「テスカトリポカ」佐藤 究【読書記録1】
あらすじ
突如、敵対するカルテルによって家族と住処を奪われてしまい、命からがら故郷のメキシコを脱しジャカルタへと逃れたバルミロ・カサソラ。
家族の仇とカルテルの復興のために、情報と資金を集めようと暗躍する。その最中に出会った、日本人の臓器ブローカーと結託して新たなビジネスを確立いていく。
敵カルテルだけでなく仲間からも、その残忍さと冷酷さを恐れられていたバルミロの魔の手が、故郷のメキシコから遠く離れた日本へとせまる。
感想(ネタバレ有り)
・なんといっても残酷な描写が多い。特にバルミロが得意とする液体窒素で凍らせて、本人の目の前で手足を割るシーンなどは目を逸らしたくなるほどだった。それでいて、バルミロ自身は信仰心に厚く常に冷静であり肉体も強いため、より信仰しているテスカトリポカの不気味さと恐怖感が増していく。
・また、麻薬戦争による暴力の次元の違いが凄まじい。描写される町の雰囲気が常に陰鬱であり住民が恐怖に苛まれている。こういった、悲惨な状況な場所があると思うと平和な日本で産まれ良かったと常々思う。
・貧しさと技術力の高さゆえにバルミロに目を付けられ、家族を人質にされ犯罪に加担させられるパブロ。与えられたカスタムナイフ制作の仕事で弟子でもあり息子のように可愛がっていたコシモも同様に加担する。
仕方のないことだと思いつつ罪の意識に苛まれる日々。そんな日々に懺悔するかのように、コシモに亡き父の教えを伝え涙する場面は非常に胸に込み上げるものがあった。暴力しか知らなかったコシモにそれだけじゃなく慈しみや優しさもこの世界にはあることを伝えているように感じてよかった。