目を背けられない、高齢化の実態。
数年前、私が訪問リハビリをしていた時期のことだ。
通常は、地域の地図にもしっかり載っている住宅やマンションに伺うことがほとんどだが、中にはちょっと異質なケースもある。
ここで、ある日忘れられない事件が起きた。
一人でも多くの人に考えてもらいたいので、書いてみる。
いつものリハビリの日に起きた事件
その家も、80代の女性が暮らす大きな屋敷だった。
彼女の夫は有名企業の社長を務めていたそうだ。今では、その大きすぎる家で彼女はひとり暮らしである。
豪華な庭のアプローチは、かつては丁寧に手入れされていただろう立派な木々や花々。
今では雑草のように伸び放題で、通りにくいほど視界を塞いでいた。
それどころか、いつの間にか、猫たちが住み着く“猫屋敷”と化していた。
彼女は独りになってから、気まぐれに遊びに来る猫を、唯一の話し相手にしていた。
訪れるたびに、猫について彼女が嬉しそうに語るのが微笑ましくも切ない。大きな屋敷と猫だけが、彼女の残された日々を彩っていた。
社長夫人の「立派さ」が隠す、認知症の実態
彼女は認知症が進行していたものの、社長婦人らしい礼儀正しさと対応力がまだ残っていた。
それゆえ、遠方に住む娘から毎日電話がかかってきても、受け答えはしっかりしている。だからこそ、娘も家族も彼女の症状が日増しに悪化していることに気づかなかったのかもしれない。
そんなある日、いつものように彼女の家を訪れるも、インターホンを鳴らしても返事がない。
冷や汗をかきながら、何度も声をかけるが応答がない。
いてもたってもいられなくなり、玄関の方を覗いてみると、雑草の合間に彼女の姿が見えた。
猫に向かって話しかけているのだった。
大声で呼び続け、ようやく彼女が気づき、私を中に招き入れてくれた。
しかし、認知症の症状が進行していた彼女は、私が誰なのかを覚えていない。
驚いたのが、彼女は鍵をなくしてしまい、昨晩から屋外で過ごしていたのだという。
当時はそれが本当なのかがわからなかった(認知症ゆえ、本当かの判断がつかない)。
しかし、秋の冷え込みが厳しい季節だったため、昼過ぎに私が会いに行ったときには、彼女の身体はすっかり冷え切っていた。
リハビリどころではなく、すぐにケアマネージャーと家族に連絡を取り、彼女の状態を共有し、対応に至った。
ひとり暮らしが抱える、見えない・気づかれない危険
「寒くなかったですか?怖くなかったですか?」
と尋ねると、彼女は静かに涙を流し始めた。
認知症で記憶が混濁していても、外で夜を過ごした恐怖はしっかりと残っている。
そして、自分が鍵を失くし、自宅にも入れなくなったという事実に、深い自信喪失を感じていた。
この経験を通じて、私は痛感したことがある。
独居の特に認知症を患う高齢者は、思いがけないリスクに晒されているということだ。
認知症が進行している場合でも、家族が遠く離れて暮らしていると、日々の変化に気づけず、孤独な中で事態が悪化することもある。
そう思ってしまいがちだ。
遠くに住む家族にとっては見えてこない部分こそ、本人にとっては深刻な問題を含んでいるのだ。
自分の大切な人を守るために
この一件で、高齢者にとって家族や友人がそばにいることが、どれだけ心強いかを改めて実感した。
また、勝手な「大丈夫」の思い込みが、どれだけ危険かを再確認するきっかけとなった。
なにがトリガーとなり、このような一件につながるかはわからない。
しかし、すこし周りの人間が気にするだけで、
高齢者のちょっとした変化に気づくことができるかもしれない。
人間、結局は人とのつながりが大事なのだ。
今、同じような状況にある方々にこの実体験が少しでも役立てばと願い、noteに書き起こしてみた。
独り暮らしの高齢者が直面する現実に、どうか一度目を向けてほしい。
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