ありふれた普通の恋愛こそがいとおしい。私が作家加藤千恵さんを好きな理由。
例えば、地元の空港に降り立ち、もうすぐ実家に帰れるなと感じるとき。
いつ帰ってきても、そこに変わらない風景があることに安心する。
加藤千恵さんの作品はいつもそんな気分にさせてくれる。
恋愛小説を数多く世に出している、北海道出身の歌人であり小説家の彼女の作品は、私を落ち着かせてくれる、帰る場所、だ。
ある作品の解説で、加藤千恵さんの友人であり作家である西加奈子さんが、加藤さんのことを
「普通」で、クラスの人気者の、可愛い女の子、といった風情
と言っている。
加藤さん自身も自分のことを「普通」だと思っている、とも書いてある。
突飛な内容でも、最後にどんでん返しが仕掛けられている作品でもない、彼女からつむがれる「普通」の物語は、
普通の私たちに一番のリアルをくれると思うのだ。
彼氏とのちょっとした喧嘩、友達との他愛のない話、忘れてしまったこと。現在大事にしていること。
でもあえて思い出したりもしない、意識して切り取らなければ時間と共に流れていき、いつかは忘れてしまうような小さな感情の揺れを加藤さんはすくい上げてくれる。
きっと今どこかでだれかが体験している、「普通」を見せてくれる。
それが変わらない、安心をくれるのかもしれない。
そして加藤さんの作品が他の恋愛小説と大きくことなるところは
やっぱり「短歌」だ。
加藤さんは高校生の時に歌人としてデューしています。
(高校生歌人ってかっこよすぎません・・?!)
加藤さんの作品は、短編集のものが多いが、
物語のあとに加藤さんの自由律俳句短歌(五・七・五・七・七の定型にとらわれずに作られた短歌)が載っているのもあり、物語の世界を短歌で楽しむことができ、まさに一度で二度おいしい。
私が一番すきなのはこちらの本。
新古今和歌集に載っている短歌を元に、加藤さんが小説を作成、
そしてその小説を元にまた加藤さんが短歌をつづる。
短歌・小説・短歌のサンドイッチ!
千年も前の歌と現代の歌、言葉や表現は違うけど
考えていること、感じたことって同じなんだってびっくりします。
特にお気に入りなのは
わくらばに天の川波よるながら明くる空には任せずもがな
(訳)ようやく二つの星が会えるという、天の川の波が寄るようなこんな日は、ずっと夜のままで、空が明けるのにまかせないでほしい。
これを加藤さんは
久しぶりに触れた熱さがいとおしい 今は夜明けを寂しく思う
と。なんて素敵なんでしょうか、とうっとりする。
小説って、長編よりも短編の方が少ない字数のなかであらゆる情報をいれ、かつ説明文にはしないで、楽しませるのですごく技術が要ると思うのです。
短歌なんてなおのこと、こんなに短い文のなかで思いを伝えるなんて。
凝縮された美しい言葉を楽しめるのも、加藤さんの作品だから。
以上のことが、作家加藤千恵さんの私の大好きな理由でした。
おまけですが、私の大好きな朝井リョウさんと一緒にやっていた深夜ラジオは本当に本当に面白かった・・・!!!
ぜひまたやって欲しいなぁ。
読んでいただき、ありがとうございました。