
【翻訳】アイルランド神話『リルの子供たち』

https://codecs.vanhamel.nl/Edinburgh,_National_Library_of_Scotland,_Adv._MS_72.1.38
14世紀に遡るといわれるこの物語は、ケルト神話の中でも最も有名なエピソードの一つでしょう。しかし日本語で読めるのは抄訳や翻案ばかり。なので定本をそのまま訳したものを作ってみました。
とはいえ残念ながらゲール語はさっぱりなので英訳からの重訳です (Eugene O'Curry 1863)。しかし特に韻文ではなるべくゲール語原文を参照しました。以下のウェブサイトで中世アイルランド語、現代アイルランド語、英語の対訳が見られます(ただし拙訳の底本より結末が少しだけ長いバージョンになります)。
用語について
・エリン Erin:アイルランド。
・ダーナ神族:トゥアハ・デ・ダナーン Tuatha Dé Danann、女神ダヌの一族、神々。
・ミルの子たち Mac Míleadh:ミレー族、アイルランドに最後にやってきた種族、人間。
・ダグダ Dagda:ダーナ神族の主神、大地と豊穣の神。
・タイルテンの戦い:この戦いでダーナ神族はミレー族に敗北し地上の主権を失う。
・オイリオラ・アラン Oiliolla Arann:不明。
・齢の祭り Fleidhe Aoise:秋分の日。
・白野丘:シー・フィンナヒ Sidh Fionnachaidh の直訳。北アイルランドの Slieve Gullion に比定されている。
・デリグデリック湖 Loch Deirgdheirc:訳せば「赤目湖」
・デラヴァラ湖 Loch Dairbhreach:「楢ノ木湖」
・アルバン Albain:スコットランド。
・モイル海峡 Sruth na Maoile:北アイルランド北東部とスコットランド南西部の間の海峡。
・イリス・ドウナン Iorrus Domnann:現エリス Erris、アイルランド西部、メイヨー県北西部。
・アキル島 Acaill:
・テイルギン Tailginn:「剃髪」、聖パトリックの渾名。
・第三妖精騎士団 treas rann do’n mharcradh shíodha:不明。
・マナナン:リルの子マナナン Manannán mac Lir、 海の神。白野丘のリルとの関係は不明。
・ドロム・クイン Dhruim Chaoin:地名、不詳。
・グローラ島 Inis Gluairé:
・ブレンダン Breandán (c. 484 – c. 577):航海者ブレンダンとして知られるアイルランドの修道士。グローラ島に修道院を建てた。
・鳥たちの湖:不明。
・ゲーイ島 Inis Geóidh:「鵞鳥島」、現イニシュケア諸島。
・ドンの家 Teach Duinn:冥界の神ドンが住むといわれる伝説の島。ダージー島付近の「雄牛岩」がそれだといわれている。
・モケモック Mochaomhóg (c. 550 - 656):ラテン名プルケリウス。アイルランドの修道士。
・コルマンの子レーグネン Lairgnéan mac Cholmáin: コノート王 (d. 655)
・キル・ダルーア Cill Dalua:現キラロー。

リルの子供たちの運命
Oidhe Chloinne Lir
タイルテンの戦いより後のダーナ神族について。
彼らはエリンの五つの地方のあらゆる所から集まり一堂に会した。そしてダーナ神族の長たちは言った。
「われわれは今のように分かれてエリン各地の様々な王に仕えるよりも一人の王を戴くほうが良い」
長たちの中でダーナ神族の王の候補となったのは、ダグダの子ボォヴ・デルグ、赤滝のイルヴレク、白野丘のリル、灰色丘の誇り高きミディール、そしてダグダの子エンガス・オグ、しかし彼は今の立場を好み王位を望まなかった。
王の候補であるこの五人を除くすべての長たちが会議に集い、そして彼らはダグダの子ボォヴ・デルグを王とした。その理由は三つ、彼の父のため、彼自身のため、そして彼がダグダの長男であるため。
リルは王位がボォヴ・デルグに与えられたと聞いて不満に思った。そして彼は誰にも挨拶をせずに集会を去った。彼は自分こそが王にふさわしいと考えていたからだ。しかしながら異議があったのはリルだけであり、ボォヴ・デルグが王であると宣言された。
長たちは王に服従しなかったリルを追い、彼の家を焼き、槍と剣の傷を負わせようと決めた。しかしボォヴ・デルグは言った。
「それには及ばない。その男は彼の領地を守るだろう。たとえ彼がわたしに従わなくとも、わたしがダーナ神族の王であることに変わりはない」
このような関係が長く続いた後、リルは大きな不幸に見舞われた。妻が三晩の病の末に亡くなったのだ。このことは彼に重くのしかかり、彼の心は悲しみに暮れた。彼女の死は当時の一大事であった。
この出来事はエリン全土に広まり、ダーナ神族の長たちの集うダグダの子の丘にも伝わった。
ボォヴ・デルグは言った。
「もしリルが望めば、わたしの助力と友誼が役立つだろう。なんとなれば、わが家にはエリンで最も美しく評判の高い三人の乙女、オイリオラ・アランの娘にしてわが養子である、イーヴ、イーファ、アルヴァがいる」
ダーナ神族の者たちは、これは良き正しき言葉であると応じた。
そして伝言と使者がボォヴ・デルグよりリルのもとに送られた。曰く、もしダグダの子の支配を認め同盟を結ぶのであれば、彼は養女の一人を与えるだろうと。
リルはこの同盟を良しとし、翌日に五十の戦車を伴って白野丘を出発した。彼は最短の道をとってデリグデリック湖畔のボォヴ・デルグの丘に到着し、そこで歓迎を受けた。彼を前にして人々は喜びにあふれ、その夜は手厚いもてなしと饗応があった。

オイリオラ・アランの三人の娘は養母であるダーナ神族の王妃と共に長椅子に座った。
そしてボォヴ・デルグが告げた。
「リルよ、三人の乙女より選べ」
リルは言った。
「誰を選べば良いのかわからない。しかし最も年上のものが最も貴い。選ぶべきはその娘だ」
ボォヴ・デルグは言った。
「ならば、イーヴがオイリオラの娘の中で最も年長だ。望むなら彼女を与えよう」
彼は言った。
「そう望む」
