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竹に油は塗らなくても
竹林の中で、私は蚊に刺されまくっている。
額には大粒の汗を浮かべ足が臭い今、私は蚊たちのホットスポットだ。
痛痒さといらだちで動く私の周りで、その何倍ものスピードで動くのは人生の先輩方。平均年齢は70歳を超える。
職種はさまざま、黙々と竹を切り運び出している。
―春が旬のたけのこ。
たけのこ特有の味わいは、私も大好きだ。
昔からその人気は高く、自家栽培し販売していた人が多くいたそうだ。
しかし安価な輸入たけのこが出回り、国産たけのこは売れなくなっていった。たけのこは放置されていった。
しかし彼らはたくましい。人間が面倒を見なくなってもモクモク育っていった。
なんでも、多すぎ・やりすぎは良くないことを私たちは知っている。
いつしか竹は増えすぎた。
竹は上に良く伸びるが根は案外浅く、地滑りの可能性や土砂災害のときに被害を拡大しやすいと、教えてもらった。
そして蚊の拠り所ともなっている。
切られた竹を運び、軽トラに詰め込む。
不器用な私を責めずにロープの結い方を教えてくれた。
視界のほとんどが柳緑(りゅうりょく)色になる。
枝が顔に当たり、葉がサラサラと頬を撫でる。
微力だ。
打ちのめされている私は、ようやく一人の力の限界を知る。
でも踏み出してみた先にはいつも誰かがいて何かがあった。
まだできる気がする。間に合うよ、と。
※竹に油を塗る―竹に油を塗るとよく滑ることから、口達者なたとえ。