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鯨肉を愛するがゆゑに、鯨を見に行つた話 ~小笠原諸島紀行③

Whale watching in Bonin Islands

私は鯨肉が好きで、職場の晝休みにも、何度も鯨料理屋へ食べに行つたことがある。韓國の捕鯨基地がある蔚山へも、鯨を食べに行つたことがある。大學生の時から、折に觸れて食べてゐる。

そんなこともあり、鯨には興味はあつたものの、生きたそれを見たことはなかつた。そして小笠原諸島を旅先として檢討してゐた時、この周邊には鯨がたくさんゐることを知つた。特に、ザトウクジラは2月~4月によく見られるらしいから、丁度いい。それに、ザトウクジラは私にとつて「鯨」の普遍槪念を具現化したやうな存在だ(「鯨」と聞いてイメージする鯨像に極めて近い)。因みに、マッコウクジラもここには來るが、彼らは5月~11月といふことで、今囘は殘念。

今囘の小笠原諸島紀行の3日目。母島を14時に出發し、16時に父島着。宿は、車で20分程の僻地にある(父島・母島では、事前に宿泊施設を豫約できない。世界遺産といふことで、キャンプを禁止してゐるためらしい。そのため、豫約サイトで唯一出てゐた「自然が豊か」と稱する宿に安易に豫約してしまつた)。當然バスは、非常に少ない。母島で知り合つた父島在住者に助けてもらはうかと本氣で思つた。が、この日は半日母島でバイクを乘り囘してゐたばかり。調子に乘り、またバイクを借りた。幸ひにも、16時17分にはバイクを借り終へ、出發できた。

急いだ。宿へ急いだのではない。評判の喫茶店が宿の近くにあり、そこが17時で閉まると思つて、急いだのだ。16時40分に到着した。客達は、歸り始めてゐるころであつたが、何とか間に合つた。確かに、雰圍氣がいい。それに、ここで初めて國產珈琲を飮むことができた。しかも、東京產(嚴密には、父島產)である。が、この至福の時は僅かに20分。やはり、17時閉店であつた。

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ここがそのUSK COFFEE。何と、この店の隣で珈琲豆を栽培してゐるらしい。

喫茶店を出て、また急いだ。この後宿で手續きをして、バイクで20分ぐらゐかけて港近くの展望臺で夕日を眺めなければならなかつたからだ。17時10分に宿へ行き、手續きをし、15分に出發した。大いに飛ばした。そして、展望臺に着いたのが、17時38分。夕日は、見事に沈んでゐた。

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悲しかつたが、よく見ると、小さいながらもあちこちに鯨がゐる。夕日は殘念であつたが、鯨も見られたし、何よりもこの展望臺自體の眺めが壯大である。明日丸1日に及ぶ、ホエールウォッチング・ドルフィンスイム・無人島上陸ツアーを樂しみに、今日はこれで終へようと中心部へ夕食を食べに行つた(食に關しては、後ほど纏める豫定)。

翌朝、ツアー會社より聯絡があつた。「本日は海が荒れてゐるため、ツアーは中止」とのことであつた。これで、小笠原紀行6日間中、每日船に乘るといふ餘り意味の無い私の豫定も見事に崩れた。それでは、今日は何をするべきか。取り敢へず、近くの海岸にでも行くしかなかつた。

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宿近くの小港海岸。港から遠いため、人は全くゐない。何となく、隣の海岸まで步いてみた。その海岸が、「コペペ海岸」といふ名前だつたからだ。

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これが、その「コペペ海岸」。やはり、誰もゐない。

2つの海岸の間には、丘がある。そこを越えてゐるとき、こんな檻がいくつもあつた。どうやら「野猫」捕獲のためのものらしい。固有種を食ひ荒らすとのこと。ただし、一匹もその猫が入つてゐる例は見なかつたが、代はりに固有種のオカヤドカリが入つてゐる檻は多數見た(罠の餌に反應するのであらう)。そんな中でも、この寫眞は珍しくもネズミが引つかかつてゐるもの。

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さう、この日は船が出ず、殘念な氣持ちも强かつたが、代はりに陸上の生物や大自然を堪能することができたのである。

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山道で、大好きな山羊の大群にも遭遇。但し、島では山羊は害獸とのこと。

結局この日は、これらの海岸を散策した後、バイクで父島を一周。しかし、12時前には大雨に遭ひ、バイク運轉中の大雨は、ここまで痛いものかと初めて知つた。仕方がないから、喫茶店でゆつくり過ごし、餘りゆつくりしたものだからこれ以上ゐられなくなり、また宿近くの海岸に戾つてきた。そして、四阿で寢ようとしたが、風が强くて豫想以上に寒く、寢られず。こんな感じでよく分からない時間を過ごしてゐたら、夕方になつた。雨も上がつてゐる。昨日と同じ展望臺で、今日こそは夕日を見ようと向かつた。

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念願の夕日は、見事であつた。雲のせいで、きれいに沈むところは見られなつたが。日沒後は、暗がりの中、密林に潛む戦跡を見に行つたところ、そこは固有種のオガサワラオオカウモリの大量出沒地帶であつた。暗闇の中の戰蹟とカウモリの羽の音の不氣味な調和は、中々忘れ難い思ひ出となつてゐる。

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カウモリを見た後は、晩ご飯を食べ、宿に戾り、翌日の船(所謂ホエールウォッチング)に備へた。備へたといつても、特に何をした譯でもない。早く寢た譯でもない。寧ろ夜更かしした。小笠原特產のラム酒を飮み、ぐだぐだしてゐた。ただ、無事なる出航を祈つてゐたのである。といふのも、明日は小笠原諸島滯在最終日。明日の15時に、東京行きの船は出港する。

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翌日。船は無事に出た。但し、東京行きの船に乘るため、半日コースである。8時半~12時半の4時間に、「ホエールウォッチング」「無人島上陸」「ドルフィンスイム」の3つをこなすといふ、盛り澤山な半日である(本來であれば、1日ツアーで參加する豫定だつた)。

話を端折るが、「ドルフィンスイム」は見事に失敗。イルカの群れに遭遇できなかつた。但し、20分程度のシュノーケリングはできた。イルカと泳げなかつたのは殘念だが、小笠原の海で泳げたこと自體は滿足であつた。「無人島上陸」は成功。僅か40分であつたが、「南島」といふ妙な島を樂しんだ。

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何が妙かといふと、島には大量の卷貝の化石が散亂してゐる。それだけでも面白いが、その化石の貝を固有種のオカヤドカリが利用してゐる。

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鯨は、かなりの數見ることができた。が、いい寫眞を撮るのは難しい。その中でも一番大きく撮れたのは、一番上に揭載したものであらう。餘談だが、この船に乘る前にも、何頭かの鯨を見ることができた。父島でも母島でも、陸上からでも見ることができた。特に、「ははじま丸」から見たものは良かつた。2頭の鯨が、同時に海から飛び出して來たのである。

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母島から父島に戾る途中で。船では、歡聲が上がつた。

今囘のツアーの乘船では、人生に於いて久々に醉ひ止めを飮んで臨んだ(小中學生以來であらう)。「藥に賴つたら負けだ」といふ抗し難い思ひがあつたが、父島到着前のやうに船が搖れたら、「鯨」も「イルカ」も「無人島」もあつたものではなくなるであらうから、飮むことにしたのである。お蔭で、鯨も無人島も難なく樂しむことができたのであつた。


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