そしてその夜イーヴとリルは結ばれた。
リルは二週間のその館に滞在した後、イーヴを連れて家に戻り、そこで高貴にして盛大な披露宴を催した。
やがて彼の妻は妊娠し、姉弟の双子を産んだ。名をフィノーラとイー。さらにまた妊娠して双子の兄弟を産んだ。名をフィアクラとコン。しかし彼女はこの出産の時に亡くなってしまった。このことはリルを大いに苦しめた。彼の心が四人の子供たちに支えられていなければ、彼は悲しみのあまり死んでいたかもしれない。
その報せがボォヴ・デルグの丘に届くと、人々は三度大きく嘆きの声を上げて養子の死を悼んだ。
そしてボォヴ・デルグは言った。
「われらはあの娘を惜しむ。それを託した善き男のために。彼の友誼と忠節をありがたく思うために。だがわれらの友誼が断たれることはない。その妹のイーファを彼に与えよう」
リルはこれを聞くとすぐに彼女を迎えに行き、二人は結ばれた。そして彼女を家に連れて行った。イーファはリルと姉の子供たちを尊く愛しく思った。この四人の子供たちを見るものは誰しも心から愛さずにはいられなかった。
ボォヴ・デルグはこの子供たちを愛したために、しばしばリルの丘を訪れた。そしてよく子供たちを連れ帰り、再び家に帰すまで長く引き留めた。
その頃ダーナ神族は順に各々の丘で齢の祭りを祝っていた。それでリルの丘に行けば、四人の子供たちはその美しく均整の取れた姿で皆を喜ばせた。子供たちの寝床は父親の側にあり、彼は毎朝明け方に起きては子供たちの間に寝転がった。
しかしその結果として、イーファの心に嫉妬の矢が突き刺さった。彼女は姉の子供たちを憎み、強い敵意を抱くようになった。彼女は病を装い、ほとんど一年に渡って床に臥して過ごした。そしてその終わりに彼女はリルの子供たちに対し、謂れなき嫉妬にとどまらず、忌むべき裏切りを犯したのだった。
ある日、彼女のために馬車が仕立てられ、リルの四人の子供たちと共にボォヴ・デルグの家に向かった。しかしフィノーラは行きたくなかった。彼女はイーファが子供たちを殺害するつもりであることを知っていた。この欺瞞と子殺しの計画について夢で啓示を受けていたのだ。しかし彼女はこの悲しい宿命から逃れることは出来なかった。
そしてイーファは白野丘を離れたところで従者たちにこう言った。
「殺しなさい、リルの四人の子を。その父親がわたしの愛を捨てたために。そうすれば褒美は思うがままでしょう」
「お断りします。その子供を殺すことなどできません。そのようなことは思うだけでも罪深く、口にするだけでも災いが降りかかるでしょう」そう彼らは答えた。
彼らが拒んだため、彼女は自ら剣を抜いてリルの子らを殺害しようとしたが、女ゆえに、また生来の臆病のために、心の弱さのために果たせなかった。
そして彼らは西に向かいデラヴァラ湖の岸辺に着くとそこで馬を止めた。彼女はリルの子らに水浴びをし、湖で泳ぐように言った。それで子供たちはイーファの言ったとおりにした。イーファは湖上に子供たちを見るとすぐにドルイドの変身の杖で彼らを打った。すると彼らは四羽の美しい純白の白鳥の姿になった。そして彼女はこのように歌った。
Amach daoibh a chlann an righ,
Do sgaras bhúr síol ré séan;
Do bhúr ccáirdibh is sgéal truagh,
Biaidh bhúr nuall ré healtaibh éan.
去れ、王の裔よ
汝らの種は運を断たれたり
汝らの話に友は悲しむべし
汝らの叫びは鳥の群れと共にあり
A bhaidhbh! ro fheadamair tainm,
Do thraothais gan eathar inn,
Sinn gé churthaoi tuinn ar tuinn,
Biaidhmíd seal ó rinn go rinn.
魔女よ! われらは汝の名を知る
汝われらを船なしに打ち遣るも
われら波から波に乗り
岬から岬へと渡らん
Ro gheabham cobhair gan chleith,
Do gheabham rogha ocus rath,
Acht gé luidhfiom ar an loch,
Ar meanmna do budh moch amach.
われら見出され救いを得るべし
われら戒告と恩寵を得るべし
この身は湖上にありとても
心は疾く外に出づる
この歌の後、四人の子供たちは一斉に女の方を向いた。そしてフィノーラは彼女に話しかけた。
「イーファよ、なんと酷いことをするのか。あなたは謂れもなくわたしたちを滅ぼし友愛を裏切った。しかしあなたはきっと報いを受けるだろう。あなたがわたしたちを滅ぼした力は、あなたを罰するわれらが友のドルイドの力には及ばない。ならば、わたしたちの呪いがいつまで続くのか、いつ終わりを迎えるのかを教えなさい」
「教えましょう」イーファは言った。「だけど訊かないほうが良かったでしょうに。それは南の女と北の男が結ばれるまで。コノートの王子コブサックの子コルマンの子レーグネンと、マンスターの王イー・アリンの子フィンギンの娘デッカが結ばれるまで。それまではあなたたちの友も、どんな力も、その姿を元に戻すことは出来ません。あなたたちは生涯をかけてそれを求めるのです。三百年をデラヴァラ湖で。三百年をエリンとアルバンの間のモイル海峡で。三百年をイリス・ドウナンで、そしてブレンダンのグローラ島で。これらがあなたたちの立ち向かう試練となります」
そしてその時イーファを後悔が襲った。それで彼女は言った。
「わたしには、あなたたちを救うことはもうできません。だから、せめてあなたたちに言葉を残しておきます。そしてあなたたちは人々を眠らせる妖精の音楽を歌うでしょう。これに匹敵する音楽は他にありません。またあなたたちは理性と尊厳を保つでしょう。それなら鳥の姿であっても辛くはないでしょう」そして彼女はこのように歌った。
Eirghídh uaim a chlanna Lir,
Go ngnúis ngil, go nGaoidheilg mbailb,
Is mór oirbhir mhaccaomh mhaoith,
Beith dha seóladh ris an ngaoith ngairbh.
