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創作物

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妄想のなれはて。
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夏の終わり

夏の終わり

夏らしいことが出来なかったから、と都内から車で日帰りで行ける自然豊かな場所へと遊びに行った。
訪れた広い広い敷地の向日葵畑。
入道雲と青空、眩しい日差しと広がる黄色い向日葵たちは夏らしさを感じるには十分だった。
「撮るよ」と声を掛けると背の高い向日葵を見上げる彼女が振り向いた。笑うと垂れる目尻がとても愛しかった。
ただ、ひとつ残念なことがあった。
「折角だし、日傘閉じたら?」
スマホに切り取られた

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贄語り

神様が怒って大地をむしりとって、放り投げて出来たのが、あのお山。怒りで出来たお山だから、たまに火を噴き出すんだ。わたしたちの一族はこの麓に住み着き、怒りを鎮めるように神様をお祀りするんだよ。もし、お山が怒ってしまったら、贄になる命が必要だ。
いつ、怒るかわからないから贄は常にいなければならない。
その贄を生み出すのがお前の宿命なんだよ。宿命というのは決まっていること。
初めて自分の股から血が流れた

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ウーヴリエット

目の前の霞める正しい美しさに吐き気を催すばっかり。
暗闇の端で、世界は此処だけだと嘯き、二人で終らない永遠の押し問答。
願わくば、なんの値打ちもない熟れ果てたわたしの切り裂いて、濁った表情を繰り返す虚ろな眼の張り付いた顏が血液に塗れれば至上の。息も絶え絶え、痩けた頬の汚れをわたしが拭おう。
与えられた痛みなど狂った感度にはしあわせを匂わせて、その濃厚な色は何にも変えがたく。闇のように深く。
沈むば

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雨後

雨後

いつまでも、あの時の感覚が甦るのは寧ろ、忘れるなという本能の自戒なのだろうか。

鋭利な刃物で他人を皮膚を刻んだような、その刃物の柄を震える手で握りしめていた惨めな自分の劣情。彼の哀しみを精一杯に押し込めた顔の細部、歪みを隠そうと動く眉毛や治りかけの頬のニキビだとか。

あの頃の自分はまだ思春期で未熟で子供で、と年齢を言い訳に出来る。それは今だったらしない、大人になった俺は成長したのだ、過去の幼い

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