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Amazonと同業⁉ 86年間地域の家づくりを支えてきた秋山木材産業【習志野の仕事と人】

「Amazonのようなネットショッピングなら、本や雑貨はすぐに届きます。でも、木材や建築資材はAmazonでは買えません。それには理由があります。」
そう教えてくれたのは秋山奈穂子さん。秋山さんは、家づくりの材料の流通を専門とする秋山木材産業の3代目社長です。

秋山さんによれば、木材や建材には他の商品にはない運搬の難しさがあるといいます。

「本などのAmazonが扱う商品は、私や皆さんでも運べそうです。重いものは大変かもしれないけれど、段ボールに詰めればお届けはできそうですよね。でも、木材となると話が違います。
住宅用の木材は長さ3メートルほどあるものも多く、段ボールに詰めることができません。ほかの荷物と一緒に扱うのは難しいんです。運ぶにもコツが必要です。本を30冊運ぶことはできても、べニア板30枚を運ぶとなると荷姿が異なり、専門的な知識と工夫が求められます。だからこそ、建築材料を専門に扱う私たちのような業者が必要なんです。」

さらに、木材は一本一本異なるため、運搬だけでなく取り扱いにも注意が必要だといいます。

「お客様の用途に合ったものを大切にお届けするには、やはり専門的な知識や対応が要ります。」

秋山さんの説明を聞くと、普段はなじみの薄い住宅資材の世界が、ぐっと身近に感じられます。


地域密着で86年。変化に応じた材木店の進化

秋山木材産業は、千葉県習志野市に拠点を置く材木店です。創業以来80年以上にわたり、地域に根ざした事業を続けてきました。配送範囲は一貫して、会社からおよそ100km圏内。

「80年前は柱や梁といった木材だけを扱っていました。でもその後建材もおさめるようになり、今では断熱材や石膏ボード、窓、ドア、キッチン設備など、木造の家づくりに必要なアイテムすべてを取り扱っています。配達は、1台のトラックにつき、原則1日に午前、午後の2便を出せるようにしてお届けしています。」

材木店は以前に比べて減っているそう。アイテムを増やすと、扱い方を身につける、一緒に運べないものが出てくるなど苦労もあるそうですが、お客様の求める形で対応してきたからこその今です。いつでも2階建ての木造住宅30棟分以上(!)の住宅資材を常時ストックし、あらゆる注文に即対応できる体制を整えているといいます。


地域の家づくりを支える多彩なプロフェッショナルたち

秋山木材産業には約70名の社員さんが在籍。営業、CADオペレーション、物流など、それぞれの得意分野を活かして働いています。どの業務も家づくりを支える重要な役割を担っており、それぞれに活きるスキルがあります。積算から現場の納期管理までをトータルで担う秋山木材産業にはどんな業務があるのでしょう。

お客様との信頼を築く「営業チーム」

営業担当さんは、お客様と最初に接する窓口です。ざっくりした要望から設計図をもとにした具体的な依頼まで、さまざまな注文に対応します。

「ご契約いただくためには、図面を見ながらお客様と話す場面もあります。『これを建てるには何が必要か』を設計図から読み取るスキルが役立つこともあります。何より大事なのは、お客様との信頼関係を築くことですね。」

建築の知識が求められる場面もありますが、必ずしも理系出身である必要はありません。建築を学んだ経験のある方が多いそうですが、入社後に設計図の読み方を学び、活躍している社員さんもいるとのこと。

「『いいものを教えてくれてありがとう』と言われると、次も勉強して頑張ろうって思いますよね。」お客様からの声が何よりのモチベーションです。

図面から家を形にする「CADオペレーター」

営業担当から渡された設計図をもとに、「木拾い」と呼ばれる作業を行うのはCADオペレーターさんたち。設計図をCADへ入力しながら、必要な木材や建材をリストアップする作業のことを「木を拾う」というのだそう。設計図をもとに、使用する材料や数量を計算して見積りを算出する業務を担うCADオペレーターには、理系出身の方が多いそうです。

「『ここの梁は、太さがこれくらいの木材が必要』という具合に材料を選んでいきます。この工程では、建築や材料について学んだ経験がある人は、その知識を活かせますが、専門知識がない状態で入社しても、問題なく仕事ができるようになります。」

社員さんの中には、「プラモデルを組み立てるような感覚で作業している」と話す人もいるそう。図面を見ながら、リストアップした木材が現場でどう使われるかをイメージし、家が形になるのを想像することが、この仕事の楽しみのひとつなのですね。

現場を支える工夫のプロ「物流チーム」

CADオペレーターがピックアップした情報をもとに、現場への納品準備を進めるのが物流チームの役割です。ここで特に重要になるのが、「荷姿(にすがた)」を整える作業。荷姿とは、荷物を輸送する際の外観や梱包の状態のことなのだそう。どのような順番で積み込むと現場で使いやすい形状になるのかを考えつつ、木材や建材を傷つけることなく運べるよう整えます。