われより去れ、リルの子らよ
白面にてゲールの言葉を吃る
幼子には過酷なれど
荒風に駆られよ
Naoi g-céad bliadhain dhaoibh ar mhuir;
Is mise do chuir tré cheilg,
No go rabhthaoi a n-Inís Gluair
Don taobh shiar thuaidh d'Eirinn dheirg.
潮の流れに九百年
わが裏切り故に
赤きエリンの北西の
グローラの島にまで
Ionnsaighidh amach an Mhaoil,
Budh córa dhaoibh bheith dom' réir,
Go g-comhracfaidh Lairgnén is Deoch;
Fada do neach bheith a b-péin.
進め、モイルに向かって
わが導きのままに
レーグネンとデッカの結ばれるまで
永き苦しみに耐えよ
Croidhe Lir 'na chrotal cró,
Cidh mór an urchar n-áigh ró theilg;
Is saoth liom osnadh an laoich luinn
Gidh mise ro thuill a fhearg.
リルの心は血に塗れぬ
如何な武勇ありとても
哀れなり益荒男の呻吟
われこそ彼の仇なれども
この歌の後、イーファは馬を車に繋いでボォヴ・デルグの丘に向かった。長たちは彼女を歓迎したが、ダグダの子は何故リルの子供たちを連れてこなかったのかと尋ねた。
「申し上げましょう、あなたはリルに嫌われているのです。だからあなたに子供たちが囚われるのではないかと恐れて来させなかったのです」とイーファは答えた。
ボォヴ・デルグは言った「おかしな話だ、わたしは自分の子よりもあの子らを愛しているというのに」。しかしボォヴはその女が騙しているのではないかと考えて使者を北の白野丘に送った。リルは彼らに用件を尋ねた。
「子供たちのことです」と彼らは言った。
「イーファと一緒に着いていないのか?」とリルは言った。
「いいえ。イーファはあなたが来させなかったのだと申しています」そう使者は答えた。
リルはこれを聞いて悲しみに打ち沈んだ。イーファが子供たちを殺害したのだと思ったからだ。
翌日の早朝、リルは馬を駆って南西にまっすぐ進み、デラヴァラ湖の岸に着いた。リルの子らは騎馬隊がこちらにやってくるのを見た。そしてフィノーラは歌った。
Mochean do mharcshluaigh na n-each,
Do chím láimh ré Loch Dairbhreach;
Dream chúmhachtach chiamhair go beacht
D'ar n-iarraidh, d'ar n-iarmhóireacht.
迎えよ、騎馬の行列を
われはデラヴァラ湖よりしかと見たり
精強にして整然たる軍勢
われらを求めて追い来たるを
Druidiom ré h-oirior, a Aodh,
A Fhiachra, agus a Chuinn chaoimh,
Ní sluaigh fá nimh fir na n-each,
Acht madh Lir agus a teaghlach.
岸に寄れ、イーよ
フィアクラよ、優しきコンよ
かの如き騎士たちは
リルと家中の者に他ならず
この歌の後、リルは岸辺にやってきて、鳥たちが人の声で話していることに気がついた。それで彼はどうして人の声を得たのかと尋ねた。
「聞いてください、ルイの子リルよ。わたしたちはあなたの四人の子供です。あなたの妻である叔母が、妬み恨んでわたしたちを破滅させたのです」フィノーラは言った。
「元の姿に戻せるのか?」リルは言った。
「それはできません」フィノーラは答えた。「南の女と北の男が結ばれるまで。コルマンの子レーグネンとイー・ドゥの子フィンギンの娘デッカが結ばれるまで。テイルギンの世まで。信仰と献身をエリンが迎えるまで。それまでは誰にもわたしたちを解放することは出来ません」
これを聞いてリルと従者たちは天に向かって三度嘆きの声を上げた。
「おまえたちは知恵と記憶を保っているのだから、陸に上がってわれらと共に暮らしてはどうか」とリルは言った。
「それはできません」とフィノーラは言った。「だけどわたしたちはゲール語が話せます。そして妖精の音楽を歌うことが出来ます。これで皆を満足させられるでしょう。だから今夜は一緒に居てください、歌をお聴かせしましょう」
それでリルと一行は白鳥たちの歌を聴くためデラヴァラ湖に泊まった。その夜は皆安らかに眠った。翌朝早くにリルは起きると、このように歌った。
Mithid éirghidh ó'n ionad so,
Ní chodlaim, gé táim am' lúighe;
Sgaradh rém' aos ionmhuine
Is é chráidhios mo chroidhe.
別れの時は来たれり
眠らんとして臥するも眠れず
愛し児との別れに
わが心苦し
Olc an séan dá d-tugas in bhur g-ceann,
Aoife, inghion Oiliolla Arann.
Da bh-feasainnsi a bh-fuil dhaoibh dhe,
Ní dhiongnainn an chomhairle.
