夏のクーニャン①
祖父は夏になると、白いステテコにランニングシャツ姿で部屋をうろついていた。
左腕だったか右腕だったか、そして何番だったかも忘れてしまったが、戦争中に刻まれた数字の入れ墨がチラッと見えた。
「おじいちゃん、それなぁに?」
「これはね、戦争で死んだ時に、誰だか分かるように付けられた入れ墨だよ。」
「痛いの?」
「もう痛くないよ。でもこれを見ると嫌なことを思い出す。」
「ふーん…。」
「戦争はね、絶対に、やっちゃいけないんだよ。人が人を殺すんだから。あんなものは、いかん。」
祖父が棚の奥から軍服とカバンを出して見せてくれた。
「これだけは、捨てないで取っといてあるんだよ。」
「どうして?」
「もう…捨てちゃっても良いんだけどなぁ。何でかなぁ。」
そう言いながら、丁寧に畳み直して元の場所に戻した。
庭の立派な柿の木からは蝉時雨、軒下の風鈴の音が心地良かった、幼い日の夏。
昭和50年代前半、東京都立川市にはまだ米軍基地が残っていた。
たまに駅周辺で、包帯を巻いた軍服姿の男性が物乞いする姿を見た。
(祖母からは、あの人達は本物ではないと聞かされており、寄付をすることは無かったが…。)
続く。。
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