東風吹かば にほいおこせよ 梅の花……
しばらくの間、全く書けなかった。書くことがなかったわけではないのだが、書けなかった。
あまりにも生々しいことばかりで。たぶん、自分の中で整理して再構築することができない事ばかりだったのだろうと、自分なりに分析してみた。
最近、一ヶ月ぶりでお茶のお稽古に行って来た。いつもの様に羽織袴に着替えて銀座の街を歩いて、茶道教室にたどり着いた。通い始めてまだ、二年半。最初の頃は思いもつかなかったことが、茶道を習い始めて身の回りに起きた。その事を先生に言うと、
「みなさん、よく、そうおっしゃいます」
と、サラリと受け流された。それくらいに茶道を通して沢山の人が、身の回りに起きた変化を感じたということだろう。たかが、お茶を一杯点てて飲むだけなのに、と思ってもみたり。
暫くぶりのお点前は「棗飾り」と言うお点前だった。二度ばかり、以前にやった様な気がしたが、全く記憶にない。
この日は、男性の講師の方にお点前を見てもらった。以前、私に「お点前三割、日本の古典七割」と教えてくれた男性だ。
結果は書くまでもなく、ボロボロのお点前だった。お点前の最後の、主人と客の問答の場面。客に、
「お茶杓の銘は?」
と尋ねられて、
「大鏡の中から菅原道真の和歌、
東風吹かば にほいおこせよ 梅の花
あるじなしとて 春な忘れそ
から取りました、東風(こち)にございます」
と答えた。講師の男性が、ニコリと微笑んだ。
その瞬間、それまでボロボロだった「棗飾り」のお点前のことや、点前座にいて感じていた全ての迷いが雲散霧消して、清々しい気持ちに包まれた。
次回のお稽古までにまた一首、覚えて来るぞ、と気持ちも新たになった。
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