ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語1〜
一
スカンジナビアの空に折り重って広がる雲間から、切れ切れにミニチュア細工の風景が流れてゆく。搭乗機の高度が下がるにつれて、マッチ箱が擬態したような家々の色彩が夏の陽を浴びて濃くなってゆく。窓越しの景色にはただ距離感だけが失せていた。手を伸ばせば触れられそうな、そんなありえない立体感が視界に貼りつき日常感覚を揺さぶる。
流れる風景がはっきりとした陰影を宿し、地上のうごめきが徐々に大きくなり始めたとき、意識はゆっくりとモノクロへと吸い寄せられていった。
安達啓介が外務公務