其は忌まわしき運命なり
オイリオラ・アランの娘イーファを連れ来たること
われ始末を知りたれば
かの勧め受けることなかりしに
A Fhionnghuala, 'sa Chuinn chaoimh,
A Aodh, 'sa Fhiachra arm-chaoin;
O bhórd an chuain a bh-fuil sibh,
Triall uaibh ní liom is mithid.
おお、フィノーラよ、優しきコンよ
イーよ、勇ましきフィアクラよ
ああ、そなたらの岸辺より
急ぎ去るに及ばず
それからリルはボォヴ・デルグの丘に向かい、そこで歓迎を受けた。しかしボォヴ・デルグは子供たちを連れてこなかったことを叱責した。
「いいや! 私のせいではない」リルは言った。「そこにいるあなたの養女で子供たちの叔母であるイーファが、エリンの民の眼の前で子供たちをデラヴァラ湖の白鳥に変えてしまったのだ。しかしあの子らはまだ人の意識と知恵と声とゲール語を失ってはいない」
ボォヴ・デルグはこれを聞いて驚いたが、リルは真実を語っていると理解した。彼はイーファを激しく叱責し、こう言った。
「イーファよ、この裏切りはリルの子供たちよりもおまえにとって悪いものになるだろう。なぜなら彼らは世の終わりには救済を得て天国に行けるのだから」
それからボォヴ・デルグは彼女に、この世で最も醜い姿のものは何だと思うかと尋ねた。彼女は「空の悪魔」と答えた。
「ならば、おまえをその姿にしてくれよう」
ボォヴ・デルグはそう言いながらドルイドの変身の杖で彼女を打った。すると彼女は空の悪魔に姿を変えて、すぐに飛び去っていった。彼女は今も空の悪魔であり、永久にそうであろう。

ボォヴ・デルグとダーナ神族の者たちはデラヴァラ湖の岸辺にやってきて、白鳥たちの歌を聴くためにそこに陣取った。そしてミルの子らもまたエリン各地からやってきて同様にデラヴァラ湖に陣取った。なぜならその白鳥たちの歌に勝るような音楽はエリンで知られていなかったからだ。
白鳥たちは毎日エリンの人々と物語を語り、会話を交わし、かつての教師や学友たち、その他すべての友人たちと話をした。そして彼らは毎晩とても甘美な妖精の音楽を歌った。それを聴いたものは誰もが幸福な気持ちになり、病気や長患いの者でさえも安らかに眠った。
そのようにしてダーナ神族とミレー族のデラヴァラ湖畔の野営地は三百年に渡って続いた。そしてある日フィノーラは弟たちに言った。
「ああ、弟たちよ、今夜でこの場所にいる時が終わることをおぼえていますか」
リルの息子たちはこれを聞いて苦悩し悲嘆した。北のモイルの怒れる海に行くのに比べれば、デラヴァラ湖で友人たちと語り合うのは人間でいるのと変わりなかったからだ。
翌日早く、彼らは父と養父に話をしに行き、別れを告げた。これはその時のフィノーラの歌。
Ceileabhradh dhuit a Bhuidhbh Dheirg,
A ghiolla d'ar ghiall gach ceárd,
Duitsi mar aon is d'ar n-athair,
Do Lir Síthe Fhionnachaidh cháidh.
さらば、ボォヴ・デルグ
諸芸の匠よ
さらば、わが父
白野丘のリルよ
Táinig mithid dhuinn, dar liom,
Sgaradh da nach cómhraicfiom,
Go d-tí an bhráth, a dhream shuairc,
Gan ar dul chugaibh ar chuaird.
今や時は来たれり
われら引き裂かれ
審判の日まで、同胞よ
汝らを訪うこと能わず
Biamaoid ón lá n-diu da'r n-aois,
A cháirde chróidhe, chómhaois,
Gan ghlór daonna 'nar ngoire,
Ar Shruth na Maoile mearaighe.
今日よりわれらの年月は
ああ、親しき友よ、同輩よ
口利くものなき絶界の
荒れるモイルの流れにて
Rachfamaoid as sin dá'r b-pianadh,
A g-cionn trí chéad ceirt-bhliadhan,
Eólas is mó dá'r b-pianadh ann,
Siar go rinn Iorrais Domhnann.
しかれどわれらの受難は止まず
三百年の終わりには
いまや悟性は責苦となるべし
西のイリスの果てに追われぬ
Trí chéad bliadhain gan fheall
Siar a rinn Iorrais Domhnann;
O loch go loch, truagh an dáil,
Go g-comhracfaidh Deoch agus Lairgneán.
欠けることなく三百年
西なるイリスの果てに
哀しき群れは湖を渡る
デッカとレーグネンの結ばれるまで
Ba h-iad ar g-cuilceadha cuanna,
Tonna sáile search ruadha,
Ionas g-ceathrar caomh cloinne Lir,
Gan oidhche dhuinn d'á easbhuidh'
塩水の波が
われらが衣とならん
リルの四人の子らに
其は夜も絶えず
A thriar bráthar as dearg dreach,
Eirgheadh uainn ó Loch Dairbhreach,
An drong chumhachtach so rómchar;
Is dúbhach anois ar sgarad.
