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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語〜

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かつてノルウェーを旅した時の経験を基に書き上げた創作小説です。読んでいただければ嬉しいです。
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記事一覧

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語14〜

十四 沈黙にかかる橋を包み込むように、持ち主不明の光源が無数浮遊していた。一瞬の風が幾度…

KadoyaJPN
1年前

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語13〜

十三 啓介は一人リソイ橋の上から夕日に染まり始めたハウゲスンの街を見渡していた。ノルウェ…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語12〜

十二 車は澄み渡った朝の日差しの中を南へと走る。目指すはサンドヴェという村にあるビーチだ…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語11〜

十一 啓介は午後いっぱいを、モルテンがショッピング・ストリートと呼んだハラルツガータの散…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語10〜

十 一人ぼんやりとフロントガラスの先にある形にならないものを眺めていた。カーラジオからは…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語9〜

九 夜の病棟は凍りついたように静かに、そしてぼんやり異端者を見下ろしていた。自然のもので…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語8〜

八 夜が全ての音と光を飲み込んだようにあたりを闇に染めていた。その上にうっすらと覆いかぶさる霧は白でも黒でもない曖昧な静寂を描き出していた。星の輝きも山肌も自らの存在を控え、凍りそうな空気に混じる夏の草木の匂いだけが現実を語りかけていた。 ボルボ440は山道の脇に設けられた駐車スペースで休止中だ。 啓介は長時間曲げっぱなしになっていた関節を解きほぐそうと体を動かす。あちこちからぽきぽきという音が漏れてしじまに吸い込まれた。 車の向こう側でニーナが同じような仕草をしてい

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語7〜

七 道路脇の木々との距離が次第に近くなってくる。アクセルの踏み込みも強くなってきていた。…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語6〜

六 「あ、啓介、あれがヘッダール教会」 自然をこじ開けるように森林地帯を抜けたあとのやや…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語5〜

五 オスロを離れて二時間近く経ったあたりで、ニーナはランチタイムを提案した。時刻にすれば…

KadoyaJPN
1年前
2

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語4〜

四 中央駅を背に、啓介はぼんやりと駅前広場の人の流れを眺めていた。腕時計が午前十時を指そ…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語3〜

三 「凄い場所ですね、ここ。なんか、こう昔の時代の雰囲気のいい木造建築がずらっと並んでて…

KadoyaJPN
1年前
3

ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語2〜

二 翌日、レンタカーを手配するため中央駅へまず向かった。「小国」ノルウェーは予想しなかっ…

KadoyaJPN
1年前
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ソールヴェイの歌う風 〜ノルウェーの小さな物語1〜

一 スカンジナビアの空に折り重って広がる雲間から、切れ切れにミニチュア細工の風景が流れてゆく。搭乗機の高度が下がるにつれて、マッチ箱が擬態したような家々の色彩が夏の陽を浴びて濃くなってゆく。窓越しの景色にはただ距離感だけが失せていた。手を伸ばせば触れられそうな、そんなありえない立体感が視界に貼りつき日常感覚を揺さぶる。 流れる風景がはっきりとした陰影を宿し、地上のうごめきが徐々に大きくなり始めたとき、意識はゆっくりとモノクロへと吸い寄せられていった。 安達啓介が外務公務