短編小説「局部」
「警視庁は2月15日、都内に住む男性会社員を逮捕しました。男性は路上で、下校途中の女子中学生3人に局部を露出したところ通行人により取り押さえられました。昨年8月にも、合わせて6人の女子中学生に局部を露出したとして男性は逮捕されており、男性が逮捕されるのは今回で2度目でとなります。警察の調べに対し、容疑者は『これまでに90人から100人の女性に局部を見せつけた』と供述しており、また犯行動機については『驚いて恥ずかしがるリアクションを見るのがとても快感だった』とも述べており余罪についても——」
「おばあちゃん、局部ってなに?」10歳になる孫娘は、コタツに入り蜜柑を食べながら横に座る私に質問してきた。テレビから流れる知らない単語に興味を持ったのは間違いない。しかしそれは実に困った質問であった。私は腰掛けていた座椅子に深く腰をかけ直し、なるべく端的に答えるように努めた。
「局部ってのは、体の一部で今のニュースが言っていた意味だと……。普段皆が隠しているところのことよ」「ああ、なるほど」孫娘は利発である。私の言い辛そうな様子を察し意味を理解したようだ。
「普段隠してるあんな所を見せて何が楽しいんだろうね、おばあちゃん」「本当よね。変な時代になったもんだよ」私は孫娘に微笑んでみせた。口角をあげ出来るだけ優しい眼差しも添えて。しかし、私の笑顔は孫娘には伝わっていないようであった。顔の半分を覆うマスクが邪魔をしているのである。マスク着用が国で義務化され40年、人の口元に性的興奮を覚える輩が出てくるなど、誰が予想できただろうか。
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