むかし紅顔なりし弟どもよ
われらデラヴァラ湖より去りぬ
この偉大なる一族と
今ぞ別れるは哀しき
この歌を終えると彼らは飛び立った。高く、軽々と、優雅に、エリンとアルバンを分かつモイル海峡に向かって。エリンの人々はこれを悲しみ、これより後はエリンのどこでも白鳥を殺さないように尽力せよと布告がなされた。
モイルはリルの子らにとって酷い住処だった。彼らは周囲の広大な海岸を眺め、寒さと悲しみと後悔に包まれた。これまで遭ったどんな災難もこの海に比べればどうということはなかった。
ある夜、激しい嵐が彼らに襲いかかった。フィノーラは言った。
「愛しい弟たち、わたしたちはこの嵐で引き離されてしまうに違いありません。だから集まる場所を決めておきましょう。もし神が私たちを引き離したとしても、その場所で再び会えるように」
弟たちは答えた。
「姉上、皆がよく知っている『海豹岩』にしましょう」
真夜中になると風が吹き下ろし、波は激しさを増し、雷鳴が響き渡り、稲妻が光った。凶暴な嵐が海一面に吹き荒れたため、リルの子らは広い海上で散り散りになってしまった。彼らは海をさまよい、誰も他の仲間がどちらに行ったのか分からなかった。その大嵐の後、海が穏やかに静まると、フィノーラはただ一人で海上に取り残されていた。彼女は弟たちがいないことに気づき、大いに嘆き悲しんで、このように歌った。
Am riocht is mairg atá beo,
Mo sgiathain do reóidh reamh thaoibh
Suaill nar mhionaigh an ghaoth dhian,
Mo chroidhe am chliabh taréis Aoidh.
われ生きるとて哀れ
わが翼は凍てつき
烈風、これを砕かずも
わが心、イーがために痛む
Trí chéad bliadhain ar Loch Dairbhreach,
Gan dul a reachtaibh daoine,
Doilghe liom, is ní samhail,
Mo sheal ar Shruth na Maoile.
デラヴァラ湖に三百年
人ならぬ姿にて
しかれど、なおも辛きは
このモイルの流れ
Ionmhuin triar, ón íonmhuin triar
Do chodladh fá bhun mo chlúimh,
Go d-tiocfaid na mairbh go cách,
Ní chómhraicfead go bráth 'sa triar.
愛しき三人、ああ、愛しき三人
わが羽の下にて眠りしに
死者が生者のもとに来るまで
われら相見えること能わず
Taréis Fhiachrach agus Aoidh,
Agus Chuinn chaiomh, gan a bh-fhios,
Is truaigh m'fhuirioch ris gach olc,
Is mairg at a anocht am riocht.
フィアクラよ、イーよ
優しきコンよ、そなたらが失せ
哀れ、われのみ苦界にあり
この夜わが身を嘆かん
その夜、フィノーラは夜明けまで岩の上に居て、周囲の海を眺め回していた。すると羽を濡らして項垂れたコンがこちらにやってきたので、娘は歓喜して迎えた。そしてフィアクラもまた、凍えて、濡れて、まったく弱り果てた姿で現れた。彼はあまりに衰弱していたので口も利けない有り様だった。娘は彼を翼の下に抱いて言った。
「これでイーも見つかればよいのだけれど」
その後ずいぶん経ってからイーがこちらにやってくるのが見えた。彼は乾いてきれいな羽をしていた。フィノーラは彼を大いに歓迎し、胸の羽毛の下に抱いた。そして右の翼の下にフィアクラを、左の翼の下にコンを抱いて彼女は言った。
「弟たちよ、昨晩は酷い夜だったと思うでしょう。だけどこれからは何度も同じようなことがあるでしょう」
リルの子らはその後も長い間そこに住み続け、モイル海峡の上で寒さと不幸に苦しめられた。そしてついにこれまで経験したことのないほど寒い夜が彼らを襲った。その夜の霜と寒さと雪と風は比類ないものだった。それでフィノーラはこう歌った。
Olc an bheatha so,
Fuacht na h-oidhche so,
Méad an t-sneachta so,
Cruas na gaoithe so.
かくも辛き人生
かくも寒き夜
かくも凄き雪
かくも強き風
Is ann do chúmhluighsiod
Fám' chaomh-sgiathaibh,
Conn d'ar tréan-thuargainn,
Conn is caomh-Fhiachra.
彼らは隠れたり
わが優しき翼の下に
波がわれらを襲いきて
コンと優しきフィアクラは
Do cuir ar leasmháthair
Sinn, an ceathrar so,
Anocht 'san docar so,
Is olc an bheatha so.
継母の業ゆえに
かくわれら四人
かく難儀せり、この夜
かくも辛き人生
こうしてリルの子らは年の終わりまでモイル海峡で極寒に凍えて暮らした。彼らは海豹岩の上で年を越した。すると彼らは岩の上で凍りついてしまい、足と羽毛と翼が岩に貼り付いて動けなくなってしまった。彼らは無理に動こうとしたので足の皮と胸の羽毛と翼の端が岩についたまま剥がれてしまった。それでフィノーラは言った。
「ああ、リルの子らよ、なんと酷いことになったのでしょう。わたしたちは塩水に耐えられないのに塩水から離れられない。塩が傷に入れば死んでしまうでしょうに」そしてこう歌った。
Eaccaointeach againn anocht,
Gan clúmh ag tuighiodh ár g-corp,
'Sas fuar d'ár m-bonnaibh bláithe,
Ar chairrgibh andóbhráidhe.
この夜、嘆かしわれら
わが身、羽毛なくして
わが足、寒さに凍り
われら岩上に囚わる
Dob olc ar leasmháthair ruinn,
D'ar imir droídhiocht orruinn,
D'ar g-cur ar fad mara amach,
A riocht ealadh n-iongantach.
うらめしき継母
ドルイドの術もちて
われらを海原に送れり
妙なる白鳥の姿にて
As é ar bh-folcadh ar dhruim cuain,
Cúbhar an mhara mhong-ruaidh,
As í ar g-cuid thall do'n chuirm,
Sáile an mhara mhong-ghuirm.
われらが岸辺の浴場は
潮の泡にして
われらが飲めるは
青海の塩水
Aoin inghion, agus triar mac,
Cleachtmaoidh a g-cuasaibh carrach,
Ar na cairrgibh cruaidh do neach,
Ar m-beatha as éaccaointeach.
