【詩】じごくの空気
人間は地球の空気でしか生きられないし、
火星人は火星の空気でしか生きられないし、
流星は宇宙の空気でしか生きられないから、
地獄の空気でしか生きられない生命もいる。地獄は、
筆画が多くて恐く見えるけど、
ほんとは、なんにもみえなくてなんでもあるとこなんだよ。精神を毀す為の檻みたいに。
あなたの部屋に似てるわね、って言われた。その言葉をのせて
吐き出された息が、一番きみだったような気がした。「寥」って字は、
はらいが多いから、
さびしさとは、はらわれることなんだ、
って気付いたとき、ぼくは語彙力に取り憑かれていて、猫背だ。
はらわれるのなんて一瞬。二月が終わるくらい一瞬。
二月尽って言うものね。顔の窪みに溜まるきみの吐息が
熱すぎる。熱すぎるのを、そういうものだからゆるせ、って言うのがキスという儀式だ。
冬は、天国からはらいの筆の動きで降りてくる。すぅっと地獄の空気をころしつくして、
清澄な世界にする。刃に満ちた世界にする。傷だらけの街に潜っていた
虫のバタつきが、春の息吹だった。そう気付けたとき、
ぼくは旅に出ていた。死が近づくにつれて旅行がたのしくなる。
寝てるときに見る夢は、死の淵にいるときが一番感動的。盛る猫の声だけ聞こえる朧夜。
死を呼んでから寝よう。詩を読んでから寝よう。