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心理的安全性概論①

僕は現在、大学院で「心理的安全性のつくりかた」の研究をしています。

元々は自分自身の課題意識から始まった心理的安全性研究ですが、心理的安全性について知れば知るほど、今の社会に必要な概念であることを痛感し、今回、心理的安全性についての研究をまとめてみようと思いました。

簡単に心理的安全性に関する先行研究をまとめておりますので、気楽に読んでいただければと思います。

心理的安全性とは

心理的安全性という概念は、1965年にエドガー・シャイン氏とウォーレン・ベニス氏によって提唱されました(Schein&Bennis,1965)。

シャイン氏とベニス氏は1965年の文献の中で「個人が安心して変われると感じるためには、心理的安全性を作り出す必要がある」とし、

「心理的安全性は、人々が安心感を得て、変化する組織の課題に対応して自分の行動を変えることができるようにするために不可欠である」と主張しました。

このように、心理的安全性は、個人が安心して変容できるようにするために必要である、という説が始まりでした。

そして、1965年から間が少し空いて、ウェイリアム・カーン氏が1990年に質的研究により、心理的安全性が職場でのエンゲージメントを促進することを示し、心理的安全性に関する研究を活性化させました。

カーンは心理的安全性の定義を

​心理的安全性とは、自己イメージや地位、キャリアへの悪影響を恐れることなく、自分自身を表現したり、利用したりできることである。

としました。

このように、個人変容のために心理的安全性が必要だとシャイン氏が提唱したことを発展させ、カーン氏は、心理的安全性は個人が自分らしさを安心して表現できることである、と心理的安全性の定義を拡張させました。

そして、シャイン氏やカーン氏の提唱する個人の心理的安全性をチームの心理的安全性に拡張させたのが、エイミー・C・エドモンドソン氏です。

エドモンドソン氏の有名な1999年の論文で

チームの心理的安全性とは、「チームは対人関係でのリスクを取るのに安全である」という信念を共有していること

とチームの心理的安全性を定義しました。

このように、心理的安全性の概念は最初は個人単位での概念でしたが、エドモンドソン氏によりチーム単位での概念に拡張され、現在では、「チームの心理的安全性」が最も適切な分析単位であることが明らかになっています(Edmondson,1999 / 2014)。

なぜ心理的安全性なのか

では、一体なぜ心理的安全性という概念が現代社会において注目されるようになってきたのでしょうか。

エドモンドソン氏は2014年の論文で

今日のビジネス環境では、組織内の多くの仕事が協働で行われている。(略)組織の目標を達成するために、専門分野やその他の境界線を越えて協力することが必要である。

と主張しています。

エドモンドソン氏が主張するように、今日では、多くの組織やチームが、一つの専門分野にとらわれることなく多様な専門性を取り込み、コラボレーションをする必要がある時代になっています。

このコラボレーションをする際に必要なのが「地位や立場を超えて自由に発言し合うことができる雰囲気」です。

他分野の人とコラボレーションする際、使用する言語や受けてきたトレーニングによって、分野によって「当たり前」が異なってきます。

ですので、これまでの経歴や地位、立場といったものを超えて当たり前をすり合わせ、お互いに歩み寄る必要があります。

この「自由に発言し合うことができる雰囲気」について、エドモンドソン氏は、

立場や地位を超えて「発言する(Speak up)」ことがミスや事故を防止することにつながる​。

と主張しています(Edmondson , 1996)。

些細なことでも率直に言い合える、聞き合える雰囲気があれば、重大なミスや事故も未然に防ぐことができます。

また、高い心理的安全性を感じている人は発言する傾向が高いことも先行研究で明らかになっています(Edmondson,2014)。

このように、コラボレーションの必要性が高まっている社会状況の中で、ミスや事故を未然に防ぐためにも、地位や立場を超えて自由に発言できる心理的安全性の重要性が見直されています。

心理的安全性がもたらす効果

最後に、心理的安全性が何をチームにもたらすのかについてまとめたいと思います。

まず、何と言っても、高い心理的安全性は、チームの学習を促進し、チームのパフォーマンスを高めることができます(Edmondson,1999)。

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心理的安全性があることで、ミスやエラーについて気兼ねなく共有することができるため、チームとしての学習が促進され、チームの学習が促進されるほどパフォーマンスが高まっていきます。

他にも、心理的安全性はチームに好影響をもたらします。

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上図の解説をすると、まず、心理的安全性があることで情報共有(知識共有)が促進され、チーム学習につながります。

他にも、コンフリクトの頻度が増加し、それをチーム学習につなげたり、イノベーションにつなげることができるようになります。

エンゲージメントも促進されたりと、ポジティブな影響をもたらすことが明らかになっています。

また、ただチームパフォーマンスを向上させるだけでなく、意思決定の質を向上させたり、創造性を高めたりといった効果も明らかになっています。

このように、心理的安全性は組織活動、チーム活動のパフォーマンスを向上させるための土台となる非常に重要な概念になります。

Googleも認めた心理的安全性

心理的安全性のビジネス分野への適用に大きく寄与した一つが、Googleの調査ではないでしょうか。

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Googleの調査をまとめたサイトによると、

Google のリサーチチームが発見した、チームの効果性が高いチームに固有の 5 つの力学のうち、圧倒的に重要なのが心理的安全性です。リサーチ結果によると、心理的安全性の高いチームのメンバーは、Google からの離職率が低く、他のチームメンバーが発案した多様なアイデアをうまく利用することができ、収益性が高く、「効果的に働く」とマネージャーから評価される機会が 2 倍多い、という特徴がありました。

と記載があるように、Googleは心理的安全性が最もチームの効果を高めるために重要だという結果を発表しています。

このように、心理的安全性は学術分野だけでなく、ビジネスの分野にも適用され、今日その有効性が見直されています。

今回は、心理的安全性の研究についてサクッと簡単にまとめたにとどまりましたが、また機会を見つけて詳しい記事を書きたいと思います。

ご精読ありがとうございました。

参考文献

Edmondson, A. C. (1996). Learning from mistakes is easier said than done: Group and organizational influences on the detection and correction of human error. Journal of Applied Behavioral Science, 32(1), 5-28.

Edmondson, A. C. (1999). Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.

Edmondson, Amy C., and Zhike Lei. "Psychological safety: The history, renaissance, and future of an interpersonal construct." Annu. Rev. Organ. Psychol. Organ. Behav. 1.1 (2014): 23-43.

Kahn, W. A. (1990). Psychological conditions of personal engagement and disengagement at work. Academy of Management Journal, 33, 692-724.

Newman, A., Donohue, R., & Eva, N. (2017). Psychological safety: A systematic review of the literature. Human Resource Management Review, 27(3), 521-535.

Schein, Edgar H., and Warren Bennis (1965) Personal and Organizational Change via Group Methods. New York:Wiley.

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