娘一人、息子三人
岩窟に隠れ
岩上、忍び難し
嘆かしわれら
それでも彼らはまたモイルの海に入った。海水は彼らに非常な苦痛を与えたが、如何ともしがたかった。彼らは羽毛と羽根が生えそろい足が治癒するまで悲惨な有り様で岸辺に暮らした。彼らは毎日エリンとアルバンの海岸へ行き、夜にはモイル海峡に戻った。そこが彼らの定められた場所であったからである。
ある日、彼らは北のバン川の河口に行き、そこで白馬で揃えた騎馬隊が南西からやってくるのを見た。フィノーラは言った。
「リルの子らよ、あの騎馬隊を知っていますか?」
「わからないが、いずれミレー族かダーナ神族の者であろう」と彼らは答えた。
それで彼らはよく見るために岸に寄った。騎馬隊の方も彼らを見るとやってきて、互いに会話のできる距離に近づいた。
彼らは第三妖精騎士団で、率いているのはボォヴ・デルグの息子のイー・アフフィサフとフェルガス・フィヒャラクであった。彼らはずっと白鳥たちを探していたのだ。そしてついに出会えた両者は互いに心から歓迎し、友情と親愛を示した。リルの子らはダーナ神族の現状、とりわけリルやボォヴ・デルグとその一族がどうしているかを尋ねた。
「皆一緒に元気にしています、白野丘のあなたたちの父君の家で。齢の祭りも恙無く祝われました、あなたたちの不在を除いて。あなたたちがデラヴァラ湖を去ってからというもの、誰にも消息が知れなかったのです」そう彼らは言った。
「わたしたちは違いました」フィノーラは言った。「今日までモイル海峡の中でとても苦労してきたのです」そしてこう歌った。
Aoibhinn anocht teaghlach Lir!
Iomdha a miodh agus a bh-fíon;
Gídh tá anocht a n-ádhbhadh fhuar,
Dream do chuan róghlan an ríogh.
今宵めでたしリルの子よ
蜂蜜酒と葡萄酒の満ちたるに
寒き家にありとても
王のまことの裔たちよ
Is iad ar g-coilcibh gan locht,
Folach ar g-corp do chlúmh chas,
Gidh minic do deargthaoi sróll
Iomainn ag ól mheadha mhas.
われらが衣に瑕疵なくも
其はただこの身の羽毛のみ
むかし衣を赤く染め
蜂蜜酒を飲みてうかれしに
Ag sin ár m-biadh agus ar bh-fíon,
Gainimh fhionn is sáile searbh;
Minic do ibhmís meadh cuill,
O chuachán cruinn cheithre g-cearn.
われらが糧と葡萄酒は
白砂と苦き塩水ばかり
むかし飲みし榛の蜂蜜酒
円杯より四つ口にて
Is iad ár leapacha, is iad lom,
Carraig ós cionn na d-tonn d-tréan;
Minic do deargthoi dhuinn,
Leaba do chlúmh ochta éan.
われらが寝床は裸なる
荒波よせし岩なれど
むかし寝し赤染めの
鳥の胸なる羽毛の床に
Gidh í ar n-obair snámh san sioc,
Ar Shruth na Maoile is trom toirm,
Fá minic marcshluaigh mhac ríogh,
Ag dul 'nár n-diagh go Síoth Bhuidhbh.
われらが務めは凍てつける
モイルの流れに泳ぐこと
むかし王の騎士たちが
ボォヴの丘にわれらを追いしに
Is é do chlaochlaidh mo neart,
Beith ag dul 'sag teacht tar an Maoil,
Mar na'r chleachtas roimhe riamh,
'Snách fágaim grian a maigh mhaoith.
モイルを渡るに
疲れ果て
むかしの如く
日輪を戴けず
Leaba Fhiachra, agus ionad Chuinn,
Luighe fá thuinn m'eite, ar Mhaoil:
Ionad ar sgáth m'ochta ag Aodh,
Sinn 'nar g-ceathrar taoibh re taoibh.
フィアクラとコンの臥すは
モイルの上なるわが翼のもと
胸の下にはイーがあり
われら四人寄り添いたり
Teagasg Mhanannáin gan cheilg,
Cómhrádh Bhuidhbh Dheirg ós Dhruim Chaoin,
Glor Aonghusa, milsi a phóg;
Do chleachtas gan bhrón ré a d-taoibh.
偽りなきマナナンの教え
ドロム・クインの上なるボォヴ・デルグの語り
エンガスの声、甘き接吻の如し
彼らの傍にて憂いはなかりき
その後、騎士たちはリルの丘に戻り、ダーナ神族の長たちに白鳥たちの冒険と安否について語った。長たちは言った。
「われらは何もしてやれぬ。だが生きているだけでも有り難い。世の終わりには彼らも安息を得るだろう」
リルの子らはモイル海峡に帰り、そこで約束の日まで暮らした。そしてフィノーラは言った。
「時は満ちた、わたしたちがこの地を離れる時が来た」そしてこのように歌った。
Táinig ar seal sonnana,
Is mithid dhuinn a iomghabháil,
Ón cuan so 'nar chleachtamair
Trí chéad bliadhan buan t-solais.
まさに時は来たれり
今ぞ出で立ちぬ
馴れにしこの入江より
三百年の歳を経て
Go Rinn Iorrais iartharaigh,
Ní budh h-usa a fhulang sin,
Luidhmídne gan mearughadh dhe,
Ré fulang na fuar-ghaoithe.
西なるイリスの果てにまで
易き旅路にしあらねど
いざゆかん、惑いなく
冷たき風をば忍びて
Gan osadh, gan oiriseamh,
Gan aoindíon ar dhúr-dhoininn;
Ní mochean a g-cualamar,
Táinig ar seal sonnana.
