【会計処理メモ】現代美術作品の制作展示報酬と源泉徴収義務
はじめに、今回は確定的な結論はありません。
所得税法上、源泉徴収が必要な報酬・料金等は限定列挙されています。
セミナー講師個人に対する謝礼や弁護士や税理士個人に対する料金などがよく知られています。
その中で、アートや美術に関わる区分といえば、特に「デザインの報酬」と「著作権の使用料」です。
ただ、「デザインの報酬」は、製品やインテリアといった工業・商業デザインに限られています。
そのため、よりアートや美術という観点で複雑に関わってくるのは、「著作権の使用料」です。
国税庁が毎年出している「源泉徴収のあらまし」において、「著作権の使用料」として列挙されている具体例としては、映画の原作料や著作物の放送等があります。
その多くは、JASRAC等の管理団体が著作権を管理しているため、源泉徴収が必要な報酬に該当しません(源泉徴収義務はほぼ対個人であるため)。
ただ、美術の世界では、世間が周知の管理団体がないこともあり、制作者個人が著作権を持っていることのほうが多いのです。
そうなると、そのアーティストフィーは、著作物の展示に対する報酬となり、源泉徴収が必要となります。
ここで問題になってくるのは、著作権の根拠となる著作権法が古典的な絵画や彫刻などを対象として想定している一方、現代美術(現代アート)での実体を伴わない展示手法等をそもそも想定していないことにあります。
極端な例にはなりますが、有名なところでマルセル・デュシャンという芸術家の「泉」という作品があります。
この作品は、男性小便器にデュシャンのサインを書き入れただけのものです。
既製品を展示し、それを選択した意味を解釈することにアート性を見出しているわけですが、ここに著作権は発生しているといえるでしょうか?
裁判となった事例もあります。
金魚電話ボックス盗作裁判です。
この裁判例にもありますが、現代アートと著作権の関係は個別ケースで判断する必要があるのです。
ここから話を所得税の源泉徴収に戻します。
芸術家に絵画を制作してもらい、展示したとします。そして、その芸術家にその対価として、報酬を支払いました。これは明確に「著作権の使用料」として源泉徴収が必要です。
一方、芸術家に現代アートを制作してもらい、展示したとします。
そして、その芸術家にその対価として、報酬を支払いました。
行為としては上と同じなのですが、急にここで現代アートの著作物性を考える必要があるわけです。
税の専門家で、かつ現代アートの専門家の登場が望まれます。そうでないとほぼお手上げです。