絶禁止法に反対しピル解禁を要求する女性解放連合)である。結成されたのは、偶然ながら、今回紹介する第十一話が放映された1972年6月16日の2日前。ピンクのヘルメットをかぶって厚生省前でデモ行進したり、ミスインターナショナルコンテスト会場に「ミスコン粉砕」と書いたプラカードを掲げて乱入するなど、マスコミの話題をさらった。代表者の榎美沙子の容姿も、メディアをひきつけるに十分だった。

だが、こうしたウーマンリブに対する世間の眼差しは、当時小学生だった自分の記憶をたどっても、まっとうな政治運動というより、現在でいえばネタ、当時の言い方だとイロ物扱いされていたというのが実際のところではなかったか。上に挙げた、最初に「ウーマンリブ」という言葉を使った朝日新聞の記事は、1970年の国際反戦デーに、「ぐるーぷ闘うおんな」を名乗る200人の女性が、「女らしさって何?」などと書かれたプラカードを掲げ、ヘルメット姿で銀座通りをデモした事を伝えているが、その見出しには「超ミニ美人も勇ましく」と、煽情的な言葉が使われていたのだ(加納美紀代「侵略=差別と闘うアジア婦人会議と第二波フェミニズム」『女性学研究』2011,18)。

少し後の話だと、ぼくの家でとっていた週刊読売で掲載されていた佐藤愛子の連載エッセイ『坊主の花かんざし』に「タマの話」と題した、こんな話が書かれていた。小学校5年生だったぼくも、強烈に覚えているエピソードだ。

この頃、中ピ連という勇ましい女性の集団が「女を泣き寝入りさせない会」というものを作り、恰も女鼠小僧のごとく神出気没という風に立ち現われては、男性の横暴に苦しむ女性を助けている。

という書き出しで、京都で開かれた医学総会に、愛人にしていた秘書を連れた医師が出席していたところを、本妻を先頭にした中ピ連が乱入し、医師を取り囲んで攻撃した事件について綴られる。

「なによ! メカケを公式に席に連れて来て!」と宴会場の入口でわめけば、それをきっかけに中ピ連の面々、口々にドクターを攻撃。ドクター必死で「オレは糖尿病で肉体関係は結べないのだ!」といわでものことを口走ったりする始末。中ピ連の一人がドクターの髪を引っぱると、カツラがパッと取れたという騒ぎ。

数日後、ドクターはテレビで、「私はホントに命の危険を感じました。蹴とばすんですからね。足やおキンタマを」と語ったという。

勇ましい女性たちが、浮気男の急所を蹴り上げようとした事件だから「タマの話」というわけ。さらに翌日、中ピ連は再び医学総会に現れた。

会場では事態を予想して、ガードマンがスクラムを組んでいたが、そのスクラムに向かって中ピ連は持っていた旗竿を構え、「チンアツ作戦開始!」号令一下、ガードマンの急所めがけて旗竿が突進。ガードマンは急所を庇いつ、これを迎え撃ったという。

当時(1969~76年)、東京12チャンネルで放映され人気を博していた『プレイガール』では、しばしばミニスカの「お姐ちゃん(当時の言い方)」が、悪者の股間を蹴り上げ悶絶させていた。中ピ連は本来、望まぬ妊娠に悩む女性のため、避妊薬のピルを解禁する運動のはずなのだが、佐藤愛子はそうした側面には言及せず、セクシー美女が男をぶちのめすお色気ドラマ『プレイガール』のように扱かったのだ。1975年には関西テレビで『七人のリブ』というアクションドラマが製作され、ジュディ・オングや野際陽子ら7人の女性国際捜査員が、日本や東南アジアで大暴れした。「リブ」という言葉が、本来の「解放」ではなく、「男勝り」という文脈で使われており、当時小学校5年生のぼくでも違和感を覚えた(「男勝り」という形容詞は、第九話で「じゃじゃ馬」女性カメラマン鮫島純子について使われたことを留意)。

さて、前置きが長くなったけれど、こういう時代背景を踏まえないと、今回紹介する第十一話の「異様さ」は、理解しづらいはずだ。

『ウルトラマンA』第11話/超獣は10人の女?

脚本=上原正三/監督=平野一夫

超獣ユニタングがTACの第3レーダー基地に出現。近くをスカイパトロール中だった山中隊員(沖田駿一)と吉村隊員(佐野光洋)に、迎撃命令が下る。2人乗りの攻撃機タックペース(1人乗りはタックアロー)で超獣に向かう2人だが、撃墜されパラシュートで脱出。同時に、超獣も姿を消す。

地上に落下して、山道を歩いていた山中と吉村両隊員は、途中、自転車に乗った10人の若い女性グループと出会う。当時流行した「ハチのムサシ」を合唱しながらペダルをこぐ、半袖ポロシャツにホットパンツ、ハイソックス姿の女性たちを、二人は「君たち、超獣に遭わなかったか?」と呼びとどめる。女性たちのリーダー・アヤ(美波節子)は、「私たちは大東女子大学のサイクリング部員なんです」と名乗り、危険だから早く山を下りたほうがいい、という山中隊員の忠告に「ありがとうございます」と礼儀正しく答え、去っていく。ホットパンツに包んだお尻を見せて去っていく彼女らに(すごく下品な表現だが、そんな風に写しているのだから仕方ない)、吉村隊員は「緑の風のなかを行く、美しき乙女たちか。爽やかだなあ」と鼻の下を伸ばし、今中隊員から「デレデレすんな!」とどやされる(今まで、さしたる性格描写もされなかった吉村隊員、初の「見せ場」で「スケベ」な属性を与えられてしまった)。

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