ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語8〜
八
夜が全ての音と光を飲み込んだようにあたりを闇に染めていた。その上にうっすらと覆いかぶさる霧は白でも黒でもない曖昧な静寂を描き出していた。星の輝きも山肌も自らの存在を控え、凍りそうな空気に混じる夏の草木の匂いだけが現実を語りかけていた。
ボルボ440は山道の脇に設けられた駐車スペースで休止中だ。
啓介は長時間曲げっぱなしになっていた関節を解きほぐそうと体を動かす。あちこちからぽきぽきという音が漏れてしじまに吸い込まれた。
車の向こう側でニーナが同じような仕草をしてい