停まりなく、休みなく
嵐を避けるところなく
険しきと聞けども
まさに時は来たれり
そうしてリルの子らはモイル海峡を離れ、イリスの果てに向かった。そこで彼らは長い間寒さに凍えて暮らしたが、やがてその地に住むアヴリックという若者に出会った。彼はよく鳥たちに関心を向け、その歌が心地よいため彼らをとても愛し、鳥たちも彼を愛した。この若者がリルの子供たちの冒険についてまとめ、語り広めたのである。
しかしある日、空前絶後の極寒と豪雪の夜をそこで迎えた。イリスとアキル島の間の海峡全面に流氷が広がり、そのため彼らの足は流氷に張りついて動けなくなってしまった。弟たちは呻き、悲しみ、激しく嘆いた。フィノーラは彼らを落ち着かせようとしたが、どうすることもできず、彼女は歌った。
Truagh gáir na n-ealadh anocht;
Is tráigh fódheara nó is tart;
Gan uisge lionn-fhuar fá n-a n-ucht,
A g-cuirp is diombhuan ó'n tart.
今宵白鳥は嘆かぬ
こは干潮か旱魃か
胸下に冷水なかりせば
われら乾きに苦しめり
Gan uisge tana, tailc, tréan,
Gan tonn mara ag teacht ré d-taoibh;
Do theacht an mhuir mheadrach mhór,
Go bhfuil na clár cóimhfhliuch caoin.
澄める、冷たく、強き水なく
脇に寄せる波もなく
沸き立つ海は凝まりて
見事な湿れる原となり
A righ do chúm neamh is lár,
Agus tug slán na sé shluaigh,
Foirthior leat an ealtan éan,
Leantar an tréan go m-badh truaigh.
ああ、天地を創りし王よ
六氏族を守りし者よ
鳥たちをば救い給え
強き者よ憐れみ給え
「弟たちよ、信じなさい。雲の浮かぶ空、果実の実る大地、驚異に満ちた海を創った真なる神を信じなさい。そうすればあなたたちは主から助けと全き救いを得るでしょう」そうフィノーラは言った。
「信じます」彼らは言った。
「わたしも共に真実にして完全なる全てを知る神を信じます」フィノーラは言った。
彼らは時機よく信仰に帰依し、主の庇護を得た。それからは嵐も荒天も彼らに害をなすことはなかった。
それから彼らは時の満ちるまでイリス・ドウナンの果てで暮らし、そしてフィノーラは言った。
「ようやく白野丘に帰る時が来ました。リルの家に、みんなの居るところに」
「ありがたい」と彼らは言った。
そして彼らは軽やかに優雅に飛んで白野丘に着いた。しかしそこは荒れ果てて誰もおらず、屋根のない緑の土塁にイラクサが茂るばかりで、家も火の気もなかった。四人は寄り添って三度嘆きの声を上げた。そしてフィノーラは歌った。
Iongnadh liom an baile so,
Mar 'tá gan tigh, gan toighe,
Mar do chím an baile so,
Uchán is cráid lem' chroidhe.
驚くべし、この里
家なく住処なし
われ見たり、この里
ああ、わが心苦し
Gan cona, is gan conartha,
Gan mná, 'sgan ríoghraidh rathmhar,
Mar 'tá anois ní chualamar,
An áitsi riamh ag ár n-athair.
犬もあらず
女人も王もあらず
われ知らざりき
父の家がかくありと
Gan corna, gan copána,
Gan ól 'na múraibh soillse;
Gan marcraidh, gan macámha,
Mar tá anocht, is tuar tuirse.
角杯なく盃なく
宴の明るき部屋もなく
馬なく若人なく
今宵まさに悲しむべし
Mar atáid lucht an bhailesi,
Uchán is cráidh lém chroidhe,
Atá anocht ar mairesi,
Nach marionn triath an tíghe.
如何にあらむや人々
ああ、わが心苦し
この夜あきらかなり
あるじは生きてあらぬべし
A bhailesi 'na bh-facamar,
Ceól is imirt, agus aonach,
Dar liom is é an t-atharach,
Mar atá anocht a n-aonar.
かつてありこの里
集いて歌い遊びしに
われ見るはうつろいて
この夜さびしかり
Méid na n-dochar fuaramar,
O'n tuinn mara go chéile,
A leithéid ní chualamar
D'imtheacht ar dhaoinibh eile.
不幸なるかなわれら
海の波間にありて
かくなること聞き及ばざる
人々の消え失せしとは
Dob' anamh an bailesi
Taobh ré féur is ré fíodhbhaidh,
Ní mhair fear ar n-aithnidne,
Sinn san áitsi leis gé'r bh'iongnadh.
ただ草木ありて
知れるものあらず
われらが生きたるを
見れば驚かむに
その夜リルの子らは、父親と祖父の地であり、自分たちが生まれ育った場所で、甘美な妖精の歌を歌った。そして翌朝早くブレンダンのグローラ島に向けて出発した。
グローラ島の鳥たちの湖の彼らの近くにはその地方の鳥たちが集まってきた。彼らは食べ物を求めて毎日遠くゲーイ島やアキル島、さらにはドンの家などの西の島々にまで遠征し、夜にはブレンダンのグローラ島に帰ってきた。
彼らはそうやって長い間暮らした。キリスト教の時代まで、聖パトリックがエリンにやって来るまで、聖モケモックがブレンダンのグローラ島にやって来るまで。
彼が島に来て最初の夜、リルの子らは朝課の鐘が鳴るのを間近で聴いた。彼らは恐れ慄いてフィノーラ一人を残して弟たちは皆逃げ出した。
「弟たちよ、あれは何でしょう」と彼女は言った。
「わからない、あの恐ろしい音は何なのだろう」彼らは答えた。
「あれはモケモックの鐘の音です」フィノーラは言った。「これでわたしたちは苦しみから解放され、神の御意のままに救われるでしょう」そして彼女は歌った。
Eistigh ré clog an chléirigh,
Togbhaidh bhur n-eite agus éirgidh,
Beirid a bhuidhe ré Dia a theacht,
Agus altaighidh a éisteacht.