「『秋山邸』『子供部屋』のように配送先がわかるようなラベルをつけて、どこで使う資材なのかによって使う順番に並べたりします。現場での作業がスムーズに進むように、物流チームが配送の際に工夫を凝らしているんです。」

木材や建材の運搬は大きくて重いので体力が必要ですが、社員さんの中には「トレーニングのつもりで働いています」という方もいるそう。他に「現場で大工さんと話すのが面白い」と、それぞれの視点で配送の仕事にやりがいを見出しています。


自分の強みを活かす働き方 文系出身の社長の挑戦

このように秋山木材産業では、社員さんたちがそれぞれのスキルを活かして地域の家づくりを支えています。同じ部署内でも、完全に同じ仕事をしている人はいません。それぞれが少しずつ違う役割を担いながら、家づくりという大きな目標に向かって力を合わせているのです。

「学生時代は文系・理系に分かれて専門分野を学ぶことがほとんどですよね。でも、実際の仕事では、どちらを選んだからできる・できないということはありません。私たちは建築に関わる会社だけれど、理系じゃなくちゃ仕事ができないということはない。図面も、働いているうちに全員読めるようになります。」と秋山さん。

実は秋山さん自身は、文系の道を歩んできました。大学・大学院では日本語教育を専攻。教壇に立って外国人に日本語を教えていた時期もあったといいます。

「家業を継ごうという気持ちはなかったです。高校生のときに留学先でかなり苦労した経験から『日本に来る外国人にはこんな想いをさせないように』と日本語教育をしながら、学者になりたいと思っていました。」

転機が訪れたのは28歳のとき。家族間で相談し、家業に携わることを決めたそう。しかし、ずっと文系の道を進んできたので、建築や木材の知識がない自分にコンプレックスを感じていたといいます。
「その気持ちを振り切りたくて、会社に入ってから二級建築士の資格を取りました。箔をつけなきゃと思っていたんですよね(笑)」

一方で、文系出身だからこそ活きるスキルもあると秋山さんは感じています。
「文系の学問でも考える力・分析する力をものすごく使います。これは社会にでるとものすごく必要な力です。何でこの人はこう考えるのだろうと分析したり、何かを決断するために情報を収集したりする時に、考える力が大事になります。
私は入社前、日本語を教えながら、どう教えれば分かってもらえるかをずっと考え続けてきました。そこで鍛えられた『伝える力』や『考える力』が、今一番役立っていることですね。」


未来への道を切り開く挑戦の価値

「とことんやってみたいと思うことを見つけて、好奇心をもってその事にあたってもらいたいです。」

ご経験から、メッセージをいただきたいです!とお願いすると、少し考えてこう話してくれた秋山さん。

「一生懸命打ち込んだことが、マイナスになることは絶対にないので。この会社に入って何が一番役に立っているかというと、日本語の先生をしていたときに教えてもらった『人前で喋ること』と『どうやって説明したら分かるかを常に考えていたこと』ですね。」

当初思い抱いていたThe文系の道とはまったく別の、新しいキャリアを築いてきた方の言葉に説得力を感じます。

「学生時代に選んだ分野をそのまま仕事にして究め続けるのも素晴らしいことです。しかし、理系の大学を卒業して研究職に就いたとしても、思い描いていたような自由な研究ができるとは限りません。企業では、与えられるテーマに沿った研究を続けることが多く、毎日同じ実験やデータ整理を繰り返すような単調な業務が中心になる場合もあります。それが得意な人には向いていますが、希望していた『研究職』に就けたとしても、必ずしも希望通りとはいきません。」

だからこそ、文系や理系といった枠組み、自分の専門分野にとらわれるより、自分が本当にやりたいことや得意なことを軸に進路を選ぶことが大切だといいます。学んだスキルを、全く別の分野で活かすという選択をしたっていいのです。

「まったく違う職種にいるけれど、『途切れたな』と思うことは一回もないんです。日本語教師としての経験も、その前に留学でつらい思いをしたことも、すべてが繋がっている。経験が応用できる場所はたくさん出てくるし、思い通りにいかなかったことも意味がある。中途半端ではダメで、そのときそのときやりたいことに打ち込んでいくと、常に前を向いて生きられる人間になると思います。」


秋山木材産業と未来をつなぐ仕事

秋山木材産業は、単に木材を届ける材木店ではありません。家づくりを支える総合的なパートナーとして、地域に根ざしながら、多くのプロフェッショナルがそれぞれの力を発揮して働く場です。秋山さん自身の挑戦のように、一人ひとりのスキルが生きる職場であることが伝わってきました。

進路・就職先えらびは、学生にとってこれからの人生を大きく変えるものなので悩むものですが、社会人になって経験が増えると逆に、文理の区別や経験職種などで自分の枠を狭めてしまいがちです。そのときそのときを一生懸命過ごせば、その先でどういう展開が待っていても自分を活かせるという秋山さんの実体験に基づくお話を聞いていると、これまでより軽やかに前に進んでいける気がしました。

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木と、ともに80年 秋山木材産業株式会社

本社:〒275-0001 千葉県習志野市東習志野6-16-31
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