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日記 あたらしい歌集選考会の記録を読むまで
ナナロク社 第三回あたらしい歌集選考会の記録を読んだ。
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丸田洋渡(芸能人を呼び捨てにするように、呼び捨てにする)のことは、第三滑走路経由で知った。
京都に来たばかりの頃、短歌にハマった。兄が鈴木晴香『夜にあやまってくれ』を貸してくれたのがきっかけだった。いろんな歌集を読み始めたのも、浮かれて真似事をするようになったのもこの頃から。青松.輝(同じく)の短歌が気になって、その時発売されていた『untitled』『demotape』『sincerely,』を買った。この頃もう、雷獣はあった。
届いて開けてみると、短歌と詩と日記とが混ざったものが入っていた。その中にこんなことが書かれていた。
僕は詩のなかで「きみ」に暴力を振るう。しかし、同時にその可能性が、詩の喜びを基礎づけてもいた。
(略)
いつか詩の、求心的でカルト的で暴力的なシステムに、同一化してしまう前に。いつかあなたを傷つけることが、知らないでいることを、開き直ってしまう前に。書くことが、詩を傷つけることが、面倒になってしまう前に。
変に抜き出してるから意味わかんないかも。
全部読んでも理解できないまま、でも作品の中の「暴力」という表現をわすれられなかった。わたしは、心に響く大抵のものを理解できていない。
この頃青松.輝といえば、“シャンプーの短歌”だったような覚えがある。
シャンプー 僕は自殺をしてきみが2周目を生きるのはどうだろう
わたしは、この短歌の意味も、どうして周りがこの短歌をいいというのかも、正直よくわからなかった。よくわからないから、この頃はずっと考えていた。(そこから恋が始まる。)
彷徨う中で、第三滑走路と出会った。タイミングよくネットプリントの番号が流れてきた。「A3用紙が8枚出てくるのは単純におもしろい」に惹かれ、印刷してみた。実際ちょっとおもしろかった。その中に、「青松短歌を読み解くための4つのモチーフ」が書かれたページがあった。書いていたのが、丸田洋渡だった。青松.輝のことが、シャンプーの短歌が、より好きになった。
詐欺師から詐欺を取ったらかわいそう 何が残んの 技術以外に
そこから、なんとなく気になり、わたしはnoteを遡り出した。短歌も俳句も日記もあった。
チープな感想だが、彼の目を通して見る世界(日常という意味ではない)を好きになった。すごく近くにいるのに、同じことを感じているのに(ああ)。惹かれるものはあるけれど、ここでもどうしてどこに惹かれているのか言語化できなかった。「わたしだけが知っている宝物!」とでも思ってはしゃいでいたんだと思う。
わたしだけが知っている宝物は、より知っている人がいた。わたしが知る何年も前から活動しているのだから、当たり前の話だ。
別のところでみる夢-丸田洋渡試論 - アオマツブログ (hatenablog.com)
この「丸田洋渡試論」を読んで、誰かに言語化してもらうことでしか、言語化されたものを見ることでしか良さに気づけないじぶんを再認識した。だって、そうそう!こういうことだよね!って思ったから(新人賞のことは考えたこともなかったので、そこはへー!と思った)。こういうミーハーな人間が、流行を作っている。
「一首の中に一個の世界を立ち上げ、〈短歌〉そのものと拮抗しようとする作者の意思」という評が気になった。彼は短歌を作っていながら、■■の短歌と戦っているのだろうか。それを知るには、■■の短歌の方の知識がなさすぎる。読んで、演じているように切り取られた日常の短歌、に敏感になっていく。
わたしにとってのなるほどが詰め込まれているから、短歌を作る人は全員読んでくれー。
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第三回あたらしい歌集選考会の記録を手に入れたのはたまたまだった。
短歌を作るのはたのしくて、送ってみようかなと思って事前登録をしていた。でも、数えてみるとわたしがこれまでに作ったものは50もなくて、ギリギリどころじゃなく参加ができなかった。もし100首あったとして、ほんとうに参加したかは不明である。
生活の変化で以前よりも歌集を手に取るスピードが落ちた頃、ぼーっと見ていたタイムラインに彼の名前を見つけた。 外で声が出て、恥ずかしくなかった。
第三回あたらしい歌集選考会の記録が届いた。参加してなくても届くことに驚き、100首全部を読めるのがすごくすごく嬉しかった。嬉しくて、指を差しながら100数えてしまった。
特にのものを、三つ抜き出す。
ゆめでみたきみは早熟の操縦士それゆえに我慢も多かった
Mint Blue 恋愛は声変わりする Pale Blue 歌える歌が減る
盗賊が盗賊団に変わるときリーダーは青春を感じた
木下龍也が丸田洋渡を井上尚弥と並べて評している部分があり、だったら好きに決まっているか、と思った。
丸田洋渡試論は「書き手はその〈夢〉の世界、まるごとすべての責任を取れるはずだし、取る必要がある」という一文で終わる。ここでいう責任っていうのはどれくらいのことを指すんだろうか。作り出した責任。暴力性や責任を、きちんと理解して創作と向き合っていかなければいけない。わたしも短編は、エッセイは、一緒にしぬつもりで書く。
いちばん好きだった短歌は、書かない。みんなには教えてあげない。なにもかも間違っているかもしれないけれど。教えてあげたくないくらい、彼の短歌にゆめを見ている。
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先日丸田洋渡目的で、文學界を発売日に買った。こういうことが増えていくなら、わたしはシャワーをどこかに感じながらも生きていけるのかもしれない。
なんにもまとまってなくて気持ちだけで書いた。
好きって言ったら好きって言ってない人みんな好きじゃないみたい、読む人をみんな傷つけてしまう。だからわたし、好きって言うね。