聖者の鐘を聴け
翼を広げ立ち上がれ
神の到来に感謝し
その声に耳傾けよ
Córaide dhaoibh bheith dhá réir,
Is é sgarfas sibh ré péin,
Sgarfaidh ribh cairrge is clocha,
Agus sgarfaidh garbh shrotha.
汝ら彼に帰依すべし
汝らを苦痛より救い
岩と石より救い
荒き流れより救い給う
A deirimsi ribhse, dhe
Déanaidh creideamh cóir cinnte,
A cheathrar chaomh Chloinne Lir,
Eistigh ré clog an chléirigh.
われ汝らに告げる
正しき信仰を告白せよ
リルの四人の子らよ
聖者の鐘を聴け
そしてリルの子らは朝課が終わるまで聖者の音楽を聴いていた。
「では、わたしたちも歌いましょう、天と地の至高の王のために」そうフィノーラは言い、彼らは主を讃え至高の王を崇めるため、いつまでも続く美しい妖精の音楽を歌った。
モケモックはこれを聴いて、誰がこの音楽を歌っているのかと神に熱心に祈った。するとそれはリルの子らであると明かされた。朝が来るとモケモックは鳥たちの湖に行き、湖上に白鳥たちを見つけた。彼はそちらの岸に行き彼らに尋ねた。
「汝らはリルの子か」
「いかにも」と彼らは答えた。
「神に感謝を」モケモックは言った。「拙僧がエリンの最果てのこの島まで来たのは汝らのためである。さあ、陸に上がってそれがしを頼るがいい。汝らはここで善きことをなし、罪から離れることが定められているのだ」
それで彼らは陸に上がり聖者を頼った。彼らは聖者と共に生活し、聖務日課に従ってミサをあげた。またモケモックは腕利きの職人に銀の鎖を注文して、イーとフィノーラ、コンとフィアクラの間に鎖を渡した。四人は喜び、聖職者の精神を強くした。そしてこれまで経験してきたような危険や苦難に心を悩ませることもなくなった。
当時のコノートの王はコブサックの子コルマンの子レーグネンであり、イー・アリンの子フィンギンの娘、すなわちマンスター王の娘であるデッカが彼の妻であった。
彼女は白鳥たちの噂を聞いてひどく魅せられ、レーグネンに手に入れてくれるようせがんだ。しかしレーグネンは却下したため、デッカは白鳥を手に入れてくれなければもう臥所を共にしないと言って出奔した。レーグネンは慌てて使者を送り、キル・ダルーアで彼女に追いついた。デッカはそれで家に戻り、レーグネンはモケモックに使者を送って白鳥を要求したが得られなかった。
そのためレーグネンは憤慨し、モケモックの所に自ら足を運んで白鳥を渡すのを拒んだのは本当かと問い詰めた。「左様」とモケモックは答えた。レーグネンは激怒して手を伸ばし祭壇から白鳥たちを掴み取った。すなわち片手に二羽づつ持ってデッカの所に戻ろうとした。モケモックは彼に追いすがった。しかし彼が白鳥たちに手をかけた途端、彼らの羽の衣が脱げ落ち、息子たちからは三人のしなびた骨ばった老人が、娘からは血も肉もない痩せたしなびた老女が現れた。それでレーグネンは肝をつぶして逃げ出した。
そしてフィノーラは言った。
「聖者よ、わたしたちに洗礼を授けてください。わたしたちには死が近づいています。あなたと別れることはあなたよりも辛い。だから後でわたしたちの墓を作ってください。わたしの右にコンを、左にフィアクラを、そして前にイーを埋めてください」そして彼女は歌った。
Tar d'ar m-baisteadh a chléirigh,
Gabh umat agus éirigh,
Glan dinn ar n-iomad smáil,
'Sar g-cionta uile, a chompáin.
聖者よ洗礼を授け給え
われらを引き受け立たせ給え
われらの汚れを清め給え
すべての罪をば除き給え
Guidh-si Dia do dhealbh neamh,
Go d-tigh leatsa ar m-baisteadh;
Gurab luchtmhar ar n-uaigh,
'Sar m-buinn re h-altóir aonuair.
天を創りし神に祈り給え
われらの洗礼の叶うことを
そして祭壇の間近にて
われらが墓を掘り給え
As amhlaidh órdaighim an uaigh,
Fiachra, is Conn for mo dhá thaobh,
Am ucht, idir mo dhá láimh,
A chléirigh cháidh cuir Aodh.
願わくばわが両脇に
フィアクラとコンを
わが胸に、腕の間に
尊者よ、イーを置き給え
O Mochaomhóg an ghlóir ghlic,
Sgarthainn ribh cia doiligh liom,
Déan go h-éasgaidh an uaigh,
Imthigh go luath is tar a n-am.
賢明なるモケモック
汝と別れるは悲しけれど
疾く墓を掘り給え
その時に間に合うべく
この歌の後、リルの子らは洗礼を受け、そして亡くなり、埋葬された。フィノーラの望んだように、フィアクラとコンは両脇に、イーは彼女と対面して。そしてその上に墓石が建てられ、オガム文字で名が刻まれた。彼らのために哀悼の儀式が執り行われ、彼らの魂は天国に導かれた。残されたモケモックは悲嘆に暮れた。
リルの子供たちの運命ここに終わる。